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結婚生活は真っ白で  作者: 美雪


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12/24

12 困った要求



 エヴァはアンドールの部屋に連れていかれた。


「私のおかげで助かったね」

「心から感謝申し上げます」


 授業で習ったように、エヴァは丁寧に一礼した。


「元貧乏男爵令嬢の割には、綺麗な礼ができるようだね」

「王立学校で学びました。デルウィンザー公爵家や礼儀作法の学校でも勉強中です」

「そうか」


 アンドールは微笑んだ。


「ダンス技能にも優れているようだね?」

「たしなみ程度です」

「学校での成績は?」

「ダンスはAでした」

「私はSだったよ」


 さすが王子……ドノヴァン様と同じですね!


 王立学校でSの評価を取るのは大変だけに、エヴァはアンドールの優秀さを理解した。


「エヴァは片方のピンヒールが折れてしまったのに、最後まで踊り切った。ドノヴァンのリードが素晴らしかったからだけど、エヴァもかなりのものだよ。とても良かった」

「ありがとうございます」

「母上の舞踏会でも踊っていたね」

「はい」

「とても美しかった。足がね。スカートがふわふわとしていたから見えてしまっていたよ」


 エヴァは目を見張った。


「一回だけの幸運だと思ったのに、三回もあるとは思わなかった。エヴァの足に見惚れてしまったよ」


 嫌な予感がする言葉。


「ディアドラから助けてあげただろう? お礼に足を見せてほしい」


 鳥肌が立つような言葉になった。


「恐れながら申し上げます。無理です」

「どうして?」

「貴族の女性たるもの、露出は控えなくてはなりません。足が見えないようにロングドレスを着用するのが基本です」

「そうだ。でも、エヴァは足を見せていたよね?」

「それは偶然です。そんなに見えていたでしょうか?」


 確かに軽い素材で、動くとふわふわと浮かんでしまうようなスカートだった。


 だが、作る時にデルウィンザー公爵夫人は問題ないと言っていた。


 足とはいっても、少しだけだったのではないかとエヴァは思った。


「最後のターンはふくらはぎが見えたよ。慣れて勢いをつけ過ぎたね」


 それはダメです!!!


 エヴァは心の中で叫んだ。


 平民なら関係ないが、貴族の女性が足を見せるのはよくない。


 足首までは問題ないが、ふくらはぎは見えすぎ。


「でも、踊り方とドレスがとても合っていた。バレエダンサーのようだったから、違和感もなくて軽やかで優雅な印象が強かった。ふくらはぎが見えたのは一瞬だけの魔法だと思ったよ」


 アンドールは思い出しながらうっとりとした。


「私は女性の足に興味がある。美しい足が好きだ。ピンヒールの踊り子も好きだし、バレエシューズを履いたバレエダンサーも好きだ。美しい足とダンスをたっぷり味わえるからね」


 なるほどとエヴァは思った。


「エヴァは身長が高い方ではない。ダンスもAだ。でも、バレエダンサーを彷彿とさせるつま先立ちのターンは本当に綺麗だった。バレエを習っていたのかな?」

「学校の授業で習いました」

「それだけであれほど綺麗に回れたのか」

「一応バレエの本を読んで知識を再確認し、ドノヴァン様と練習して実行可能かどうかを試しました。よろよろしたり転倒したりするようだと困るので」

「しっかりと準備をしていたようだね。素晴らしい足を早く見せて?」


 王女の要求も困ったけれど、王子の要求も困るわ!


 絶体絶命のピンチだとエヴァは思った。


 その時。


 ドアがノックされた。


「デルウィンザー伯爵が奥方の件で謁見を申し入れております」


 侍従の声が聞こえた。


 ドノヴァン様が助けに来てくれた!


 エヴァが心の中で叫んだ瞬間、ドアが勢いよく開いた。


 侍従を退かし、ドノヴァンが自分でドアを開けた証拠だった。


「緊急だと聞いて動揺しています。申し訳ありません。妻を迎えに来ました」


 ドノヴァンは冷たい視線でエヴァを見つめた。


「ディアドラ王女の呼び出しだと聞きました。牢屋にいなくてなによりです」

「私が助けてあげたんだよ」

「ありがとうございます。ですが、エヴァの足は見せません」


 聞いていたの?!


 エヴァは心の中でまたもや叫んだ。


「エヴァは私の妻です。夫以外の男性に足を見せれば評判が下がります」

「たくさんの男性に見せていたよ。舞踏会でね」

「あれは偶然です。エヴァには責任がありません。あのドレスを選んだ者、デザインした者に責任があります」

「少しだけならいいよね? さすがに膝は要求しない。ふくらはぎで手を打つよ」

「足首でも応じません。妻の足を取引に使うような夫はクズです」

「ケチ」

「なんとでも。エヴァ、行くぞ」


 ドノヴァンは手を差し出した。


「ご配慮いただきありがとうございました。夫が迎えに来ましたので、これにて失礼させていただきます」

「マナー本通りだね。ドノヴァンは手強いから、また今度見せてくれればいいよ」

「見せません!」

 

 ドノヴァンは力強く宣言すると、一礼してエヴァを連れて出た。


「ごめんなさい」

「エヴァは悪くない。どう考えても悪くない。悪いのは誰かも、それを悪用しようとする者がいるのも明白だ!」


 急使から事情を聞いたドノヴァンは友人との予定を変更して王宮に馬を走らせた。


そして、帰る時に備えてデルウィンザーの屋敷から馬車を出すよう友人にも頼んでいた。


「一緒に帰る。絶対に屋敷から出るなと言っただろう? 病気で寝込んでいると言えば、呼び出しに応じなくても処罰されなかった」

「ああ、その手がありました!」


 ドノヴァンの優秀さをまた一つ、エヴァは知ることになった。


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