14 秋になって
夏休みが終わった。
学校が始まる。
久しぶりに行くのが嬉しくもあり、怖くもある新学期。
エヴァは友人たちと再会し、夏休みがどうだったのかを聞いた。
「たくさん楽しんだわ」
「素晴らしい夏だったわ!」
「学生っていいわよね!」
「最高の旅行だったわ」
友人たちは一緒に旅行した。
エヴァも誘われたが、身分の差は自由にできる行動の差につながる。
泣く泣く断った。
「エヴァにお土産を買ったのよ」
「何にしようか全員で考えたの」
「もちろん、変なものにしようとなって」
「絶対に公爵家では買わないようなものってことで」
四人からのお土産はお守りだった。
「いろいろと大変そうだから」
「いいことがたくさんあるようにね」
「幸せにならなくちゃ!」
「これまで苦労した分、ようやく報われたんだもの!」
エヴァは泣きそうになった。
「全然、変なものじゃないわ……ありがとう」
「いいのよ。正直、どこまで加護があるかわからないから」
「そうそう。激安だったのよ」
「こっちとしては嬉しいけれどね」
「ないよりましってことで!」
全員で笑い合う。
午前中はその笑顔が失われることなく終わった。
そして、昼食時間。
学校内にある食堂へ友人と一緒に行ったエヴァは驚くことになった。
「エヴァ!」
「ドノヴァン様?」
なぜか食堂にドノヴァンがいた。
「どうしてこちらに?」
「授業が休講になった。帰る時間が変わるため、伝えなくてはいけない。保護者であれば学校内を見学できると言われたため、食堂でエヴァを待つことにした」
「そうでしたか」
「友人か?」
エヴァと一緒にいた友人たちは緊張した。
「そうです。いつも話していると思うのですが、親しくしています。旅行に行ったので、お土産としてお守りをくれました」
「それは良かった」
ドノヴァンが優しく微笑む。
その威力は絶大で、エヴァも友人たちも目も口も大きく開けてしまうほど驚いた。
「エヴァは家の事情で苦労を重ねて来た。私と結婚したが、身分が変わったことでも苦労している。友人たちと交流する時間は息抜きになるだろう。これからも妻と仲良くしてほしい。土産の礼に昼食代は私が出そう。好きなものを食べるといい」
「よろしいのですか?」
「もちろんだ。それから帰りだが、学校に直接迎えに来る」
「わかりました」
「友人との時間を邪魔して悪かった。私はもう一度大学へ行く。午後に配布される資料を受け取りに行かなくてはいけない」
ドノヴァンはエヴァと友人の昼食代を支払うと立ち去った。
しかし、食堂中がドノヴァンの話題で持ち切り。
「まさかデルウィンザー伯爵と会えるなんて!」
「すごいわ!」
「お昼まで奢っていただいたわ!」
「これもお守りの効果だったり?」
エヴァは嬉しくてたまらない。
「私もドノヴァン様がわざわざ来てくださるなんて思わなくて……嬉しかったわ」
笑顔が溢れる。
それは学校生活においてとても大切なことだった。
「エヴァ!」
「ドノヴァン様!」
学校の馬車乗り場でも、エヴァと迎えに来たドノヴァンは注目の的だった。
二人はすぐに馬車に乗り込んだ。
「封筒が」
「すまない」
エヴァがいつも座る場所に書類封筒があったが、ドノヴァンが手に取った。
「大学で配布された資料ですよね? 随分と分厚いのですね?」
「飛び級用の資料だ」
「飛び級できそうですか?」
ドノヴァンは書類封筒を見つめた。
「検討中だ」
現時点においては計画的に単位を取得しているのもあって、飛び級卒業が可能そうではある。
しかし、講義ごとの課題が多く、卒論を書くための資料や調査集めの時間が不足していた。
「まあ、なるようになるだろう」
「最後はそう思うしかないですね」
二人は頷き合った。




