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結婚生活は真っ白で  作者: 美雪


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17/24

17 お金よりも愛なのに



 大学祭が終わると、ドノヴァンは忙しくなった。


 エヴァも同じ。受講している講義の課題が増えた。


 冬休みの前には試験もあるため、試験用の勉強もしなければならない。


 二人は通学時間が別々になり、それぞれの馬車で通学するようになった。


 気づけば十二月。


 瞬く間に試験期間に突入。


 終わったと思うと冬休み。


「ドノヴァン様と一緒に馬車に乗るのは会うの、久しぶりな気がします」

「そうだな」


 王宮で開かれる聖夜の催しに参加するため、ドノヴァンとエヴァは身支度をして馬車に乗り込んだ。


 本来は家族四人で一台に乗るが、今回はデルウィンザー公爵が妻への贈り物として新しい馬車を購入したため、各夫婦で一台ずつに分かれて王宮に向かうことになった。


「試験はどうだった?」

「まあまあです。課題で提出するレポートの方が難しかったです」

「そうか」

「ドノヴァン様は?」


 ドノヴァンは黙っていた。


「もしかして……あんまり?」

「まあまあだ」


 静かな時間。


 馬の足音。車輪の音。


 ドノヴァンはエヴァの手を取ってつないだ。


 互いに手袋をしているが、温まるような感覚があった。


「エヴァ」

「はい?」

「王宮で迷子になると困る。私の側にいろ。離れるな」


 エヴァの手を握る力が強くなった。


 夏の夜会のようにならないためだろうとエヴァは思った。


「わかりました。でも、化粧室はきっと大行列です。かなり待たせてしまいそうです」

「大丈夫だ。母上もいる。一人では行くな」

「はい」


 またしても無言。


 王宮まではまだまだかかる。


「エヴァ」

「何でしょうか?」

「寒くないか?」

「大丈夫です。このコート、とても暖かいです」

「そうか」

「ドレスも厚手ですし、防寒対策は万全です。ブーツですしね!」


 長いドレスでわからないということで、エヴァはブーツを履いていた。


「今はいいが、王宮に着いたらコートがなくなる」

「そうですね」

「広間には暖炉がある。人も多くてそれなりに暖かい。だが、廊下は冷える。注意しろ」

「はい」

「温かい飲み物もある。やけどに注意だ。温度を確かめてから慎重に飲むように。運ぶ時間がかかることを考え、熱く淹れてある」

「わかりました」

「酒もあるが」

「飲まないです」

「それから……」


 ドノヴァンは会話の内容を探した。


「ドノヴァン様、無理をしないで大丈夫です。無言でも気にしません」

「つまらないだろう?」

「大丈夫です。正直に言うと、馬車の揺れで少し眠くなります」

「王宮に着くには時間がかかる。今日はどこも渋滞だ」

「ですよね」

「今の内に休んでおけ。寄りかかっていい」

「大丈夫です」

「遠慮するな」


 ドノヴァンはつないでいた手を離すと、エヴァを抱き寄せた


「寄りかかって目をつぶれ。着いたら教える。寝てしまっていい」

「……ありがとうございます。そうします」


 エヴァは目を閉じた。


 静かな時間。


 だが、心地良い


 エヴァが寝てしまっても、二人だけの時間だとドノヴァンは思った。





 王宮に馬車が到着した。


 完全に寝ていたエヴァは揺り起こされた。


「起きろ!」

「あ、はい……」


 エヴァはよろめきながら馬車を降りたため、ドノヴァンがしっかりと支えた。


「ここからは寝るな。大事な催しだ」

「わかっています。やっぱり外は寒いですね!」


 すぐに王宮の中に入るが、外套を預けなくてはいけない。


「中も寒いですね……」

「早歩きで広間に行こう。ちょっとした運動をすると体が温まる」

「そうですね!」


 二人は急ぎ足で広間に向かった。


 真っ先に探すのはデルウィンザー公爵夫妻。


 事故や渋滞に当主と跡継ぎの両方が巻き込まれないよう時間差をつけ、別ルートで王宮に向かった。


 広間で合流することになっていたが、デルウィンザー公爵夫妻の姿はなかった。


「いないです」

「先に着いていると思ったのだが……別の広間にいるのかもしれない」

「あっ」


 エヴァは別の人物を見つけてしまった。


「どうした?」

「王立大学祭で会った人です。ホストというか」


 ドノヴァンの眉がひそめられた。


「どこにいる」

「あそこです」

「確認だ。長髪か?」

「そうです。赤い衣装の男性です。いかにもお洒落って感じの装いの」

「マーヴェス・フロワーゼだ」


 エヴァは首をひねった。


「お知り合いですか?」

「フロワーゼ公爵の孫だ。伯爵位を持っている」

「孫なのに?」

「父親は侯爵位だ」

「なるほど」

「王立大学一の天才だ。四年生で、恐らくは首席卒業だ」

「頭がいいのですね」

「全然知らなさそうだな?」

「知りません。初めて聞く名前です」

「音楽家だ。ピアニストでヴァイオリン奏者。フルートも奏でる。作曲家としても一流だ」

「多才なのですね」

「本当に知らないのか? 相当な有名人だぞ?」

「すみません。王立学校でしたでしょうか?」

「いや、王立音楽院だ」


 エヴァは首をひねった。


「才能が有りそうな方なので、初等部から王立音楽院ですか?」

「そうだ」

「なぜ、王立大学に? 王立音楽院は大学部もありますよね?」

「飛び級卒業で暇だからだろう。音楽院は演奏技能で飛び級がしやすい」

「なるほど。普通ではない人物のようです」


 エヴァとドノヴァンは小声で話しているつもりだった。


 だが、視線を向けていることに気づかれてしまった。


「ドノヴァン」


 優雅な笑みを浮かべると、マーヴェスが近づいて来た。


「久しぶりだね?」

「そうだな」

「エヴァは……まあまあ近い方かな?」

「ご無沙汰しております」


 エヴァはしっかりきっぱり挨拶をした。


「エヴァとはどう? うまくいっている?」

「話す気はない」

「そうか。でも、可哀想に。ドノヴァンもエヴァも両親のせいで苦労している」

「お気遣いなく」


 エヴァはにっこり微笑んだ。


「素晴らしい方と結婚できたと思っております」

「エヴァはドノヴァンでいいのかな?」

「何か問題が?」

「愛し合って結婚したわけじゃない。問題だろう?」


 直球としか言いようがない言葉が、二人にぶつかった。


 ドノヴァンはマーヴェスを睨んだが、エヴァは動揺を隠しきれない。


 妻として、嫁として、どう対応すべきかについては教えられている。


 だが、心が揺れるばかり。


「ドノヴァンもエヴァも、金より愛を尊ぶ類の人間だ。だというのに、金で結ばれた結婚で満足できるわけがない。そうだろう?」


 二人は返すための言葉を探したが、見つけることができなかった。


「身分差がある。婚姻無効にするのは簡単だ。試用期間だと思えばいい。デルウィンザー公爵夫妻もそのつもりだろうしね」

「知った口をきくな」

「愛を尊ぶ者としての助言だよ。音楽家に愛は欠かせない」

「マーヴェス!」


 後ろから呼ぶ声が聞こえた。


「アンドール王子が呼んでいる」

「では、これで。エヴァ、また機会があれば会話を楽しもう」


 遠慮します!


 心の中でエヴァは答えた。


 相手の身分が高いために、直接は言えなかった。


「夫がいる前で妻を誘うとは……ふてぶてしい」

「会話をしようと言っただけです。社交辞令ですよね?」

「社交辞令であれば、私に言う。だというのに、エヴァに言った」

「大学祭のことかもしれません」

「何を話した? 思い出せ。全部話せ。屋敷に帰ったら詳しく聞く」

「前に説明しましたよね? あれ以上は何もないです」

「本当か?」

「本当です。ここは王宮ですよ? 何のことかと勘違いされたら大変です。続きは屋敷でお願いします」

「それもそうだな」


 だが、その会話に聞き耳を立てていた者たちがいた。


 面白そうだと思われてしまったことを、エヴァとドノヴァンは知らなかった。


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