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第27話 調査と助言

ミリアはまっすぐ王城へ戻った。

胸の奥に残る痛みを振り払うように、執務室に籠もる。


(なんとかして——)


ダンたちを助けたい。そして理解してもらいたい。


街で起きていることを、知らないふりはできなかった。


——パンがない。

——肉が消えた。

——仕事が減った。

——盗みや強盗が増えた。


一つひとつは、王城にいるだけでは見えにくい小さな変化だ。

けれど、あまりにも急に起きている。


なぜこんなことになるのか。

父王が治めていた国は、そんなに脆くはないはずだ。


「……理由があるはずよ」


ミリアは、城に集められた報告書を毎日読み漁った。

不作の記録。

港の入出港履歴。

主要街道の事故報告。

交易品の輸入量。


どれも、致命的な異常はない。

南部に一部不作は出ているが、全体を揺るがすほどではない。

港も正常に稼働している。

商船の遅延も、ここ数年の平均と大差ない。


「……おかしいわ」


物流は滞っていない。

供給は、数字の上では足りている。


それなのに、物価だけが上がっている。

理由が、見えない。


机に広げた書類の山を見下ろしながら、ミリアは小さく息を吐いた。

調べているのに、答えに辿り着かない。

王になったはずなのに、何一つ掴めない。


そんな時、マグリットから声がかかった。


「王太后様のお具合が、あまりよくないようです」


ミリアはすぐに席を立ち、母の部屋へ向かった。


部屋に入ると、マルセラは寝台に腰掛けて、静かに窓の外を眺めていた。

顔色は以前よりさらに悪く、目の下の影も濃い。


「お母様……」


声をかけると、マルセラはゆっくり振り返って微笑んだ。


「街のことを調べているのでしょう」


気づかれていた。


「……はい。でも、原因がわからないのです」


ミリアは正直に言った。


「不作は一部だけ。港も問題ありません。交易も止まっていないのに、物価だけが上がっているんです」


マルセラはしばらく黙ってから、静かに答えた。

窓の向こう、遠くの空を眺める。


「ちょっとしたきっかけで、値段が連鎖的に上がることはあるの。恐怖や不安が、商人たちを慎重にさせると……ドミノ倒しのようにね」


「では、一時的な……」


「ええ、もしそうなら。一時的なものよ」


マルセラは小さく息を吐いた。


「国の貯蔵庫から配給しようとしたのだけれど……議会が通さないと言われてしまったわ」


ミリアは思わず眉をひそめる。


「……派閥争いですね」


「そう、なのだけれど……」


マルセラはそこで言葉を止め、少しだけ視線を逸らした。


「何かあるのですか?」


「……いいえ。なんでもありません」


そう言ったものの、その顔色は明らかにさらに悪くなっていた。


ミリアは胸の奥がざわつくのを感じながら、立ち上がる。


「ゆっくり休んでください。私が王として、なんとかしますから」


自分でも、自信があるわけじゃない。

しかし、衰弱した母にこれ以上負担をかけたくなかった。


部屋を出たあと、ミリアは廊下の窓から城下を見下ろした。

夕暮れの街は、相変わらず静かで、何も変わっていないように見える。

けれどあの屋根屋根の下で、人々はため息をつき、パンがなくなる不安に怯えている。


本当に、一時的なものなのだろうか。母の言葉を信じたい。

胸の奥には、言葉にできない不安が残っていた。


とにかく、不作も物流の異常もない。

だからこれは……一時的なもの。


それをダンに伝えたいと思った。

もう、元の関係には戻れないとしても。

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