【第一章】生まれてから、〈episode 2〉
「——じゃあ、またね」
「じゃあねー」
「うん、また」
小学五年生の帰り道。自分の苦しみを分かり合える友達が二人できた。
一人は白血病。
もう一人は癌であった。
——この二人が、自分のこれからに多大な影響を及ぼすことを、俺はまだ知らない。
代わりにたくさんのことを知れた。
俺の家庭が如何に普通でないかを知った。
自己の苦しみを分かってもらう事の嬉しさを知った。
家庭に悩みがあることを打ち明けたのは初めてだった。
嬉しい、楽しい、と思えることが増えてきた。
そんなある日のこと。
俺の家に、一本の電話がかかってきた。
白血病の友人だった。
『最近、しんどくなってきたんだよね。だんだん、悪化しているような気がして』
全てを、諦めたような口振りであれど、覚悟に満ち足りた声だった。
なんとなく、嫌な予感がした。
『——病気に、負けるくらいなら、さ』
……うそ、でしょう…………。
『自分からが、いいんだ』
嫌な予感が、的中してしまった。
「そ、うなんだ……」
かかってきた電話は、自殺予告の電話となってしまった。
『病気に負けて、死ぬくらいなら、自分から、死にたいんだ』
でも。
でも、“生きて”、なんて言えない。
苦しんでいるのに、悩んでいるのに、生きて、だなんて残酷だ。
残酷だけれど。生きていてほしいというのも本音で。
でも、ずっと隣で苦しんでいる姿を見てきていた俺には、そんなことは言えなくて。
友人を、これ以上傷つけるようなことはしたくなくて。
「うん、うん……。そうなんだ…………。……頑張ってね」
そう、言うことしか、出来なかった。
そのまま壁にもたれかかるように、しゃがみ込んだ。
俺は、何を言うべきだったんだろうか。
どうしてあげるべきだったんだろうか。
俺が——何か、してあげられることはなかったのだろうか。
どうしよう。本当に、いなくなってしまうの?
どうしよう、どうしよう——
いつの間にか、考え込みすぎて、そのまま寝てしまっていた。
「ん……あれ……」
どれくらい、寝ていただろう。
「あ……。どう、なったんだろう」
と、とりあえず、連絡してみよう。
[R:大丈夫?]
既読、つくかな……。
「えっ」
き、既読ついた……!
[K:大丈夫だよ]
よかった……。
俺は、恐る恐る聞くことを決める。
震える指で、送信ボタンを送った。
[R:どうなったの?]
…………っ。やっぱり、あんまり聞かない方が良かったかな……。
[K:弟が、止めてくれた]
[K:安静にしていればいいみたいだから]
[K:心配してくれて、応援してくれて、ありがとう]
「——……っ……!」
俺は、何もしてない。
なのに——そんな、感謝の言葉をもらっていいの?
ダメだよ……。俺は……君のためだと思って、自殺を、応援してしまったんだよ…………?
「っ、ダメ、だよ……っ」




