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Silver Slugger  作者: 如月文人
Main Story
3/11

第三話 いぶし銀


---誠也視点---



 2025年のMLBのオールスター戦も終わって、約一ヶ月後。

 アメリカの真夏は日本と同じく湿度も高く気温も高い。

 俺が所属するシカゴ・パプスの本拠地のシカゴは、

 8月の平均気温は約21度から約27度くらいだ。


 日によっては真夏日になるので、

 最近は試合以外の時はTシャツに半袖シャツ。

 ハーフパンツなどの涼しくて動きやすい服装にしている。


 ちなみにこの8月27日の時点での俺。

 鈴本誠也すずもと せいやの成績は、打率二割四分三厘。

 本塁打27本、そして打点に関しては87だ。


 尚、のスーパースター大月翔太おおつき しょうたは、

 打率二割七分九厘、本塁打45、84打点。

 また投手としては0勝1敗の防御率4.61だ。


 なので日本だけでなく、全米中が大月の毎日の動向に注目している。

 だが最近は自分で言うのもアレだが、

 俺こと鈴本誠也すずもと せいやの注目度も上がっている。


 現時点で4年連続二桁本塁打を達成。

 大月ばかりに注目がいきがちだが、

 これはこれで快挙では?


 ――大月も怪物だけど、誠也も充分、化け物だ。


 ――俺は誠也の方が好きだ。


 ――シルバースラッガー賞も狙える成績だ。


 ――まさにいぶし銀の活躍だ!


 などというネットの声が増えている。

 え? 何で知ってるかって?

 そりゃエゴサしたんだよ、エゴ・サーチ。


 正直言えば今シーズンの俺は怖いくらいに絶好調だ。

 本塁打もさることながら、打点ではトップ層に食いついている。


 そういう俺を記者やファンは「まさにいぶし銀」の活躍と沸き立つが、

 俺自身は「いぶし銀」と言われて、悪い気はしてない。


 アイツは……大月はまごう事なき金、ゴールドだ。

 対する俺はちょっと金という感じではない。

 でも現時点の成績は、大月を除けば、

 日本人メジャーリーガーとしては、トップクラスの成績だ。


 このまま成績を伸ばしたら、

 もしかしたらシルバースラッガー賞も狙えるかもしれない。


 シルバースラッガー賞とは、

 MLBの各リーグ(ナリーグとアリーグ)で、

 その年のシーズンで最も打撃成績が優秀だった選手に贈られる賞だ。


 尚、大月は昨年までに二年連続、通算三度もこの賞を取っている。

 この成績はあのレジェントのコジローさんと並ぶ快挙だ。


 だが俺は大月と同じナ・リーグ。

 更にはポジションは基本的に大月と同じ指名打者(DH)だ。

 だから俺がシルバースラッガー賞を取るには、

 大月を押しのけて、その座につく必要がある。


 ……。

 今年に限っては、大月が居なければ、

 俺がシルバースラッガー賞を受賞する可能性は十二分にある。


 アイツさえ居なければ……。

 と思うのはプロとしては失格。

 だがメジャーリーガーも一人の人間。


 だからそう思う事がないわけでもないが、

 俺はあくまで一人の日本人メジャーリーガー。


 四の五の考えず、グラウンドで結果を出す。

 というのが最近の俺の信条である。


 そして今日の試合は今後のペナントレースを占う大事な一戦になるであろう。

 今日――2025年8月27日の試合は、

 SFサンフランシスコティターンズの本拠地レヴェレイション・パークで行われる。


 ティターンズは今年も絶好調の天才投手。

 トッド・ステアーズの予告先発が告知されている。


 トッド・ステアーズは、ここまで17勝5敗、防御率1.85。

 順調にいけば、今年はサイ・ヤング賞も受賞出来るかもしれない。


 だが俺達――シカゴ・パプスも地区優勝する為にも、

 ここは勝っておきたいところだ。


 と思ってるとチームメイトのガイル・ダッカーが

 俺の傍に寄って来て、興奮気味に話掛けてきた。


「おう、セイヤ! 今日の始球式は、

 あのセラ・ローレンが行うんだぜ!」


「セラ・ローレン? 誰それ?」


 するとダッカーはやや呆れた様子で――


「バーカ、今をときめく女性シンガーソングライターじゃねえか!

 というかセラ・ローレンを知らねえってありえねえし……」


「いや俺は日本人だし、アメリカのミュージシャンには疎くて……」


「馬鹿、それでもセラ・ローレンは知っておけよ。

 トロトロしていうと、彼女の始球式に間に合わんぞ。

 今すぐロッカー行って着替えるぞ!」


「お、おう……」


 ヤベえな。

 最近野球漬けで流行の曲とかミュージシャンとか分かんねえよ。

 でもそんだけ有名なら、観ておく価値はありそうだな。



---三人称視点---


 カリフォルニア州サンフランシスコにある野球場。

 レヴェレイション・パークのマウンドに一人の若き女性が立っていた。


挿絵(By みてみん)


 彼女の名前はセラ・ローレン。

 23歳の白人女性、身長175cm。

 グレーの瞳に、両耳たぶにひとつずつピアス。


 黒い細身の半袖ブラウス、黒いタイトミニスカート。

 黒いスニーカーという黒づくめの格好だ。


 本当は黒い細身のワンピース、黒いヒール。

 といったいつもの格好でこの場に来たかったが、

 今日は彼女が始球式を務める。


 彼女、セラの本職はシンガーソングライターだが、

 少女時代に男の子に混じって、

 リトルリーグに所属していた過去がある。


 当時、投手も務めていたので、

 この日の始球式に向けて、投球練習を行っていた。


 彼女の目標はノーバウンドで、

 キャッチャーミットにボールを収める事だ。


 やるからには本気でやる。

 ステージ以外では寡黙な彼女だが、

 その芯にあるのは、「高いプロ意識」だ。


 例えエンターテインメント向けの始球式でも

 やるからにはベストを尽したい。


 その為には、いつも黒い細身のワンピース、黒いヒールでは、

 ちゃんとしたフォームで投球出来ない。


 だから自分の拘りを棄てて、

 投球しやすい格好を整えた。


 そして観客に向けて、彼女はこう叫んだ。


「この国は自由よ。音楽と同じでね。

 そしてベースボールも自由に楽しもう!」


 すると観客席の観客が「どっ」と沸いた。

 それと同時にセラが投球モーションに入る。

 左足を上げて、ワインドアップ・モーションから、

 全力で右腕を振りぬいた。


 半瞬後、彼女の投げたボールがキャッチャーミットに命中。

 ど真ん中のストライク。

 そして球場のディスプレーに「69マイル(約111キロ)」と表示された。


 女性にしては、かなり速い速度に、

 観客席から再び歓声が上がった。


 それに呼応するようにセラは両手を挙げて――


「私は自由の象徴!

 そして皆も自由にベースボールを楽しんでください」


 その姿を見て、三塁側ベンチのパプスの選手達も沸いていた。


「凄え、凄え、若い女の子なのに69マイルも出したぜ!」


 ガイル・ダッカーが鈴本誠也すずもと せいやの左隣のベンチに座りながら、

 子供のように騒ぎ立てた。


「……69マイルも凄いが、

 とんでもない美人じゃないか」


 誠也は思ったままの感想を述べた。

 するとダッカーが右手で誠也の左肩をバンバンと叩く。


「見た目も美人だが、それ以上に彼女の曲は最高にクールだぜ。

 セイヤ、試合が終わったら、ホテルのパソコンで

 ヤウチューブで彼女のライブや曲のPVを観ろ。

 マジで感動するし、マジで泣けるから……」


「分かった、分かった」


「……さてじゃあオレ達もベースボールを自由に楽しもうぜ。

 って今日の先発投手はあのステアーズか」


「嗚呼、今日こそはアイツを打ち崩したいな」


 と、誠也。


「……ああ、あのにやけた笑みを消してやるぜ」


 ダッカーはそう言って、

 新たにマウンドに立ったトッド・ステアーズを睨みつけた。


「地区優勝を確実にする為にも、

 ここで奴を、ステアーズを打ち崩そうぜ!」


 誠也がそう言うと、ダッカ――以外のチームメイトも――


「おお、あんな小僧に負けてたまるか!」


「今日も勝とうぜ!」


 と、気合いを入れるが、

 マウンド上のトッド・ステアーズは、

 相変わらずの自信満々の表情で小さく呟いた。


挿絵(By みてみん)


「セラ・ローレンを生で見れて、マジラッキー。

 彼女もこの後の試合を観るだろうから、

 オレも張り切っちゃうよっ!!」



---誠也視点---


 オレ、そしてシカゴ・パプスがトッド・ステアーズという投手ピッチャー

 対戦するのは、このゲームが初めてではない。


 これまでも何度か対戦したが、

 確か対戦成績はウチのほぼ全敗だったと思う。


 少々、情けない結果だが、

 今日のステアーズの投球を見れば、それも当然かもしれない。


 105マイル近いフォーシームのファスト・ボール。

 変化球のキレも抜群で、

 高速スライダーとカットボール、SFF、フォーク。

 更には三種類のカーブを見事に使い分ける。


 我がパプスの打者バッターは、

 仰け反るように身体を引き、

 テンポ良く投げられるステアーズのボールに翻弄された。


 八回までにステアーズは被安打2。

 三振16、四球、死球共に0と文句なしのピッチング。


 尚、こちらのヒットは、テキサス性のヒット。

 それと俺の第三打席で、

 ステアーズのファスト・ボールをジャスト・ミートして、

 センター返しで打ったヒットの二本だ。


 第1、2打席は三球三振と内野ゴロに終わったので、

 何とか一矢を報いたが、

 試合は0-1でティターンズが1点リードのまま、

 最終回である9回の表を迎えた。


 このまま0で抑えたら、ステアーズの完封勝ち。

 だがステアーズの投球数も100を超えていた。


 9番、1番打者は三振と内野フライに抑えたが、

 2番のガイル・ダッカー相手にはストライクが入らず、

 ストレートの四球を与えた。

 そして俺相手に投げた一球が低めの暴投となり、

 キャッチャーが取り損ねた隙に一塁ランナーは二塁へ進塁。


 これで9回の表、2アウト、ランナー二塁となった。

 ここで俺が一発を打てば、奇跡の大逆転となる。


 だがそう簡単には打てないだろう。

 ならばここはまず二塁ランナーを必ず返す。

 ミートを心がけよう、ミートを!


 俺はバットを少しばかり短く持って、構えた。

 トッドの左足が上がり、

 セット・ポジションから、右腕が振り抜かれた。


 ――速い!

 ――だがこれは100マイル(約160キロ)を超えている。

 ――だからこれはファスト・ボールだ!


 俺はそう思いながら、

 コンパクトにバットを振った。


 次の瞬間、バットを持つ両手に鈍い衝撃が走り、

 俺が打った打球はバックネットへ鋭く突き刺さった。


「――ファールッ!」


 審判アンパイアがファールを宣告。


「ふう」


 俺はここで軽く深呼吸した。

 すると観客席の観客がどよめいた。

 俺は眼を凝らして、

 バックスクリーンのディスプレーを見据えた。


 するとディスプレイに102マイルと表示された。

 マジかよ、9回表で100球超えていて、

 102マイル(約164キロ)が出るのかよ。


 続いて、セット・ポジションから三球目が投げられた。

 次は内角低めに落ちるカーブ。


「ストライクッ!」


 ストレートの残像が残ってた為、

 俺は迷った末に見逃した。

 これでツーエンドワン、追い込まれた。


 コイツはファスト・ボールが売りの豪腕ピッチャーと称されるが、

 実際は変化球の切れとコントロールも超一流だ。

 いつでも変化球でストライクが取れる。

 これがトッド・ステアーズという投手の何よりもの強みだ。


 マウンド上のステアーズは、ニヤニヤと笑っている。

 まるでオレのファスト・ボールを打ってみろ。

 と云わんばかりなまでの不遜な態度。


 コイツと直に話した事はないが、

 噂によるとファスト・ボール同様に、

 あけすけに言いたい放題云う性格らしい。


 だから俺も何となくコイツの事が嫌いだ。

 但しコイツの投げるファスト・ボールは好きだ。


 真っ向勝負。

 それを具現化したような100マイルを超えるファスト・ボール。


 四球目も100マイルを超えるストレートだった。

 これもバットを短く持って、

 ミートするがまたバックネットに打球が飛んだ。


「――セイヤ! ナイスだ、タイミングは合ってるぞ」


 三塁側ベンチから打撃コーチが叫ぶが、

 俺は無表情でバットを一、二度握り直した。


 今のミートの衝撃で、

 両手に強い痺れが生じた。

 だが両手の感覚が完全に消えた訳じゃない。


「――タイムッ!」


 俺はタイムをかけて、打席を外す。

 そしてゆっくりとスパイクの紐を締め直した。

 その間にも両手の痺れは弱まってきた。


「――ハリー・アップ!」


「イエス!」


 審判アンパイアに急かされて、俺は打席に戻った。

 恐らく後、一、二度のミートが限界だろう。

 ならば真芯で捉えて、センター返しを狙う。


 ステアーズがセット・ポジションに入る。

 俺は打席でゆっくりとステアーズの投球モーションを監察する。


 そしてステアーズの右腕が振り抜かれて、

 第五球目が投じられた。


 ――これは速い事は速いが……。

 ――100マイルは超えそうにない。


 ――これは抜け球だ!

 ――ここで打つっ!!!


 俺はバットを短く持って、

 再びコンパクトにフル・スイングした。


 だがその前に目の前のボールが視界から消えた。

 いや消えたのじゃない。

 落ちたのだ!


 だが気付いた時は遅く、

 俺のバットは見事に空ぶった。


「ストライク、バッターアウト!ゲームセット!」


 審判アンパイアの超えに、マウンド上のステアーズがガッツポーズを見せた。

 俺はやや信じられないといった表情で、

 バックスクリーンのディスプレイを見据えた。


 そこには「SFF95マイル(約152キロ)」と表示されていた。

 抜け球でなく、SFFか、しかも変化球で95マイルだと!!


 ……参ったね。

 これは俺の完敗だわ。


 100マイルのファスト・ボールに95マイルの変化球。

 これは打てなくて当然だ。


 でもやっぱり悔しい。

 次こそは必ず打ってみせる、打ってやる!


 俺はそう心に刻みながら、

 三塁側ベンチへと戻った。


 それと同時に日本人のメディア関係者が数人寄って来たが、

 俺は無難な受け答えをして、選手ロッカーへ避難した。


 ――トッド・ステアーズ。

 ――ムカつく野郎だが、コイツは本物だ。


 ――でも俺もいぶし銀と言われるおとこ

 ――次は必ず打ってやる。

 ――こんな事で俺はめげないぜ。


 ――俺もいつかは銀でなく、金になってみせる。

 ――その為にも毎試合、毎試合ベストを尽すぜ。


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