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結婚生活は真っ白で  作者: 美雪


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23 謎解き



 ドノヴァンがエヴァを連れて行ったのは図書室だった。


 なんとなく、そんな気がしていたけれど……。


 エヴァはつながれた手からドキドキしていることをドノヴァンに知られてしまいそうだと感じた。


「今夜は謎解きをする。どんな謎解きだと思う?」

「一緒に推理小説を読んで、犯人を当てるとか?」


 エヴァは様子をうかがうが、ドノヴァンは無言。


「早速ハズレのようです。正解を教えていただけませんか?」

「愛にまつわる謎だ」


 ドノヴァンは答えた。


「愛の日だけにふさわしいだろう?」

「そうですね」

「私は答えを知っている。謎解きに挑戦するのはエヴァだけだ」

「そうですよね」

「特別な謎解きになる。難しいと感じるかもしれない。そこで三回だけヒントをもらえる。ヒントがほしい時は私に言ってほしい」

「わかりました」

「私に話しかけることで反応を探ってもいい。それはヒントに入らない。私が必ずしも答えを出すのに有効なことを言うかわからないからだ。はぐらかすかもしれない」

「なるほど」

「では、話す。図書室の中には愛の日にふさわしいものが三つある。その三つが何かを探し当ててほしい」

「三つ? それは本のことですか? それともこの部屋にある全てのものの中から探すのですか?」

「三冊とは言っていない」

「今のって、ヒントを聞いたことにはなりませんよね?」

「ならない」

「良かったです」


 エヴァは微笑んだ。


「では、早速探したいと思います!」


 エヴァは周囲を見回した。


 図書室は広い。それだけに本はもちろんのこと、それ以外のものもたくさんある。


 エヴァが真っ先に向かったのは、奥の方に飾られている絵がある場所だった。


「こちらの絵は愛の日にふさわしいと思うのですが、どうでしょうか?」


 男性と女性がお茶を飲んでいる場面が描かれている。


 この二人が夫婦、婚約者、恋人同士であれば、愛の日にふさわしい絵と言えるはずだとエヴァは思った。


「これは違う」


 ドノヴァンが答えた。


「男女の絵が描かれているが、絵のタイトルがない。この絵が何をテーマにして描かれているのかわからないだろう?」

「そうですね」

「さすがにこれだというほど簡単ではない。じっくり考えてから探す必要がある」

「そうですか。予想通りです」


 エヴァはにっこり微笑んだ。


「三つのものは、見てすぐに愛の日にふさわしいとはわからないものですね? だからこそ、ドノヴァン様はじっくり考えてから探す必要があると言いました。ヒントを三つまで教えることにしたのも、じっくり考えてほしいからです」

「その通りだ」

「実を言うと、すぐに思い浮かんだものがいくつかありました。ドノヴァン様がデルウィンザーらしくて愛の日にふさわしいと思うものです。違いますか?」

「違わない」


 ドノヴァンは答えた。


「私はこの屋敷で生まれ育った。ゆえに屋敷について極めて詳しいと言えるだろう。だが、エヴァは違う。難しいかもしれないが、エヴァに探してほしい」

「期待に応えたくはあるのですが、難しいです」


 エヴァは肩を落とした。


「たぶん、一つは合っています。でも、探すのは三つです。そして、図書室の中にあるわけですよね?」

「そうだ」

「そして、ドノヴァン様はそれが何かを私に知って欲しいわけです」


 ドノヴァンはエヴァを見つめたまま。


 無言は肯定を意味しているとエヴァは思った。


「三つの全てを探してから答えることもできます。でも、まだわかりません。一つずつがいいですよね?」

「エヴァに任せる」

「では、一緒に来てください」


 エヴァはドノヴァンの手を取った。


 向かったのは大きなソファ。


「座ってください」


 ドノヴァンはソファに座った。


「一つ目はこのソファです」

「どうしてそう思う?」


 ドノヴァンは表情を変えずに尋ねた。


「聖夜の時にもここへ来ましたよね?」

「そうだな」

「デルウィンザー公爵夫人が、図書室で眠ったのか聞きました。普通に考えるとおかしいです」


 図書室は本を読むための場所。寝るためには使わない。ベッドもない。


 だが、寝転べるソファならある。


 本読み、疲れたらそのまま寝てしまえばいい。


「このソファは他のソファとはサイズが違います。完全な特注品ですよね。なので、怪しいと思ったのです」


 エヴァはドノヴァンを覗き込んだ。


「謎解きをするには答えを探さなければなりません。そして、正解になったあと、なぜそれが答えなのかを明かすはずです。ドノヴァン様が愛の日にふさわしいお話を教えてくださるのですよね?」

「このソファは父上が母上のために特注したソファだ」


 デルウィンザー公爵夫人は本を長時間読み続けることができない。


 だんだんと眠くなってしまい、そのまま寝てしまうタイプ。


 そこで、デルウィンザー公爵は妻のために読むだけでなく眠るにも丁度良いソファを作って図書室に置いたことをドノヴァンは話した。


「父上は母上を心から愛している。このソファはそのことをあらわすソファだ」

「愛の日らしいエピソードです」

「そうだ。このソファは愛の日にふさわしい。一つ目ということになる」


 正解したエヴァはホッとした。


 だが、問題はここから。


 まだ、二つある。


「ドノヴァン様、ヒントをください。あと二つありますので、ここで一つヒントの権利を使います」

「わかった」


 ドノヴァンは頷いた。


「愛の日は愛する者と過ごしたい。父上と母上は二人だけで外出しただろう?」

「そうですね」

「聖夜の夜も外出した」


 そうだったとエヴァは思った。


「二人は夫婦だ。父親と母親でもある。当主とその妻でもある。公爵夫妻でもある。だが、時には若い頃のように一人の男性と女性、恋人同士に戻りたい。そのために二人だけで外出する」

「素敵ですね」


 エヴァは心からそう思った。


「だが、父上と母上は外出するばかりではない。屋敷で一緒に過ごし、多くの思い出を作ってきた。この図書室でも一緒に過ごした。つまり、この図書室は父上と母上が愛を育んだ場所でもある」


 ドノヴァンはエヴァを見つめた。


「エヴァにそのことを教えたかった。そこで謎解きをすることにした」

「わかります。でも、私はこの図書室があることを聖夜まで知りませんでした。なのに、特別な謎解きをするのは、難易度が高過ぎるのでは?」

「一つ見つけた」

「デルウィンザー公爵夫人のおかげです。でも、他の二つは難しいです」

「私がいる。ヒントを教える」

「もしかして、すでにヒントを説明しています?」

「説明している」

「もっとわかりやすく短いヒントにしてくれませんか? 長々と話されると、どれがヒントなのかわかりません」

「父上と母上に関係するものだ」

「間違っているかもしれませんけれど、あそこの棚にある恋愛小説では?」


 エヴァは聞いてみることにした。


「デルウィンザー公爵夫人が読んでいた本もあると言っていました。恋愛小説で古いものばかりだと」


 エヴァとドノヴァンが座っているソファの近くにある本棚には、デルウィンザー公爵夫人が読んでいたらしい恋愛小説がずらりと並んだ本棚がある。


 ソファがあれば、好みの小説を手に取って読むのに丁度良い。


 だが、エヴァは不思議に思った。


「デルウィンザー公爵夫人が好きなのはお洒落です。若い頃は恋愛小説を読んだのかもしれませんが、今はほとんど読まないのでここにあるのだと思いました。でも、ソファの話と合いません」


 デルウィンザー公爵は妻のために特注のソファを作って図書室に置いた。


 つまり、デルウィンザー公爵夫人は恋愛小説を自室ではなく図書室で読んでいた。


「ここにはたくさんの恋愛小説があります。デルウィンザー公爵夫人が自分でこれを購入して読むほどであれば、自分の部屋に本を置いて読むと思うのです。ソファだって自室に置かれるはずです。わざわざ図書室の本棚に並べて、その側にあるソファで読むのは面倒ですよね?」


 ドノヴァンは何も言わない。


「しかも、途中で寝てしまうわけですよね? つまり、デルウィンザー公爵夫人は恋愛小説を読みますが、夢中で最後まで読み終える性格ではないのです。もしかして、この恋愛小説を揃えたのはデルウィンザー公爵なのでは? 妻のために本を購入し、読みやすいようにソファを置いたとか?」

「正解だ」


 ドノヴァンは答えた。


「二つ目はこの恋愛小説だ。父上が母上のために購入した」


 デルウィンザー公爵が若かったころ、当時は友人の一人だった夫人を屋敷に呼ぶ口実として図書室を利用した。


 屋敷に広い図書室がある。蔵書が多い。見に来ないかと誘った。


 誘いにのった夫人は屋敷に来て、図書室を見学した。


 難しい本は読まない。手に取りやすい恋愛小説を読んでみるが、眠くなってしまう。


 そこで特注のソファが置かれた。眠くなったら、そのまま昼寝をしてしまえばいい。


 くつろげる場所がほしかった夫人は屋敷に来て恋愛小説を読んだり昼寝したりするようになったことをドノヴァンは話した。


「父上は書き物机で勉強していた。大学生の頃だ。母上は花嫁学校に入って社交場に出入りしていたが、恋人との縁談が破談になったせいで屋敷に閉じこもってしまった」


 そのことを心配したデルウィンザー公爵は、自分の屋敷に来ないかと誘った。


「恋愛小説にもいろいろな話がある。恋人と別れたあと、別の相手と出会って幸せになる話もある」

「デルウィンザー公爵は励ましたかったのですね?」

「母上はおしゃべりとお洒落が好きで社交を楽しむ性格だ。しかし、部屋に閉じこもるほど落ち込んでいた。父上は心配して、少しでも力になれればと思ったらしい」


 そのことがきっかけで、デルウィンザー公爵と夫人はより親しくなった。


「父上と母上はこの図書室で愛を育んだと言っただろう? ここで恋人になった。父上が交際を申し込んで、母上が了承した」

「素敵です」


 エヴァは微笑んだ。


「愛の日らしいです」

「そうだ。残るはもう一つだ」

「ヒントをお願いします!」


 エヴァは迷わなかった。


 答えはあと一つ。二回分あるヒントの権利を使い、正解を当てにいきたいと思った。


「一緒に恋愛小説の本棚を見に行こう」


 ドノヴァンは立ち上がると、手を差し出した。


 エヴァも手を出すと、ドノヴァンが掴む。


 二人はデルウィンザー公爵夫妻のなれそめにかかわる本棚を見に行った。


「並んでいる本をよく見てほしい」


 エヴァは本棚をじっくりと見た。


 ……きちんと揃えてあるわけではないけれど、おかしくはないわよね?


 恋愛小説ばかりではあるが、見た目はバラバラ。本のタイトルや著者、発行先、サイズなどが綺麗に揃えられているわけではない。


 エヴァから見ると適当に入れたとしか見えない状態。


 あるいは適当に本を取り、適当に返したのかもしれない。


「母上はここにある本を全部読んでいないだろう」


 ドノヴァンが追加するように言った。


「なぜなら、途中で眠くなってしまう。一冊を読み終わるのに時間がかかる」

「そのようですね」

「つまり、どこまで読んだのかがわからなくなってしまう」


 しおり!


 エヴァは閃いた。


 本棚に近寄ると、デルウィンザー公爵夫人の身長からいって手に取りやすい棚にある本をじっくりと見つめた。


 あった!


 エヴァはしおりがはさまっている恋愛小説の本を取り出した。


「これですね! 三つ目はしおりです」

「ページを開けてみるといい」


 エヴァはしおりがはさまっているページを開けた。


 金色のしおりは特別なものだった。一輪のバラの花。


 とてもロマンティックで愛を感じる逸品だった。


「これもデルウィンザー公爵が用意したものですか?」

「そうだ」

「素敵ですね」


 元気が出るように励ます本と一緒に用意された美しいしおり。


 デルウィンザー公爵の細やかな気遣いが感じられた。


 だが、エヴァはまたしても不思議に思った。


「このしおり……ここに入れたままでいいのでしょうか?」


 デルウィンザー公爵夫妻はここで愛を育み恋人になった。


 そして、結婚して子どもが生まれ、今も時々恋人のように二人だけで過ごすために外出するほど愛し合っている。


 金色のしおりは思い出の品。


 手元に置いておきたいと思ってもおかしくないというのに、図書室の恋愛小説の本に挟まれたままだった。


「ここでなくてはならない」


 ドノヴァンが答えた。


「どんな場面か確認してほしい」


 エヴァはしおりが挟まっていたページを読んだ。


 男性が女性に愛を告白するシーンだった。


「ずっと好きだった。いつか、この気持ちを伝えたいと思っていた」


 ドノヴァンが言ったのは、まさに恋愛小説に登場する男性の言葉。


「愛している。私の恋人になってくれないか?」


 エヴァはドキドキした。


 ドノヴァンは恋愛小説のセリフを読んだだけとは思えないほど、気持ちがこもっている言い方だった。


「……もしかして、そう言ってデルウィンザー公爵は告白したのですか?」

「そうだ」


 デルウィンザー公爵夫人は本を読んでいる途中で眠くなってしまうため、いつもしおりを挟むのは書き物机で勉強をしているデルウィンザー公爵の役目だった。


 心を決め、あえて別のページに挟んだ。


 当然、デルウィンザー公爵夫人は前回の続きを読もうと思ってしおりが挟んであるページを開く。


 そして、おかしいと思う。


 この場面まで読んでいただろうか。記憶がない。眠くて覚えていないだけなのだろうかと悩む。


 そこにデルウィンザー公爵が来て、自分の気持ちを伝えるためにしおりを挟んだことを告げる。


 デルウィンザー公爵夫人はデルウィンザー公爵の気持ちを知り、二人は恋人同士になったことをドノヴァンが話した。


「とっても素敵です!」


 エヴァは感動した。


「さすがデルウィンザー公爵です! 素晴らしい告白方法だと思います!」

「そうだな。実際、成功した。母上は恋人になることを了承した」

「愛の日らしいです」

「私は常に父上を尊敬し、手本にして来た。そうすれば、デルウィンザー公爵家の伝統を正しく受け継ぐことができると思っていた」

 

 ドノヴァンはエヴァの持っていた恋愛小説を閉じ、しおりを挟んだまま元の場所に返した。


「この本は父上と母上の思い出だ。しおりと共にここになくてはならない」

「保存されているのですね」


 告白した時のままに。


「私は恋愛小説を読まない。だが、エヴァのために読んでみた」

「私のために?」

「図書館で借りていただろう? どんな恋愛小説を読んでいるのか気になった」

「なるほど」

「エヴァが気に入るかどうかはわからない。だが、この本を薦めたい」


 ドノヴァンは本棚から恋愛小説を取り出した。


「私からエヴァに」


 エヴァは恋愛小説を受け取った。


 そこには銀色のしおりが挟まっているのが見えた。


「私がエヴァのために特注したしおりだ。見てほしい」


 エヴァはしおりを確認するためにページを開いた。


 男性と女性が口づけを交わしている模様のしおりだった。


「どんな場面か読んでほしい」


 エヴァはすぐに目を通した。


 政略結婚して離婚する予定だったが、本当に好きになってしまったためにこのまま夫婦でいたいと男性が女性に告げる。


 女性は告白を受け入れ、二人が口づけを交わすシーンだった。


「本当の夫婦になりたい。そのためにはもっと多くの時間が必要だと思わないか?」

「同じセリフですね」

「エヴァに私の気持ちを伝えるため、適合するセリフを探した」


 エヴァはもう一度、開かれたページに目をやった。


「もしかして、これと同じセリフを期待されているのですか?」

「エヴァの気持ちが知りたい。エヴァの言葉で教えてくれないか?」

「私とドノヴァン様が本当の夫婦になるために必要なのは愛を示す言葉だと思います。時間は必要ありません。今すぐでいいですよね?」

「エヴァ」


 ドノヴァンはエヴァを優しく抱き寄せた。


「愛している」

「知っていました。新年の謁見のおかげで。私も自分の気持ちを愛に日に伝えようと思いました。ドノヴァン様が好きです。本当の夫婦になりたいです」


 会話はそこまで。


 ドノヴァンとエヴァは口づけを交わした。


 恋愛小説で描かれているように。


 ドノヴァンが自らの気持ちを込めて作らせた特注のしおりのようでもあった。


「言葉にしようがないほど嬉しい。心が舞い上がるというのは、今のような気分のことを言うのだろう」

「わかります。ドノヴァン様が照れている表情なんて滅多に見れません」

「エヴァは……いつも通りに見える。愛しくて仕方がない私の妻だ」

「私も照れています。だって、初めて唇にキスされたわけですから」

「もう一度したい」


 ドノヴァンはエヴァに口づけた。


「愛している。何度でも言いたい。私の気持ちを伝えるために」

「とても愛の日らしいですね」


 二人は心からの笑みを浮かべた。


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