表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/19

第14話 ビオラ・ドリュー:追込み

 ビオラは極上の笑顔で微笑んだ。

「ええ、まるで木漏れ日をまとった花の精霊のよう。ふふ、お嬢様のその少し照れたようなお顔……どんな殿方も夢中になってしまいますわね。」

 夫人が嬉しそうに目を潤ませる。

 令嬢は恥ずかしさに頬を赤らめた。


 この瞬間、ビオラは偽りなく幸せな気持ちになる。未来がどうであろうと、今この幸せは本物だから。


 布を少し傾け、ビオラは肩のデザインを変える。ゆったりと膨らませて。薄い肩により映える形に。

 「こちらのスタイルなども、素敵でしょう?流行を皆様より先取りされるならこちらかと」

「まあ……!!」

 令嬢はうっとりと頷く。

 サロンに入ってきた時の弱気な瞳はすっかり消え去っていた。

 ビオラは微笑む。

(そう、その自信が美しさの本質。ドレスはそれを支える道具にすぎない)


「先ほどの生地も良いものですしお手頃ですけれど、こちらのセリム織、ここまでお嬢様にお似合いだとは……本当に私も驚きましたわ」

 ビオラは苦笑する。(お高くなってしまいますがどうしましょう?)と言った顔で。

「ねえ、お母様……」

 令嬢は哀願する目で母親を見つめている。

「そう、ね。」

 ビオラは控えめに微笑む。

「仕立ては私どもの最高の職人が丁寧に縫い上げます。お嬢様の魅力を余すところなく引き出しますわ」


 細かい仕立ての内容に話を移す前に、ビオラはチラとソファの方をみやる。

「それにしても……このご様子ではきっと、どの舞踏会でも皆さまの視線をさらってしまいますわね」

 母娘に微笑みながら、ソファに座ったままの子爵の様子を伺う。

 子爵の顔色は……少し曇り気味だ。無理もない。

(そろそろ、“踏ん切り”をつけて差し上げる頃合い)


 ビオラはさりげなく視線を送る。

 会計担当が、流れるように歩み寄った。

「子爵様、本当にお綺麗なお嬢様でいらっしゃいますね。あの布地も幸せです。もしお支払いがご不安でしたら……どうぞご心配なく。今は分割でのお支払いが主流となっておりますので、ご無理のないように調整させていただきます。」

 子爵がピクリと反応する。

「収穫期のご収入に合わせてまとめて支払える方法や、不作など何かあった場合は長期契約への組み直しも承っております」

 夫人は夫の横に座りその袖の端をつまむ。

「あなた、この子がこんなに綺麗に……。ねぇ?」

 子爵はため息をつきつつも、娘の輝く顔に逆らえない。

(……決まりね)

 ビオラは、ほんの少しだけ目を細めた。

「どうかご安心くださいませ、子爵様。お嬢様の一生に一度の晴れ舞台。ご満足いただけるドレスをお約束いたしますわ。」

 ビオラは決して距離を詰めることなく、丁寧に言葉を選ぶ。

 子爵はついに、頷いた。

「……お願いしよう」

 ビオラは優雅に膝を折り、少し頭を下げる。

 令嬢の顔が輝いた。夫人も嬉しそうに娘を見つめている。

「ありがとうございます。それでは――お嬢様、デザインはいかがいたしましょう?」

(これでいいのよ。夢を見る時間は、いつだって……美しいものだから。)


 手袋や下着、靴、髪飾り、扇子に外套、あれこれを揃えていくと、あっという間に予算の倍ほどの額になる。

 そういうものですと納得させられ、子爵は契約書にサインした。


 仮縫いの打ち合わせが済むと、子爵一家は店を出て馬車に乗り込んだ。

 ビオラは店員たちを従えて優雅な笑顔で見送る。少し時間がかかったが、悪くない成果だ。


 ふうっと大きく息を吐くとポタポタっと雨粒が石畳に模様をつけた。


「雨……」


 見上げると重い雨雲。


 あの時のような――

 降り初めの雨の匂いがビオラの重い記憶を呼び覚ました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ