第24話 疲労と薬酒
「マルセラ様!」
ヴェラは、突然崩れ落ちた王太后を支えた。
ひどく顔色が悪い。
「ああ、ごめんなさい。大丈夫よ、少し目眩がしただけ」
マルセラはゆっくり姿勢を戻すと、また歩き始めた。
国王崩御から一月半。
王太后マルセラの衰弱は誰の目にも明らかだった。
まだ若い国王の突然の死、未熟な女王の補佐、その上議会は派閥争いで決まるものも決まらず、城下では民が物価高に苦しみ、南部の不作が重なり――
マルセラは弱った体に鞭打って、毎日の政務をこなしていた。
彼女とて、政務に慣れているわけではない。
助言を受け、真面目な文官に支えられて、なんとか状況をよくしようと戦っていた。
けれど、一向に改善の兆しは見られない。
何か大きな壁に阻まれているような、そんな無力感を感じ始めていた。
「王太后様、やはりとてもお顔の色がすぐれないようです。少しお休みになっては」
若い文官にも心配されてしまう。
マルセラは苦笑した。
「疲れてはいますが、民の苦しみを思えば休んではいられません」
そう言って書類に目を落とすが――くらり、と目眩がして視界がぼやける。
「……では、少しだけ。いっときほど部屋で休みますね」
マルセラは笑顔でそう言って、執務室を出た。
ヴェラは心配でならなかった。
ここのところ、衰弱が激しい。
睡眠は足りているはずだが、目の下の影はどんどん濃くなっていく。
肌の艶も失われ、異変は化粧では誤魔化せないほどになっていた。
食も細くなり、ほとんど食べずに過ごされる日も増えてきた。
そんな中、マルセラが唯一望むのは――
「ヴェラ、あの薬酒をお願い」
「……今日の分はもう朝にお飲みになりましたが」
「そうね、でもお願い。あれを飲めば楽になるから」
「…………」
それ以上、ヴェラは止めることができなかった。
白い瓶から銀のカップに薬酒を注ぎ、手渡した。
「ふぅ」
薬酒を飲んでしばらくすると、マルセラの視線がはっきりとする。
ふらつきもなくなったようだ。
「ありがとう。それでは、執務室に戻りますね」
顔色は変わらず悪い。
それでも、マルセラはしゃんとした足取りで部屋を出ていった。
確かによく効く薬酒だけれど――効きすぎる。
何かが……おかしい。
ヴェラは、残り少なくなった薬酒の瓶をじっと見つめた。




