03 生贄にされた!
「ぜぇっ……はあ……疲れた……」
私の目の前にそびえたつ城――ジェノサイド・ダークネス・インフェル――ああもう長い! 魔王城でいいや!
に到着した。
ここまで来るのにどれほどの苦労を……まず、道を歩いていたら、盗賊に襲われそうになった。
盗賊は全員ボコボコにした。
次に、巨大な犬と出会った。
モフってたら襲ってきたのでボコボコにした。
他にもいろんな奴らに襲われたので、とりあえず全員ボコした。
襲ってくる方が悪い。私、正当防衛だからね?
「……? 何このビラ……」
風で飛んできたのか、足元に一枚の紙が張り付いている。
何気なくそれを拾ってみると――
「……魔王軍……求人……?……いや、なんで魔王軍が求人してんだよ! というか人じゃねーだろ! そんな設定に私した覚えは――あるな。ネタ要素入れたくて、結構入れたな……」
私には没になった設定をちょこちょことため込む性質があり、そのネタを別ゲーで使ったりするのだが。
この魔王軍のコミカルさも、私の過去のシリアスゲーでやりたかったことなのだが、泣く泣くカットし今回のところに入れることになったのを思い出した。
まあ、結果的に魔王軍ルートは廃棄されましたけど……サブストーリとかでやってみてもいいかなとは思ってたけど……
「求人をしてるならちょうどいいかな……私もその求人面接とやらを受けてみるかぁ……」
子供っぽい幼稚な絵と文章で求人募集と書かれたビラを眺めると開催日はどうやら明後日らしい。
なかなかいいタイミングで魔王城に来れてよかった。
けど明後日までどう過ごそう……? そういえば近くに最後のセーブポイントであり、安らげる村作ってたな……そこに宿屋もあったはず……じゃあそこの村まで引き返すかぁ……
引き返すのは大変面倒なのだが、しょうがないだろう。
長い道を振り返り、村のある方向へと進む――というか後退する。
◇ ◇ ◇
「――そういえばお金どうなってんだろ……」
村の明かりが見えてきた時に、ふと、この世界でも大事なお金のことを思い出す。
お金はどの世界線に行っても大事。
ゲーム内では持ち歩いている貴重品袋(譲渡、破壊、入手不可)の中に入っているのだが……
あ、貴重品袋。
腰の後ろに巻いてあるポーチの付いたベルトのうちの一つにお金は入っていた。
しかも、ラストギリギリまで節約した時の金額だ。
何でこんなに――ってそっか! このゲームでは現実で主人公の所持金がこっちの通貨に変わるんだっけ……なーるほど! これだけの金があれば引きこもれる! ま、やらないけど。
今は、魔王軍に入る方が大事!
「――あれ? なんか騒がしいな……とりあえず宿屋に行こう」
村は何やら騒いでいたが気にせずとりあえず安息の場所を求めに行く。
騒ぎの原因……なんかあったような……?
◇ ◇ ◇
「いらっしゃいませ、ご宿泊の方ですね?」
「はい。宿泊代は前払いで」
「了解しました。銀貨三枚です」
言われたとおりに銀貨三枚を受付にいる少女に渡す。
ついでに騒ぎの原因も聞いてみようかな?
「なんで、こんな村が騒がしいんですか?」
「それはその……実はここで討伐ランクAの魔物、宝石蜥蜴が最近出没して……それで村の人たちがどんどん攫われていくんです……冒険者組合にも応援要請はしたのですが……ギルドマスターに一か月待ちの判決を下されて……」
「それで騒いでるんですね……」
「はい……それで今は、生贄を差し出せばいいのではないかという事で誰がやるかでもめています……」
それ……もしかしなくても私が生贄になるやつでは……?
いや! そんなことは無いと信じたい! 信じなきゃやってられねー!
「それじゃ私はそろそろ部屋に行きます」
「はい、ごゆっくり」
少女が妖しげな笑みを浮かべたのを見て私は直感的に悟った――
これ……死んだな。と
◇ ◇ ◇
~翌日~
「ふわ……あれ……ここは……? 宿屋の部屋で寝てたはずじゃ……」
目を覚ますとどこかの森の中だった。
この時点で悟った。あ、これ生贄にされたな……
白い台座の上で寝ころばせられ、幸い衣服ははぎ取られなかった。よかった。
拘束具が私の手足の自由を奪っている。
口にはなにもされていないので、しゃべることはできる。
良かった。
「――破壊の力を個体名ベルフェゴールに付与」
というわけで、台座ごとぶっ壊した。
かなーり、派手な音がしたため、噂の宝石蜥蜴もやってくるだろう。
我ながら厄介なことに巻き込まれたものだ……まったく……
「はぁ……面倒だけど……討伐してあげるから出てきな? 宝石蜥蜴」
シュルシュルと何かが這いずる音が聞こえてくる。
あ、これは来たな。
嘆息しながら私はそう宣言するのであった――
~というわけで、前回書けなかった、創造と破壊の力について~
創造の力とは?
創造の力というのは怠惰スキル保持者の特殊パラメーター『覚醒(起きている時間)』を2消費することでありとあらゆるものを生み出したり作ったりすることのできる力。
『覚醒』は一分で10溜まり、最大で10万(約三時間ほど)までためることができる。
~創造の力でできること~
・自身の記憶にあるものの再現(世界に存在しないものだと再現するのに力が多くなる)
・建物を建てる(すぐに作れるものはすぐ壊れるが一か月ほどゆっくりと構築していったら要塞ぐらいの強度になる)
破壊の力とは?
破壊の力は創造の力の真逆で、怠惰スキル保持者の特殊パラメーター『睡眠(眠っていた時間)』を2消費することでありとあらゆるものを破壊しつくす破壊の力が生まれる。
その力を物に込めたりすることで物質の破壊が可能になる(補足:かなりの力を籠めると物質を存在ごと抹消することが可能になる)
『睡眠』は睡眠時間一分で100溜まり、際限なくためることが出来る。
物や他人に力を付与することも可能だけど、自分に付与するのが一番手っ取り早い。