第一話 三人のメジャーリーガー
※いでっち51号さん主催「アメリカになろう」参加作品です。
2025年6月下旬。
世間ではアメリカ軍によるイランへの空爆が実行され、
政治や経済面でも大きな影響を及ぼそうとしていた。
アメリカと云えば、かつては「自由の国」と呼ばれていたが、
近年のアメリカでは色んな方面からの圧力や規制があり、
最早、アメリカを自由の国と呼ぶ者も少なくなっていた。
だがそんな現代のアメリカでも自由。
そして「アメリカン・ドリーム」を実現する一人の日本人の天才選手。
大月翔太の二刀流の大活躍は、
日本人だけでなく、全米の野球ファンを虜にしていた。
最早、MLB――メジャーリーグ・ベースボールのおいて、
大月翔太は欠かせない存在。
そして大月というスーパースターによって、
本来なら称賛されるべき成績を収めるシカゴ・パプス所属の日本人。
鈴本誠也は、周囲の声に惑わされる事なく、
日々の練習に励み、試合に出ては確実に成果を挙げていた。
またMLB――メジャーリーグ・ベースボールの若き天才投手。
トッド・ステアーズは、大月翔太に強いライバル心を抱いていた。
本作はその三人のメジャーリーガーが織り成す物語である。
---三人称視点---
2025年6月下旬、この年も世界は大きく揺らいでいた。
イスラエルとアメリカによるイランへの空爆。
イランから反撃、大衆もメディアも大きく騒いでいたが、
心の何処かでは「所詮、異国の出来事」と思っていたかもしれない。
日本においては「令和の米騒動」が起こり、
ただですら苦しい生活に追い打ちを掛けられる始末。
そんな日本において、
連日明るいニュースとして流されるのが、
MLB――メジャーリーグ・ベースボールにおける天才選手。
大月翔太の二刀流の活躍である。
尤もその報道はやや度が過ぎており、
野球に興味ない者からは「大月ハラスメント」と揶揄する声も少なくなかった。
だが暗いニュースが多い中、
大月翔太の存在は、
日本人という人種を超えて、
野球の国であるアメリカとアメリカ人に受け入れられた。
恐らく彼のような存在は、今後そうは現れないであろう。
その事は多くの野球ファンや野球選手も理解していた。
それぐらい大月という選手は特別な存在であった。
そしてそういう特別な選手が現れると、
本来なら称賛されるべき選手が注目されないという現象も起こる。
一人の規格外の存在は、得てしてこのような状況を生む。
だが選手達は――メジャーリーガー達は、
このような状況でも自分を見失わず、
自らのプレーの精度を上げて、
自分の役割を果たす日々を送っていた。
---誠也視点---
俺の名前は鈴本誠也。
職業はプロ野球選手。
今はMLB――メジャーリーグ・ベースボールに所属する日本人メジャーリーガーだ。
所属チームはシカゴ・パプス。
身長183センチ、体重83キロ。
右投げ右打ちの外野手だ。
2012年のドラフト二位で広島カーブに入団。
カーブ入団後に好成績を収めて、
2021年にMLB所属のシカゴ・パプスと契約を結んだ。
2023年は日本人右打者としては初の20本塁打をクリアした。
2024年はメジャーで3年連続2桁本塁打を達成。
そして今年――2025年6月下旬。
ここまでの試合で俺は二十本以上の本塁打を放っていた。
自分で言うのもアレだが、なかなかの好成績だと思う。
本来なら日本やアメリカの報道陣に囲まれて、
毎試合、ファンやメディアから大注目される時の人。
となっていてもおかしくない……筈である。
でも幸か不幸か、俺はあの男と同年代かつ同世代なのだ。
「鈴本選手、お疲れ様です。
今日も5打数3安打1本塁打と大活躍でしたね」
顔馴染みの日本人の男性記者が俺にそう問いかけてきた。
だけど俺は表情を変えず、淡々と記者の質問に答えた。
「ありがとうございます。
この調子で頑張り続けたいと思います」
「これで本塁打も20本の大台に乗りましたね。
この調子なら30本も射程圏内じゃないでしょうか?」
「そうですね、自分自身も調子は良い方と思います。
この調子をキープして、本塁打30本打てるように頑張りたいです」
「……ありがとうございます」
まあこんな感じで試合がある日は、
ほぼ毎日、日本人やアメリカ人の記者の取材に答えている。
自分で言うのもアレだが、今シーズンの俺は特に調子が良い。
その結果、この6月下旬なのに本塁打を22本も打っていた。
皆、簡単に本塁打22本というが、
野球の国――アメリカで22本も本塁打を打ってるんだぜ?
我ながら少し自分自身が誇らしい。
但し今のMLB――メジャーリーグ・ベースボールには、
規格外のスーパースターが居るのだ。
「おい、大月がまたホームラン打ったらしい!」
「これで29本目か、こりゃ今年も40本打てそうだな」
「おまけに今年は投手としても復活。
これは目が離せない日々が続くな」
「ああ、野球記者としては嬉しい悲鳴が続くね」
「……」
そうか、あの男は――大月はまたホームランを打ったか。
現時点で26本塁打、俺の22本より7本も多い。
それだけでも凄いのだが、
今日は投手として先発して、この結果だ。
そりゃ周囲の記者も自然と大月の話題に注目するよな。
ただ個人的に大月は同世代だし、
付き合いもそこそこあるが、彼は本当に真面目で良い男だ。
今では何十億、いや何百億という大金を稼ぐ大スターだが、
記者の取材に対しては常に謙虚。
ファンの対応やサービスも完璧である。
ここまで来ると、なんかいっそ清々しい気分だ。
もう天才とかスーパースターという表現すら生温い。
彼はある種の宇宙人と思う。
そう思っているのは俺だけじゃないだろう。、
多分殆どのメジャーリーガーがそう思っているだろう。
でもね、彼がどんなに凄かろうが、
オレ達はプロの野球選手――メジャーリーガーなのだ。
他人の成績をとやかく言う前に、
自分の成績を、ヒットを一本でも多く打つ。
それがオレ達メジャーリーガーに与えられた使命だ。
と思いつつも、やはりこうも思っちゃう。
「いやー大月はマジで凄いねえ~。
この調子で投手としても勝ち星を挙げて欲しいな」
そう、俺自身がメジャーリーガーである前に、
一人の野球好きの人間として、
大月の、彼の活躍に目を奪われているのだ。
……。
でもそれより大事なモノがある。
言うまでもねえ、自身の練習と日々の試合だ。
大月は凄え、マジで凄え。
でも俺かって結構凄いと思うぜ。
だけどそれを口にすれば、色々と顰蹙を買う。
だから俺は毎日毎日、神経を集中させて、
自身の練習と試合に挑み続けた。
---三人称視点---
2025年7月12日。
アメリカ合衆国のカリフォルニア州サンフランシスコにある野球場。
レヴェレイション・パークでSFティターンズとLAドアーズの試合が行われようとした。
相変わらず連日、日本及び全米の注目を浴びるドアーズの大月翔太。
現時点で
だがこの試合の注目点は大月の成績だけではなかった。
「オオツキの人気は相変わらず凄えな。
でも今日の主役は彼じゃない。
今日の主役はこのオレ――トッド・ステアーズだぜ!」
そう大声で叫ぶ金髪碧眼の身長197センチ、体重90キロの恵体の男。
SFティターンズの右投げのエース投手であるトッド・ステアーズである。
ここまでの成績は、登板17試合で11勝2敗、防御率1.64。
押しも押されるの若手の天才投手。
彼のファスト・ボールは170キロ(約105マイル)を超える剛速球。
また高速スライダーとカットボール、SFF、フォークボール。
カーブとドロップ・カーブ、スラーブと七色の変化球を使い分ける。
大月とトッド・ステアーズの対決。
このレヴェレイション・パークに集まった多くの野球ファンは、
二人の対決に注目していた。
だが野球ファン以上に当事者であるステアーズは闘志をむき出しにしていた。
何故ならステアーズは、大月を異様にライバル視していたのだ。
過去の対決では大月が15打数6安打2本塁打という成績を上げていた。
成績的には大月に軍配が上がるが、
大月もステアーズ相手には6三振を喫していた。
それ故に嫌がおうでも盛り上がる二人の対決。
そして一回の表にドアーズの一番打者である大月が打席に入った。
一方のステアーズは、試合前の投球練習を終えて、
投手マウンドに威風堂々と立った。
「我がティターンズとドアーズは現時点で5ゲーム差。
ここは何としても負けられない、勝たねばならん。
だからこの最初の勝負で、ここで決めるっ!!」
そして審判による「プレイ・ボール」宣言がされて、試合が始まった。
ブックマーク、感想や評価はとても励みになるので、
お気に召したらポチっとお願いします。