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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

【閲覧注意】交縁(大久保公園)で女性を買った話

作者: 森田二世

         『電流』



あれは少し暖かくなり始めた春頃だった。

私は会社でボーナスが出たので、歌舞伎町で遊ぶことにした。

普段行ってるキャバクラや居酒屋もいいが、私は最近ひそかに話題になっている“交縁”とやらが気になっていた。


それは、女性が大久保公園の周りに立ち、売春をする場所を指す用語らしい。

ツイッターに丁寧に描かれたマップがあるので、それを頼りに散策する。




10分くらい歩き回り、私好みの女性を見つけた。

肉つきがよく、背が高い。172cmの私と同じくらいの背丈だ。

私は彼女に声をかける。2万円ということで、(当時は割高だったらしい)ホテルに移動する。


ホテルに入り、私は自己紹介をし、彼女の名前も聞いた。彼女はエリ(偽名)と名乗った。

服を脱ぐ。

少し小麦色の肌と、大きめの胸が魅力的だった。




シャワーを浴びた後、会話を続ける。

「エリ、どうしてこんなことをしているんだい?」と私は尋ねた。


エリは少し考え込み

「夢があるの」

と答えた。


「私はデザイナーになりたい。自分のブランドを立ち上げるためにお金が必要なの。」


彼女の目には、強い決意が感じられた。エリはただの見た目だけではなく、内側にも情熱を持っている女性だった。


私たちは少し話をしながら時間を過ごした。

彼女は思った以上に面白く、知識も豊富で、話が弾んだ。





私は彼女のことを好きになってしまった。

彼女の純粋さと、どこか儚い表情に完全に引き込まれた。


でも最初は彼女のことを内心見下していた。街に立ってこんなことするのは破廉恥だ。





行為が終わり、シャワーを浴びて外へ出る。

「今日はありがとう。楽しかったよ」

「私も楽しかった」

好きではあるが、一期一会だと思ってるから連絡先は交換しなかった。


これで終わり。それでいいと割り切ったつもりだった。









_______________________________________________





それから数ヶ月後、私はいつも通り職場で仕事をしていた。

違う部署で何やら見かけない女性がいる。

新入社員のようだ。

通路を移動するとき、横目で見ると目が合った。



その瞬間体に電流が走った。



———ビリビリビリビリビリ———



一気に思い出した。

あの瞳、雰囲気。

彼女に似てる。

タイプではないが、限りなく彼女に近い。


半分忘れていた記憶がまた襲う。

閉じられていた本が、強風に吹かれ一気にめくれるように、一瞬で鮮明に思い出してしまった。



この恋、5年ぶりだ。



急に胸が苦しくなった。

張り裂けそうなほど。




(会いたい。)




あれ?不思議だ。

あの頃はそこまで熱中していなかったのに。


彼女の片鱗を思い出すと、私の中の何かが狂ったように求める。






それから1週間ほどして。自分の異変に気づく。


彼女に対する切望が度を越して、「会いたい」「今どうしてるのか」「もう二度と会えない」

が延々と渦巻く。


仕事でも不調が起こる。

単純な動作もまともにできない。

脳内に彼女が埋め尽くされ、常に何かを考えている状態なので手元さえまともに動かなくなってきた。



「死んでもいいから会いたい」



そう思うようになった。




私は転職した。これは前から患っていた人間関係のせいだ。この悩みのせいで悪化したのかは分からない。




職場の人間関係がリセットされたわけだ。

ただでさえ鬱気味の私に友達はすぐにできない。

私は仕事終わりに通話アプリで見知らぬ人と話す癖ができた。そこである友達ができる。

悩みもなんでも聞いてくれる親身な男だ。



その彼に苦渋の中相談したある一節がある。


「俺は、彼女が好きで仕方がない。今までどんなに愛した人とも、どんなに仲のいい人とも縁が切れてもいい。ただ、彼女に会いたい。」


彼は言う

「それかっこいいな」

男にかっこいいと言われたのは初めてだ。


「ほんと?これかっこいいの?執着しすぎで気持ち悪くないの?」

私は確認するように聞き返した。


「いや、それはかっこいいな」


私。男は、ここまで狂わないとかっこいいとは言われないのかと思った。





そして、精神状態は本格的に悪化してきた。

彼女のことを思い出すと、呼吸困難のようになる。

しっかり息を吸っているのに息切れのように苦しい。心臓の音がバクバク鳴って、音が聞こえるほどだ。

ネットの友達は抑うつを患っているらしく、私に精神科に行って薬をもらうことを勧める。

それに対し私は


「これは自分で向き合って解決したい問題なんだ。薬で片付けたくない。」

と言った。





諦め切れない私は、ある決心をする。

歌舞伎町に行って、まだいるか確かめよう。

私は足を洗って忘れたつもりだった。

でももう止められない。ダメだと思っていたことも止められない。それくらい本気だった。



私は連休に有給をつなぎ合わせ、歌舞伎町に行く。

夜8時頃。交縁を一周した。いない。


30分ほど時間を空けてまた一周。いない。

何度か繰り返した。

1日目はいなかった。私はその後居酒屋で一服した。

ここで女遊びをする精神状態ではなかった。

2日目も同じようにいなかった。



3日目。少し時間を遅めにして行った。彼女と初めて会ったときと同じくらいの時間に。


(あ、あのスタイル)

遠目でわかった。彼女に似ている。


近づくに連れ確信に変わった。

彼女に声をかける。


「俺のこと、覚えてる?」

おそるおそる聞いた。


「うん、覚えてるよ、久しぶり!」

案外気さくに答えてくれた。




ホテルに向かう。私は今まで溜めた感情が溢れそうで怖くて、何も話せなかった。何か話していたとしても、私は覚えていない。


ホテルに入る。

シャワーを浴び、ベッドへ。

一連の行為をして、私は彼女を見回した。

やはり美しい。

私は、だんだん彼女に対する好意が独占欲に変わっていくことをこの身に感じた。



半年間引きずったこの思い。

彼女だけでいいと思った。

他に誰もいらない。

この世界にふたりだけでいいと。

彼女が欲しい。手に入れたい。

他の誰にも触れられたくない。

苦しい、辛い。

俺のものにしたい。




私は急に立ち上がり、自分のカバンに手を入れ、忍ばせていた銀色に輝く刃を手にした。



彼女は悲鳴をあげて逃げる。

だが私は壁に彼女を追い詰める。

今までに見たことのない表情だ。

それさえも美しい。

私はそのまま彼女の胸を刺した。

飛び跳ねる血しぶき。

胸を押さえて倒れ込む彼女。




これで誰のものでもない。

やっと、俺のものだ。





______________________________________________



※この物語はフィクションです。

正確に言うと、精神状態がおかしくなって呼吸困難になるまでは本当で、探しには行ってません。

その後のストーリーは私の熱狂的な愛を表現するために書きました。

でも、当時は死ぬ覚悟があったので、できたかも知れません。



まさかそんな人に恋するとは思ってなかった。

もう二度とこんな恋はしたくない。



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― 新着の感想 ―
[一言] おっと、最後はこういう終わり方でしたか...! 面白い話をありがとうございました!
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