第21話 崩御と即位
国王の崩御。
通夜、国葬、各国から弔問客――
儀式と弔辞が続く中、ミリアは「国王」になっていた。
地方視察の帰り、雨で緩んだ地盤が崖崩れを起こし、流されるように父を乗せた馬車は谷底へ落ちた。
捜索の兵たちが崖下で見つけた時には、馬も人も、生きているものはなかったと、そう聞いた。
「女王陛下」
呼ばれても実感はわかない。
つい先日「王太女」になったばかりだというのに。
「お疲れでしょうが、埋葬の儀式まではこらえてくださいませ」
マグリットは黒礼装に薄い黒ベールをつけ、崩御に関わる儀礼を取り仕切っている。
女王となったミリアはただ言われたままに着替え、歩き、言葉を述べ、そして祈った。
国王崩御と同時に、王太女が王位につく。
頭ではわかっていたはずなのに、実際起きてみると意味がぼんやりと遠くに感じる。
「お父様……」
誰にともなく呟くと、周囲の者たちから啜り泣きが聞こえる。
城の裏手を少し行ったところに、王家の霊廟がある。
霊廟の祭壇の前で大神官が鎮魂の祈りを捧げる。
この霊廟を守るのは父王の弟に当たるウルス大神官だ。
父の名が刻まれた小さな石碑が、祖母のものの隣に静かに置かれる。
祭壇をぐるりと囲む壁には四大精霊神の象徴が描かれ、ガラスの天窓から光の精霊神が祭壇を柔らかく照らす。
祈りの声がやむと、近衛の騎士たちが棺から父王の遺体を運び出す。
遺体は損傷が激しいとのことで、布に包まれたままだった。
霊廟を抜けた先には禁足地があり、そこで王族は皆、土に還る。
もはや顔を見ることも叶わぬ父を、ミリアは静かに見送った。
王太后となった母マルセラは、黒いベールの下でわずかに涙を流していた。
悲しんでいるのだろうか。
ミリアは自分が何を思っているのかわからない。
父を失った。
王を失った。
その喪失の意味が、まだ理解できないのだった。
春先に開けたばかりだったが、コルレド王国は夏の終わりにまた喪に服すことになった。
秋の収穫を祝う祭りは控えめなものになるだろう。
城の中は黒い服の人々が忙しく動き回って、次になすべき事を話し合っている。
埋葬の儀式が終わって部屋に戻ろうとした時、母マルセラに呼び止められた。
「私の部屋へ」
促されるまま部屋に入ると、王太后となったマルセラはミリアを抱きしめた。
「こんなことになって」
マルセラはミリアを抱きしめて泣いていた。
「……あなたに、こんなに早く重責を負わせることになるとは思っていませんでした」
ミリアも胸の奥から何かが溢れ出てきた。
「お母様……」
ぎゅっと抱きしめ返す。
自然と涙が溢れてきた。
「あなたはもう、この国の王。女王陛下と呼ばねばなりません」
「そんなの、急に」
「だから、今だけは、今日だけはね、ミリア。私の可愛い娘」
「……あ、ああっ……うっうっ」
ミリアはそこから堰を切ったように声をあげて泣いた。
不安と重責と、逃れられない立場。
なんの覚悟もしていなかった、愚かな自分。
その夜だけ、ミリアは王太后マルセラの部屋で夜を明かした。




