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1-1 婚約破棄×聖女剥奪×追放の逆境フルコンボ

「――どうか僕と結婚してください!」


 銀髪の異端審問官はモニカの両手を包むように握り、狂気に魅入られた眼差しを注いだ。


「ダメだ。モニカは俺が国に連れて帰る」


 異端審問官から引きはがすように、黒髪の人狼王子がモニカの腰を抱き寄せる。


(……どうしてこうなった?)


 対照的な二人の青年に板挟みにされたモニカは、疑問符でいっぱいの頭を抱えた。

 よりよって、冤罪で聖女の称号を剥奪・追放された翌日に、ほぼ初対面の二人から同時にプロポーズされるなんて。


(称号剥奪だけでも頭が追い付いてないのに、どうしてこんなことに……!)


 嘆くモニカの脳裏に、すべての発端である忌まわしいあの情景がよみがえった。



「聖女モニカ=システィーナ! 王族に対する傷害、および禁術使用、さらに横領の罪により、聖女の称号(システィーナ)を剥奪、聖王直轄領(ちょっかつりょう)から追放とする! 当然、この俺――レイフォルド聖王国王太子レイドールとの婚約も破棄だ!」


 玉座の間に召集された全員に聞こえるようにレイドールは声を張りあげる。


 呼び出された段階である程度予想はしていたが、レイドールの言葉を聞いた瞬間、モニカは目の前が真っ白になった。


(称号剥奪、追放、婚約破棄……)


 科された制裁が頭の中でこだまする。


(……せっかくここまで成りあがったのに、こんなに簡単になかったことにされるの? 私の大事な聖女の地位(金づる)が?)


 感情の昂りとともに、視界がだんだんと色を取り戻していく。


 一番最初にモニカの目に映ったのは、建国の祖・初代聖王の生き写しと称される、いかにも王子様然としたレイドールの耽美(たんび)な顔だった。その口元には下卑た笑みが浮かんでおり、見目の良さを大きく損なっている。


(人の一生が台無しにされてるっていうのに、なんで笑っていられるのよ)


 モニカは湧きあがる怒りを腹の中にしまい込み、「聖女モニカ=システィーナ」としての仮面をかぶる。


「そんな……」


 悲愴感あふれるか細い呟きを漏らし、膝から崩れ落ちた。

 懸命に動揺を抑えているように見せるため、胸の前で祈りの形に両手を組んだ。手が白くなるほど強く握りこみ、小刻みに震わせる。


「これは、何かの間違いです……信じてください、レイドール様!」


 モニカは夕陽色の瞳を潤ませ、レイドールを見上げた。あくまで潤ませるだけだ。けっして涙は落とさない。


「っ……そんな目で見られても、だな……」


 古典的なうるうる上目遣いに当てられたレイドールはかすかに頬を赤らめ、眉根を寄せる。


(ちょろい。これで少しでも減刑に……は、ならないか)


 モニカは鼻で笑いたくなるのをこらえ、さらに情に訴えた。


「レイドール様に疑われるようなことをしてしまった時点で、私に非があるのでしょう。ですが恥を忍んで申しあげます。せめて禁術使用の件だけでも、再度審理をしていただけないでしょうか」

「再審理、ね……」


 レイドールは自分の顔に手を這わせ、舐めまわすような視線をモニカに向けた。


(レイドール様って顔は良いのになんか気持ち悪いのなんでだろ)


 失礼極まりないことを考えながら、モニカは憐れな仔ウサギを演じ続ける。


(ぶっちゃけレイドール様との婚約破棄は正直どうでもいいのよね)


 聖女と王太子の婚約・結婚は、言ってしまえばただの古臭い慣習だ。初代聖王レイフォルドとその妻、初代聖女システィーナに(なら)っている。

 聖女の称号が「システィーナ」であるのも彼女が由来だ。伝説の聖女にあやかろうと、聖王国では高い治癒術の能力と優れた品格などを兼ね備えた聖職者の女性を聖女に据えていた。


(あーあ、禁術を疑われるような力じゃなくて、聖女システィーナみたいな万能の聖なる力があればなぁ……いやいや、現実逃避してる場合じゃないわ)


 聖女の称号剥奪と聖王直轄領からの追放は非常に困る。死活問題だ。聖女の称号がなければお偉方からの寄進がもらえない

 聖都を有する聖王直轄領以外の地域では、民は質素で牧歌的な暮らしをしている。もっと率直に言えば、一生を農耕と納税で終える。


 そんな生活では、背負っているものをとても(まかな)えない。


 刑の内容だけでなく、罪状自体も問題だ。

 聞こえがすこぶる悪い。

 王族に対する傷害。禁術の使用。横領。

 しかしこれだけ罪が揃っていて追放程度で済むのが不可解だ。


(傷害と禁術については嫌疑がかかるのも、納得はいかないけど、まぁわかる。でも横領って何? 王子がくれた趣味のよろしくないアクセを現金化してたのがバレた? でもこれって横領? ああもう、経典だけじゃなくて法律もちゃんと勉強するんだった!)


 勢いあまって感情が顔に出てしまいそうになり、モニカはウィンプル(ヘアバンド付きのヴェール)のヴェール部分で涙をぬぐう振りをした。ついでに周囲の様子も窺っておく。


(駆り出されたお歴々の中に、誰か援護してくれそうな人はいないかな、っと……)


 玉座の間にいるのは、文官・武官のそれぞれの長とその補佐官。聖職者を統括する神官長。聖堂騎士団団長。さらには、職掌柄めったに公の場に出ることのない異端審問官の姿もあった。

 他の面々と比べて銀髪の異端審問官だけが妙に年若い。二十代前半くらいに見える。中性的で美しい顔をしていることもあって目を引いた。


(あの銀髪、禁術の検証に立ち会ってた人だ)


 モニカは自分の記憶の中に、彼の特徴的な外見と合致するものを見出す。


(確かサイなんとかって名乗ってたっけ……。私が使った治療術が禁術に該当するかどうかはまだ審議中だったはず。あいつが王子に買収かなんかされたから急にこんなことになったのね、きっと)


 不意に、銀髪の異端審問官と目が合った――気がした。

 彼の澄んだライムグリーンの瞳には光がなく、思考や感情が読み取れない。


(顔は綺麗だけどこわっ。そういえば異端審問課の応援に駆り出された准聖女がそのあと急にメンタル病んだとかで音信不通になってたな……。ちょっと関わっただけでもそんななんだから、異端審問官(あいつら)に目を付けられたら命なんていくつあっても足りないわ)


 異端審問課は審問院という司法機関の下部組織にあたる。その実態は武闘派の諜報機関だとか、彼らに一度でも異端判定されると五体満足ではいられないなど、物騒な噂をよく耳にする。


 モニカは銀髪の異端審問官から視線を逸らし、空席の玉座へと向けた。


 レイドールの父である現聖王は病気療養中のため不在だ。

 だからこそ、レイドールが聖王の名代として幅を利かせている。断罪の場にわざわざお歴々を呼び集めたのも「自分が次期聖王である」という示威行為だろう。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

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