第一話 夜のランデブー
---三人称視点---
時は2025年10月上旬。
カルフォルニア州のサンフランシスコ。
窓辺から海が観えるレストランの二階で、
二十代前半の二人の男女が食事を摂っていた。
男の方は197センチの白人男性だった。
黒いジャケットと白いシャツ。
黒いスラックス、黒いスニーカーという黒づくめの格好。
細そうに見えるが、実はかなりの筋肉質。
所謂、細マッチョというやつだ。
そして周囲の客がちらちらと視線を向けていた。
それもその筈、何故なら男の方は、
二十三歳のMLB天才投手のトッド・ステアーズだからだ。
今シーズンのレギュラーシーズンの成績は、
防御率1.95、23勝6敗という驚異的な数字。
だが女性の方もこれまた有名人であった。
身長175センチの白人女性。
グレイの瞳に金髪のセミロング。
服装は黒い細身のワンピース、黒いヒールというスタイル。
MLB天才投手に対して、
こちらは絶賛売り出し中のシンガーソングライター。
二十三歳のセラ・ローレン。
云わば、若者のスーパースターが
対面に座りながら、食事を摂っているのだ。
尚、トッドは大好物のTボーンステーキに大盛りのライス。
それをトッドがナイフとフォークを使って、豪快に食べていた。
一方のセラ・ローレンは、
好物のカフェオレ、ホットサンドという軽食。
トッドが勢いよく食べる姿を見て、
セラは少し目を丸くして、トッドを見ていた。
「凄く美味しそうに食べるわね」
「ムシャムシャ、ああ。 Tボーンステーキは大好物なんでね」
「だからそんなに背が高くて、体格が良いのかしら?」
「さあ、でも親父もお袋も背は高いよ」
「しかしアナタも意外と奥手ね」
「ん~? そうかなあ?」
「ええ、あの始球式が終わってからも、
何度か会ったけど、携帯番号とラインID交換したのは、
三度目に会った時よ、しかも大体は私がメッセしてたし」
「いやあ~、シーズン中はベースボール中心の生活なんでね」
「意外とストイックなのね」
「これでもメジャーリーガーなんでね」
「それで女性の目の前で、
Tボーンステーキを二人前も平らげる。
アナタみたいな男性はあまり観た事はないわ」
「……幻滅したかい?」
トッドの言葉にセラは「ううん」と首を左右に振った。
そして優しげな微笑を浮かべる。
「いえ、なんか気に入ったわ」
「キミは……セラは小食なんだね」
「こう見えてもギタリストですからね。
手が汚れる食べ物は苦手なのよ」
「成る程、プロ意識が高いんだ」
「う~ん、そうかもしれないわ」
「……この後、時間ある?」
「あるわよ」
「ならちょっとバーでも行かないかな?」
「バーか、いいわね。
少しお酒も飲みたい気分だし」
「じゃあ行こうよ、ここから結構近いよ」
「うん、いいわよ」
トッドが案内したのは、
アメリカン・ダイナーをコンセプトにしたアフタヌーンティーを提供するカフェバーだった。
昼間は甘いケーキと紅茶が楽しめるアフタヌーンティーを提供するカフェだが夜はバーになる。
カフェのときはもちろん、バーのときも美味しいケーキを提供してくれる。
お酒も甘い物が多くて、
マスターは、甘い物が大好きな元有名パティシエだ。
「へえ、なかなかお洒落の店じゃない」
「だろ? スイーツもお勧めだぜ?」
「それは後で決めるわ。
マスター、まずはスクリュードライバーを頂戴」
するとカウンターの中年男性のマスターは――
「スクリュードライバーか、良いセンスしてるね」
そう答えて、手際よくスクリュードライバーを作った。
材料はウォッカにオレンジジュースと大きめの氷。
割合はウォッカ:オレンジジュース=1:4。
まずはコリンズグラスに氷を入れて、
ウォッカを30ml入れる。
オレンジジュースをアップしてグラスを満たす。
バースプーンでステアして見事に完成。
「あら、流石はプロね。 完璧だわ」
「どうも、さあ召し上がれ。
それでトッドは何を飲むんだい?」
「それじゃオレはマティーニのショートカクテルで!」
「あいよ、少々お待ち!」
冷やした脚の長い逆三角形のグラスに、
黄金比の「ジン:ベルモット=4:1」の割合でカクテルを作った。
「お、黄金比率だね。 流石マスター」
「あいよ、出来たよ」
「あざっす!」
マスターからマティー二の入った脚の長い逆三角形のグラスを受け取るトッド。
「じゃあ、とりあえず乾杯しよう」
「ええ、乾杯っ!」
トッドとセラがグラスをコツンと合せた。
そして二人は二口ほど、グラスに口をつけた。
「うん、相変わらず美味い」
「ええ、絶妙の配分ね」
「二人の口に合ったようで何より」
マスターがそう言って、微かに笑った。
「なかなか素敵なデートね。
MLBのスーパースターと一緒に夜を過ごせるのは、
なかなか体験出来ない事よね」
「そりゃどうも、オレもセラ・ローレンと
ご一緒できて、男冥利に尽きるというものさ」
「この後は何処かへ連れてってくれるの?」
と、軽く探りを入れるセラ。
だがトッドは満面の笑顔を浮かべて――
「他にも良いジャズ・クラブがあるんだけど、
それはまた今度にしよう。
今夜はこの店で一緒に酒を楽しもう」
「そうね、まだ初デートですしね」
「嗚呼、最初から三球三振やホームランは狙わない。
まずはバントやエンドランで相手の様子を見る。
これがトッド・ステアーズ直伝の恋の駆け引きさ」
「何よ、それ? でもなんか面白いわね」
セラがスクリュードライバーの入ったグラスに口をつける。
それをトッドが楽しそうな表情で眺めていると――
「それでは本日のスポーツ・ニュースをお伝えします。
ロサンゼルス・ドアーズの二刀流選手、
大月翔太がこのポスト・シーズンでまたやってくれました」
バーの壁に固定されに液晶テレビから、
三十前後の男性アナウンサーの声が聞こえてきた。
「あら、アナタのライバルじゃない?」
「まあね、でも今年はサイ・ヤング賞は取ったけど、
ポスト・シーズンは出場出来てないからな。
でもそのおかげで君と夜のデートが出来たから、
オレにとっちゃ良い話さ」
「うふふ、非常にポジティブな性格ね。
そういう人って好きよ」
「そいつは光栄だな」
その時、液晶テレビから大歓声が聞こえてきた。
「そして大月翔太がこの試合でもやってくれました。
迎えた6回裏にホームランを打ちました」
大月がフルスイングして、
ホームランを打つ映像がテレビに映る。
するとトッドは両肩を竦めた。
「やれやれ、奴はポスト・シーズンでも主役のようだ。
でもそれも今年までさ、来年はこのオレが奴を倒す」
「なんかコミックみたいな台詞ね」
「おうよ、オレはコミック大好きだぜ」
「アナタってアメリカン・ヒーローを具現化したような存在ね」
「そいつは最高の褒め言葉だぜ」
「うふふ、面白い人」
こうしてトッドは、セラと深夜まで酒を飲み明かして、
お互いにとって素敵な時間を共有した。
無論、大月の活躍に思うところもあったが、
今夜は純粋にセラと過ごした時間を心から喜んでいた。




