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1 婚約破棄を誓われちゃった


 真夜中。森。

 あちこちから、正体のわからない生物の鳴き声やら唸り声が聞こえている。


 そして、木の枝をどかしたり、ところどころスカートを引っ掛けたり破れたりしながらもビクビクと、高いヒールで獣道を進む着飾った少女が一人。


「ひぃっ、なんか色んな鳴き声が聞こえる、うぅ、怖いよぉ……」


(こんなはずじゃなかったのに。足は痛いし、寒いし、怖いし、帰りたいし。)


 後悔どころの話ではない、今日は少女にとって予想だにしない怒涛の1日であった。


「本当なら今ごろ暖かいベッドで横になっていたはずなのに……いや、良くて独房にでも入ってたのかな…」


 少女はぶるり、と身を震わせる。

 

「どうしてこんなことに……」


 少女は大声で空に叫んだ。


「私のばかーーーーー!!」



◇◇◇◇◇



 時は遡ること、数刻前。

 この国の王子の学園の卒業をお祝いする国王主催のパーティーにて。


「ルチアナ・シャークガイア、お前に婚約破棄を言い渡す!」


「え?」


 あまりの突拍子のなさに、ルチアナは動揺よりも王子に対する呆れが勝った。


 (いくら馬鹿だ馬鹿だとは思っていたが、ここまで救いようがなかったとは)


「知らないとは言わせないぞ! 度重なるセリアへの悪質な嫌がらせに、殺人未遂まで行ったお前のような奴を王家に迎え入れるわけにはいかない!」


 自分が正しいことをしていると信じて疑わないドヤ顔でそう言うのは、ルチアナの婚約者でありこの国の第二王子であるランヘッド・スタニチアである。そして、セリアとは、ランヘッドの平民出身の恋人である。今もセリアは、ランヘッドの腕の中で可愛いらしく、ふるふると震えている。


 そう、 この国は一夫一妻制であり、ルチアナという婚約者がいながら、すでに恋人がいるのである。


 はぁ、と思わずルチアナはため息を吐く。


「殿下、落ち着かれてください。とりあえずお話は別の場所で行いましょう。このような公の、」


「そう、それだよ。お前の、その人を小馬鹿にしたような態度にはもううんざりだ!」


 ルチアナの言葉を遮り、ランヘッドは怒鳴る。このような国王主催のパーティーで、大勢の貴族の前で、このような醜態、スキャンダルもいいところだ。


「まず第一に、私は殺人を行ったことも行おうとしたこともございません。私に対する大きな侮辱でございます。そして、結婚とは当人同士の問題だけではございません。王家とシャークガイア家の関係にも関わってきます。まずは、国王陛下も交えてお話ししなければなりません」


 ルチアナがセリアへの嫌がらせなんてできるはずがない。何故なら、王子殿下にもセリアにもまったく興味がなかったため、学園で二人がイチャイチャしていても近づきもしなかったし、関わりたくもなかった。


 ランヘッドにルチアナという婚約者がいることは学園の生徒だけでなく、誰でも知っている。平民でさえも。それにもかかわらず、学園内ではランヘッドとセリアは逢瀬を重ね続けていた。


 二人が立場を考えないバカップルだとしても、ルチアナの婚約者という立場は、平民の愛人が脅かすことはできないと思っていたので、個別に注意したりするようなこともしなかった。そのため、ルチアナとセリアには接点などほとんどないはずである。


 この女嘘ついてるわね、ルチアナはヒヤリとした目をセリアに向ける。

 そのような目を向けられたセリアは、びくりと肩を震わす。


「おお、可哀想に。その目を止めろ! セリアが怯えている!」


 バカ王子が何か言っているが、ルチアナは無視を決め込む。


(これはもう、今は私が何を言ってもダメね……)


 殺人事件云々に関しては本当に冤罪もいいところである。学園祭にセリアが何者かに狙われるという事件が起こった。そこで疑われたのがルチアナである。事件が起こった時間帯、ほとんどの者にはアリバイがあった。ルチアナには学園祭を共に過ごすような友だちはいないので、アリバイはなかった。


 アリバイがなかったのはルチアナだけではなかったが、セリアが流したルチアナに対する悪い噂も相まり犯人だと疑われた。


 しかし、ルチアナは何もやっていないため、当然証拠はない。そのため、ルチアナが捕まることこそなかったが、事情聴取を終えてからの、学園の生徒がルチアナを見る目は、犯罪者を見るそれだった。


「そもそも、お前が貴重な魔力を持っているから婚約したのに、いまだに何ひとつ魔法を使えないとは!」


 この言葉に、ルチアナは押し黙る。


 事実である。この国には、魔法士というのはごく僅かだが存在する。魔法士はとても貴重であり、人々の生活を助け、重宝される存在だ。


 そもそも、魔法士というものは魔力を持っている人間でなければならず、本人の努力でどうこうなるものではない。魔力を有している人間の多くは、大抵15歳までに魔法を開花させ様々な恩恵を人々に与える。



 ルチアナは幼い頃に膨大な魔力を有していることが判明し、ランヘッドの婚約者の座におさまったのだが、16歳になった今もルチアナはいまだに魔法が何ひとつ扱えない。



(伯爵様も私の魔力を見込んで死にかけのところを拾ってくれたのに、恩も返せずに……)



「とにかく! お前みたいな魔法も使えなくてドジで可愛げがない女はこりごりだ! 今ここで! この国の皇子であるランヘッド・スタニチアはシュトッタルの鐘に誓う! ルチアナ・シャークガイアとの婚約を破棄すると! 」



(あ、無理だわ。シュトッタルの鐘に誓われちゃった…。これは撤回できないわね……)


 シュトッタルの鐘とは、我がスタニチア国民なら誰でも礼拝したことのある教会の鐘である。

 生誕、誕生日などの記念日、成人、結婚、葬儀、などの人生の節目に、必ず国民はシュトッタルの鐘に報告する。


 そのような国民にとっての神聖な鐘に誓ったことは、撤回など許されない。暗黙のルールである。



(次にあの鐘に参る時は結婚の時だと思ってたけど、16の誕生日から一年も経たないうちに、婚約者に婚約破棄を誓われちゃうなんて……)



 「シュトッタルの鐘への誓いをなかったことにはできない。そして、お前にはこれから独房に入ってもらう! 衛兵、ルチアナをひっ捕えよ!」


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