16 思い出の品
「どうした?」
廊下で友人たちを待っているエヴァのところにドノヴァンが来た。
「一人でずっと廊下に立っていると聞いた」
「友人たちを待っているのです」
ドノヴァンは店を見た。
「ここは人気店だ。廊下で待っていると足が痛くなるかもしれない」
「いいのです」
「一緒に入れば良かったのではないか? 今日は大学祭だ。普段しないことに挑戦するのも悪くない。社会勉強の一環だろう?」
「実はそう思って中に入ったのです。でも、一対一なのです。グループではダメだって言われて、友人とは別の席になってしまいました」
「そうか。先に出て来たのか?」
「そうです。このお店はホストと呼ばれる接客担当者がサービスをしてくれるのです。でも、注文しないとダメなので、注文するように誘導しようとするのです」
「わかる。ここは男性がサービスをしてくれるが、女性がサービスをしてくれる店もある。男性客に優しくしたり甘えたりして注文させようとする。一種の駆け引き、ゲームのようなものだ」
「行ったこと、あるのですか?」
「ある。大学祭の店だ。友人たちと一緒に入ったが、別の席になった」
「同じような感じのお店ですね」
「居心地が悪くなって、先に出た」
「廊下で待っていたのですか?」
「まさか。一人で別の場所を見に行ったら、あとから友人たちも来た。大学祭は一人でもグループでも自由に過ごせばいい」
「そうですね」
「少し待っていろ。友人たちのことを聞いてみる」
ドノヴァンは店の中に入っていった。
しばらくすると出て来る。
「まだまだかかりそうでしたか?」
「わからない。エヴァの友人たちに、他を見て来ると伝えるよう頼んだ。チップを渡せば引き受けてくれる」
「なるほど。注文をしなくても、チップを渡せば伝言を頼めるのですね」
「ここに立っていても仕方がない。別のところに行こう。疲れていないか? 座れる場所を探すか?」
「そうですね。少し足が疲れました。でも、こういうお店には入りたくありません」
「わかっている。普通の飲食店に行こう」
ドノヴァンはエヴァを連れて普通の飲食店に向かった。
だが、どこも大盛況。空席がなかった。
「すまない」
「ドノヴァン様のせいではないです。このまま歩いていても疲れます。テイクアウトの飲み物を買って、適当にどこかに座りませんか?」
「適当にというのは……地面か?」
「階段のところとか」
「なるほど。地面よりはましだな」
二人はテイクアウトの飲み物を買い、花壇のふちに座ることにした。
「ようやく座れました!」
「そうだな。これほど座れなかったのは初めてかもしれない」
「いつもは混雑していないのですか?」
「そうではないが、友人たちが場所を確保する。その情報を聞いて移動するため、席に困ったことはない。少し待たされる程度だ」
「なるほど。友人がいる時とそうでない時の差ですね」
「普段から友人たちに支えてもらっている。私だけではエヴァの席を確保できないことがよくわかった」
「飲み物を奢ってくれました」
「座れそうな花壇を見つけたのはエヴァだ」
「二人の力を合わせた結果です。財力と視力と」
「財力と視力か」
ドノヴァンは笑った。
「確かに目の付け所がいい。階段と言っていただろう? 階段を探そうとした」
「私もそのつもりでした。でも、花壇のふちでもいいと思って」
「そうだな。座れるのであればどこでもいい」
「ドノヴァン様はどんなところを見に行ったのですか?」
「ホールの出し物を見ていた。有料席を買えばいい。いろいろ見ることができる」
「なるほど。座って見ることができるなら楽ですよね」
「友人たちが気になると言った場所も見に行った」
「一番良かったのは?」
ドノヴァンは考え込んだ。
「特別これといったものはなかった」
「一番悪かったのは?」
「メイドカフェだ。召使いは屋敷にいるだけに見慣れている。茶を出してくれるのだが、デルウィンザーの屋敷では侍従か侍女が出す。そして、ご主人様とは言わない。デルウィンザーでは名前に敬称をつけるか閣下だ。違和感しかなかった」
「ドノヴァン様らしい感想で面白いです」
エヴァは笑みを浮かべた。
「エヴァはどうだった?」
「あまり見てないのです。ずっと廊下に立っていたので」
「一番悪かったのはホストカフェか?」
「勉強になりました。お金を気にしないといけない人は楽しめない店です。会話が上手なホストでした。社交術に長けていそうです」
「そのような者が適役だろう。実際、社交術の勉強として出店許可を取っているはずだ」
「売り上げのナンバーワンを競っているそうです。上位だと賞品がもらえるとか」
「協力してほしいと言われたか?」
「そうです」
「ホステスカフェも同じだ。人気ナンバーワンになりたい。何かを注文するという形で応援してほしいと言われた」
「仕組みは一緒ですね」
「大学祭だからな。本当に売り上げを競うわけではない。いつもとは違う経験や体験に意味がある。ホストやホステスが欲しいのも賞品とは限らない。ナンバーワンになったという名誉が欲しいのかもしれない」
「なるほど」
「小物を売っている店もあった。一緒に見に行かないか? 土産になる」
「今日の思い出になりますね」
「一年毎に一つ買うのもいい。大学時代の思い出になる」
「素敵です」
「何か買ったか?」
「プログラムを買いました。それではダメでしょうか?」
「別のものがいい。私が買う。エヴァは心配しなくていい」
「まだまだお小遣いがあります。なので、ドノヴァン様こそ大丈夫です」
「エヴァの小遣いも私の小遣いも父上の金だ。結局、どちらが払っても一緒だ」
「それもそうですね」
二人は思い出になりそうな品を探しに行った。
エヴァが選んだのは、美術部が販売する似顔絵だった。
ドノヴァンをモデルにして、簡単な似顔絵を描いてもらった。
すばやく、それでいて特徴をとらえつつ、素敵に描いてもらえたといってエヴァは喜んだ。
ドノヴァンはエヴァの似顔絵を依頼しようとしたが、エヴァは恥ずかしがって断った。
そこで土産になりそうなものを探し、手作りの腕輪を購入した。
右用と左用がセットになったもので、一人で両方つけてもいいが、二人で一つずつ分け合ってもいい。
カップルに人気だと店員に売り込みをかけられ、ドノヴァンが購入した。
「私とエヴァで一つずつだ。一緒に大学祭を見て回った思い出になる」
「そうですね」
エヴァは腕輪を気に入った。
「嬉しいです。素敵な思い出の品です」
「喜んでくれて良かった」
二人は手をつなぐ。
その手には買ったばかりの腕輪がつけられていた。




