第22話 責務と孤独
父王がいなくなっても、人々の営みは止まらない。
毎日のように決裁を仰ぐ書類が届き、それにサインできるのは女王であるミリアだけだった。
「女王陛下、こちらの書類にサインを」
「女王陛下、ティグレニアの使節に謁見を」
「女王陛下、宮廷行事の延期はどのように」
「女王陛下」
「女王陛下」
理解しようとする。
書類を読もうとする。
けれど、サインをしていいのかダメなのかはわからない。
ただ、周りにいる人を信じて、サインするしかなかった。
言われたままに頷くしかなかった。
自分はこんなにも無知で、弱い。
呆然とするミリアに王太后は言った。
「いきなり全てわかろうとしなくても大丈夫ですよ。私がお支えしますから」
母は、政務を理解しているようだった。
判断を下し、断るべきは断っていた。
ミリアは喪服の袖を摘んで、情けなさに下を向く。
「陛下」
マグリットの声が飛ぶ。
「わかるようになりましょう。大丈夫です。王太后様もいらっしゃいます。今から、やっていくしかありません」
「はい」
ミリアはそう返事したものの、何をすればいいのかわからないままだった。
先王が亡くなって1ヶ月経っても、ミリアに大した変化はなかった。
次々と訪れる客に決まった言葉で挨拶し、言われた通りに決裁を述べ、書類にサインし、印璽を押した。
目の前を滑っていく書類の文字は読めても、その深い意味はわからない。
「……疲れた」
ミリアは窓から外を見る。
思い出すのは白い花畑。
いつの間にか肌寒さを感じる秋になっていた。
あの白い花ももう終わっているだろう。
「……ダン」
その名をつぶやいた時、つ、と涙が一筋頬を伝う。
会いたい。
もう一度だけ、会いたい。
ミリアはその思いを止めることができなかった。




