02 新しい生活の始まり
エヴァとドノヴァンの新婚生活が始まった。
部屋は別々。互いに余計な干渉はしない。
朝食と夕食は公爵夫妻と一緒に家族四人で食べる。
ドノヴァンは大学、エヴァは礼儀作法の学校に通うため、一緒の馬車で出かける。
エヴァは学校が終わったら図書館に寄り、講義が終わったドノヴァンが迎えに行って合流、二人で帰ってくるということになった。
「あと一冊……」
貧乏なエヴァは図書館で自主勉強をしたり、貸し出し上限まで本を借りるのが日課だった。
「こっちも借りたいし、こっちも気になるし」
「エヴァ」
名前を呼ばれたエヴァが振り向くと、ドノヴァンがいた。
「ホールにいなかった。自習室にも談話室にもいなくて探した」
「申し訳ありません!」
借りる本を探していたせいで、待ち合わせの時間を過ぎていたことにエヴァは気づいた。
「借りる本について悩んでいたのか?」
「そうです。貧乏だから本を買えません。なので、上限まで借りたくて!」
「今は貧乏ではない。欲しい本は買えばいい」
「えっ! いいのですか?」
「無限には買えないだろうが、借りた本はいずれ返さなくてはいけない。ずっと手元に置いておきたいものは購入すればいい。エヴァのための予算で買えるだろう」
「嬉しいです!」
エヴァは喜んだ。
「では、この本がとても良かったら欲しいです」
「一度読んでから決めるのか?」
「がっかりするような内容だったら嫌なので」
「そうか。借りる本は決まったのか? それなら手続きをして一緒に帰ろう」
エヴァはじっとドノヴァンを見つめた。
「ドノヴァン様は……個人的に図書館に来られることがあるのでしょうか?」
「課題用の本を探すため、大学の帰りに立ち寄ることもある。エヴァを探すついでに、本も探していた」
「でも、一冊もお持ちではありません。目当ての本がなかったのでしょうか?」
「手帳に気になる本の情報を書き留めた。注文して購入する」
さすがお金持ち!
ドノヴァンは本を借りるためではなく、買う本を探しに図書館に来ているのだとエヴァは思った。
「エヴァもそうするか?」
「いいえ。まずは読んで、それから買うかどうかを決めます。それが私の主義なので!」
「本を持ってやろう。だが、全部は持たない。私は侍従ではない」
「では、半分だけ……というか、ドノヴァン様にお願いが!」
「なんだ?」
「すでに四冊選んでしまいました。あと一冊しか借りられません。でも、二冊借りたい本があるのです。ドノヴァン様の名前で一冊借りていただけませんか?」
「それはできない」
ドノヴァンは即答した。
「私の名前を使ってエヴァが何かをするのはよくない。夫の力を妻が悪用するのは許されない」
「悪用ではありません。本を借りるだけですよね?」
「図書館で借りることができる本は一人につき五冊だ。誰かの名前を借りるのはルールの悪用、抜け道だ。そのような者ばかりがいたら、なかなか本を借りられない者が増えてしまうのではないか?」
「……そうですね」
「本でも金でも借りて返すという意味では同じだ。私の名前でエヴァが金を借りてもいいと思うのか? 少額なら許されるのか?」
「ダメですね」
「ならば、本も同じだ。たかが本と思うかもしれない。だが、たかが本なら、余計に私の名前を使うべきではない」
「よくわかりました」
ドノヴァンが正しい。
公爵家の跡継ぎだからこそ、力の使い方に慎重、悪用されないよう気を付けているのだとエヴァは思った。
「明日以降に借ります。本を無料で借りることができるだけでも恵まれていますよね!」
エヴァは一冊選び、別の一冊を本棚に返した。
「……返す本はそれでいいのか?」
エヴァは専門書を返した。
だが、五冊の中には恋愛小説が一冊あった。
「重要度を考えると、恋愛小説を返して専門書を借りるべきではないか?」
「借りたい人が多そうな本を優先します。恋愛小説は専門書よりも人気があるので借りにくいのです」
「なるほど。それならわかる」
エヴァなりの考え方、ルールがあるようだとドノヴァンは思った。
「思ったよりも遅かったわね? 図書館に長居していたのかしら?」
デルウィンザー公爵夫人は、ドノヴァンかエヴァが戻ったら、部屋に来るよう侍女に伝えていた。
「遅くなって申し訳ありません。図書館で本を選ぶのに時間がかかってしまいました」
「用件があるとか?」
「王宮で夜会があるでしょう? 結婚したから夫婦で参加しなさい。ワルツを一回踊るように。必要なら練習をしっかりしなさい。デルウィンザー公爵家の名誉にかかわるわ」
「契約結婚です。社交をする必要はありません」
「そう言うと思ったわ。でも、国王陛下が連れて来いと言ったらしいのよ。断れると思うの?」
絶対参加に決まっていた。
「ドノヴァンは官僚になりたいのでしょう? エヴァも出自のことで悪く言われているわ。良い評価になるよう夫婦揃って優秀だとアピールする機会にしなさい。いいわね?」
了承するしかなかった。




