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04 強制参加



 新婚のデルウィンザー伯爵夫妻は王宮の夜会で突然の事態に遭遇した。


 美しいダンスを披露している中、妻の靴のヒールが折れてしまった。


 だが、若い夫婦はそのことを感じさせないまま、最後まで見事に踊り切った。


 身分差や財産差などあれこれ噂になってはいたが、優秀で才能ある男女が両親の仲介で夫婦になっただけという評価になった。


 そして、美しいダンスを安全に踊れるように、王太子妃が女性のドレスコードをバレエシューズにした舞踏会を開くことが決定した。






「また、踊るのですか?」


 ドノヴァンは不機嫌だった。


「学生だけに社交はしなくていいという話だったはずです。国王陛下にも挨拶をしました。ワルツも踊った以上、ノルマは達成では?」

「王太子妃に参加させるよう言われたのよ。断れないわ」


 デルウィンザー公爵夫人は平然と答えた。


「ピンヒール、しかも片方のヒールが折れても美しく踊れたでしょう? バレエシューズならそれ以上ではないかと期待されているの」

「私やエヴァはバレエダンサーではありません。美しいダンスを観たいのであれば、舞踏会ではなくバレエ鑑賞会にすべきでは?」

「もう決まったことなの。前よりも美しく踊りなさい。エヴァのためにバレエシューズを急いで作らないといけないわ。明日の学校は休みなさい。最高のバレエシューズをたくさん注文しにいくわよ!」

「一足ではないのですか?」


 エヴァは驚いた。


「ドレスと靴は合わせないといけないわ。ドレスを変更した場合や不具合に備えておかないとね。顧客登録をするためにも最初はお店に行かないと。本人に合わないと嗜好や似合うものがわからないでしょう?」

「三足までだ」


 デルウィンザー公爵が口を挟んだ。


「決めておかないと、いくつ作るかわからないからな」

「たった三足だなんて少ないわ! デルウィンザー公爵家の名誉にかかわってしまうわ!」

「舞踏会でバレエシューズが不評であれば、また別の流行に変わる。その時に前回の使い過ぎを指摘され、新しい流行り物を作れなくてもいいのか?」

「五足にして!」

「三足だ。靴だけでなくドレスも購入するのだろう? 予算を考えろ」

「では、間を取って四足。白、暖色、寒色、エヴァの好きな色にすればいい」


 ドノヴァンが提案した。


「エヴァの好きな色はなんだ?」


 三人から注目されたエヴァは困った。


「……特にないです」

「では、四足だ。一足は必ずエヴァに選ばせるように」


 デルウィンザー公爵が最終判断をした。


「仕方がないわね。ドノヴァンとエヴァの意見を尊重するわ」


 家族揃っての夕食。


 話題が一つ消化された。





 学校を休まされ、デルウィンザー公爵夫人と一緒に買い物をしたエヴァは心身ともに疲れていた。


 夕食のあとはさっさと寝ようと思っていたが、ドノヴァンに話があると言われた。


「次の舞踏会については打ち合わせが必要だ」


 王太子妃の舞踏会では前回を上回るダンスを披露しなくてはいけない。


 ドノヴァンが考えたところで、エヴァが踊れるかわからない。


 エヴァの技能に合わせつつ、前回以上の評価をもらえるようなダンスにしたいことをドノヴァンは伝えた。


「考えるだけですよね? 試しに踊ったりしませんよね?」

「疲れているのか?」

「かなり。次々とお店に行っては話し合ったり注文したり……お金持ちの買い物は大変ですね。すぐにオプションを提示されます」


 オプション選びが細かすぎて、エヴァには何がなんだかわからなくなってしまった。


「高額な買い物をすると、気分が良くなるはずだが?」

「最初はドキドキワクワクしていました。でも、ダメでした。なんていうか……お洒落に興味がある女性でないと長時間は持ちません。デルウィンザー公爵夫人に任せました」

「そうか。母上もその方が嬉しいだろう。お洒落に生きがいを感じる類の人間だ」

「そうだと思います」

「エヴァは女性だが、母上と同じ類ではないようだ」

「お金をかけるなら別のことにしたいです」

「何に金をかけたい?」

「食べ物に。美味しいものをたくさん食べたいです!」


 貧乏な生活をしてきたエヴァらしい意見だとドノヴァンは感じた。


「学校で食べるランチについて言っておく。金額は気にするな。好きなものを食べていい」

「でも、私の友人たちは男爵令嬢ばかりなのです。貧乏ではありませんが、裕福でもありません。お小遣いも少ないと言っていました」


 身分が高い令嬢はエヴァがドノヴァンと結婚したことをよく思っていない。


 声をかけてくれたのは元々のエヴァの身分と同じ男爵令嬢ばかり。礼儀作法を磨いて良い縁談相手を見つけようと思っている女性だった。


「同じものをおごってやればいい」

「毎日そうするわけにはいきません。お金に物を言わせていると思われてしまいます」

「遠慮する必要はないと言いたかった。エヴァは私の妻だ。デルウィンザー公爵家の一員として守る。学校の友人を大切にすればいい。エヴァのやり方で構わない」

「ご配慮いただきありがとうございます」

「今夜はここまでにする。ダンスについては大学へ行く時の馬車の中で話す。ゆっくり休め」


 ドノヴァンは部屋を出て行った。


 なんか……思っていたよりも優しい気がする。


 小さな頃から本を読んでいたせいかエヴァは筆記試験の結果が良く、王立学校の初等部に入学することができた。


 ドノヴァンは二学年上で、知名度の高い人気者だった。


 しかし、学校内で見かけた時はいかにも上級貴族といった様子で冷たそうで高慢そうな男性に見えた。


 自分とは別世界の人だとエヴァは思っていたが、結婚したことで違う面が見えて来た。


 もっとドノヴァン様のことを知りたい……。


 エヴァはそう思いながら、眠りについた。


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