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AMF - ACD財団極東支部 対バケモノ特務部隊  作者: 惰犬
1 - 新たな世界と新たな秩序
5/6

1.3.5 - 関係

 明りの消された部屋を照らすのは、複雑な明滅を繰り返す、くすんだ弱い明かりのみ。その明りの正体は、壁一面に敷き詰められた様々な大きさのモニターが映す映像だった。モニターの大半は何処かの固定カメラの映像を映しているようで、動きは殆どない。しかし、中央に設置されたひと際大きなモニターには、目まぐるしく動く映像を映していた。

 映像には人影が2つ。1つは長い棒状のものを握る成人女性。もう1つの人影は、女性の二倍はある巨体を持つPositive。手ブレや砂埃が影響して詳細は良く見えない。しかし、2つの人影はまるでアクション映画でも見ているかの様に激しく、現実離れをした動きをしている事は良く分かる。

 巨体のPositiveは大きく雄たけびを上げると、その巨体を文字通り無茶苦茶に振り回して暴れ始める。大きく振りかぶり、振り下ろされた大きな拳はコンクリートの床を易々と破壊する。砂埃が一面に舞うも、すぐに振り払われた腕により砂埃は太い柱と一緒に吹き飛ばしてしまった。軽々と吹き飛ばされた柱からは太い鉄筋が何本も飛び出していた。見た目にたがわぬ膂力だ。対して成人女性は、Positiveの攻撃を避ける事しかできていない。しかし、追いつめられている訳では決していない。女性はPositiveの攻撃を余裕のある、美しいとも思える程の身のこなしで避けていくのだ。一連の攻防の後、Positiveと女性は互いに距離を取る。Positiveは再度大きく威嚇を取り、女性は手に持った長い物を構える。今なら二人の顔がよく見える。

 小さい画面や操作盤の敷き詰められている机を挟み、少し崩した姿勢で椅子に座る黒瓦谷が居た。いつからそうしていたのか、カップに入れられていたコーヒーは既に冷たくなっており、操作盤の上にかぶさるように様々な資料が散りばめられていた。黒瓦谷はモニターに映る吾島と旧部の姿を見ると、おもむろに資料の中からよれた数枚の紙を手に取った。

 この紙には旧部朱璃という人物についての情報が載っている。書かれている情報は個人情報というよりも、精神面、肉体面、頭脳面をまとめ、様々な分析結果をまとめた専門的なプロファイルに近い。

 分析によれば『正義感が強く自分を強く持っている。しかし、少し悲観的でリアリストな側面も持ち合わせている。理想と現実の折り合いを付けることができ、その場の状況に応じた合理的な判断を下すことが出来る』と評価されている。性根も善性で、素行もおかしなところはないとされている。総合的な評価では『聡く、精神面も人一倍強い。それでいて、この年齢にしては精神面が成熟している』とのこと。身体についても言及されているが、健康面を始め身体能力も同年代の女性とほぼ同等、若しくは少し高い。といった具合だった。

 映像の中では、二人の戦闘が続いていた。変わらず旧部の防戦一方だが、始まって既に十分以上経つ。精神面はともかく、この映像の中の旧部の身体能力は、調査結果の言う『同年代の女性とほぼ同等、若しくは少し高い』では説明が全くつかないだろう。旧部の動きは、ヒトの限界をゆうに超えたモノだった。どの攻撃に対しても紙一重によけているが、そのどの動きにも一切のムダが無い。四肢を存分に使い猛々しくも感じる動きだが、同時にしなやかで柔軟に、機敏に避けているのだ。しかし、誰が見てもこの戦いに勝機を見出す事は出来ないだろう。唯一あるとすれば、旧部の握る一振りの刀だろうか。

 旧部の手に握られているのはSFチックなデザインの特注の刀だ。この刀は理論上、何でも切ることが出来る。鋼の塊ですら豆腐のように易々と切断することが出来るのだ。しかし、そんな話が簡単に実現できる様な都合のいい物ではない。刃先の鋭さの代償として普通の刀より非常に脆いのだ。ただの刀ですら力の入れ方次第で切れるものも切ることが出来なくなり、下手をすれば刃こぼれを起こす。とてもではないが、素人が扱える代物ではない。そういう意味では鉄パイプの方が幾分マシと言えるだろう。それ以前に旧部はただの人間なのだ。

 どんなに肉体を鍛えたとしても、人間は人間の範疇を越える事はない。それは人としての限界であり、限度なのだ。しかし、Positiveは違う。人の範疇に増す形で身体能力が付与される。それは単純な増加だが、下限すらも増加する。皮肉だが、Positiveとは人間の範疇を越えた存在なのだ。

 そんな人を越えた存在に、ただの人間である旧部が立ち向かっている。単純な身体能力が大きく違うというのに、正面から、それも暴走状態のPositiveと命の取り合いをするというのだ。どれだけ善戦しようとも、だれもこの勝負に希望は見いだせないだろう。既に決められたこの結果を見るまでは。

 吾島は右腕を上げると、助走を付けて旧部へと振り下ろす。旧部は難なく避け、少し距離を取る。しかし、旧部の動きは先ほどまでと比べると少し乱れが見え始めていた。吾島は休むことなく旧部との距離を詰めると、再度右腕を上げ、旧部へと振り下ろす。旧部は間一髪で避けたものの、限界が訪れたのか姿勢を崩し、大きく隙を見せた。吾島はすかさず左腕上げると右腕を支えとして勢いをつけて旧部へと追撃の左腕を振り下ろした。大きな音と振動が響き、辺りを砂埃が舞う。周囲に吾島以外の姿は見えない。吾島は自身の左拳を確認すると、唸り声をあげて顔を機敏に動かし、周囲を警戒する。そして何かに気づいた吾島が腕を水平に振り抜きながら背後を向くと、砂埃がはれると同時に宙に舞う旧部が現れる。旧部はいつの間にか吾島の背後を取っていたのだ。次の瞬間、旧部の握っていた刀は既に振り抜かれていた。映像には吾島の首を真っすぐに断つように、わずかに白い線が現れたものの、すぐに消えてしまった。

「またそれを見ているのか」

 黒瓦谷の背後に黒髪を伸ばした女性が呆れた声で現れる。女性は白衣を羽織っており、隈がやたら酷い。黒瓦谷は目線だけを動かしてその女性を確認するとすぐにモニターへと目を戻した。

「まだ何か気になる事があるのか? もう散々議論は交わしたと思うんだが」

 女性の問いに対し、黒瓦谷は反応せずただモニターを眺め続けていた。女性は小さくため息をつくと、手に持っていた缶コーヒーを開け、口へと運んだ。

「俺たちは……いったい、なにを間違えているんだ」

 突然黒瓦谷は声を出す。女性は少し驚いた様子を見せたが、何かを察したのか、間をおいて面倒くさそうに頭を掻いた。

「黒瓦谷、お前何日目だ」

「……3日」

「だと思った。休め、バカ」

 女性は呆れたと言わんばかりに缶コーヒーを口へ持っていく。ごくごくと一気に飲み干すと、大きくため息を吐く。そして空になった缶コーヒーを机に置くと、自身の羽織る白衣の内ポケットから小瓶を取り出した。

「まぁ、気分転換なら付き合うぞ? 今なら、時間は沢山ある」

 女性は小瓶を黒瓦谷の見える位置に置いた。黒瓦谷はモニターの光をわずかに反射する小瓶を見る。小瓶には少量の色のついた液体が入っており、小さなラベルが付けられている。ラベルにはなにやら手書きの文字が書かれているが暗くて読めない。しかし、黒瓦谷にはその小瓶が何であるか、すぐ理解したようだ。

「いや、今回は遠慮しておく」

 黒瓦谷は少し悩んだ素振りを見せたものの、女性の提案を断ると、机とひじ掛けで身体を支えながらゆっくりとした動作で立ち上がった。

「……すまん。さっきのは忘れてくれ」

 黒瓦谷は散らばった資料とカップを手に取ると、女性に顔を向けること無くそのまま部屋を後にした。暗がりに消える黒瓦谷の後ろ姿はかなりふらついていた。女性は黒瓦谷の後ろ姿を見送ると、机に置かれた小瓶を手に取りモニターへ目を移す。モニターには映像がまだ流れており、映像にはマブチと思われる腕に旧部が抱えられていた。どうやら旧部は意識を失っている様で、どこか別の場所へ運ばれている所だろう。女性はおもむろに端末を操作すると、映像の時間を巻き戻した。巻き戻され、再度流れ始めた映像には、その場に力なく倒れた旧部の姿が映る。近くには大きな塵の山と、黒ずんだ謎の液体が床に散らばっており、吾島の姿は見えない。女性はモニターの光に照らされる小さな小瓶をぼんやりと眺める。

「バカガヤめ」

 女性は小さく、不機嫌そうに吐き捨てると小瓶をそっとしまう。女性は口いっぱいに開けて大きくあくびをすると、再度端末を操作し始めた。女性の目じりにはあくびのせいか涙が零れそうになっていたが、小さな機械音が部屋に響くと同時に全てのモニターの電源が切れた。

少し流れが悪かったので補完というかちょっと書きたい事の分離。

僅かな言葉のニュアンスや流れが気になったり、単に忙しかったり体調崩しっぱなしだったりで更新できてませんでした。


現在時点で次と次々回で本当に一話導入終わりです。今年中には一話導入を終わらせ隊()

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