Eランクからの成り上がり<仮>
春、それは出会いの季節。そして始まりの季節でもある。
生暖かい風をその身に受けながら一人の少年が街へと足を踏み入れた。
……もう一度ゼロから始めるんだ……
そう決心しタクヤはまた一歩、一歩ずつ歩き出す。
街の至る所で活気があふれている。
見渡す限り、人、人、人といった具合だ。
それもそのはず、今日は年に一度のクラン勧誘の日だからだ。
今時、冒険者をやろうとなった時はソロで始める者などほとんどいない。
それだけクランに入ることには大きなメリットがあるのだ。
まず第一に生活の最低保証がされるということだ。
新米の冒険者が真っ先にぶち当たるのは金銭面である。
武器の入手から手入れ、食料から住居など様々なことに金がかかる。
その点、クランでは共用の金庫から武器の費用を出してくれたり、最低給与があったりなどほとんどの
ところが何らかの支援をしてくれる場合が多い。
そして、一番大きな利点は冒険者のノウハウを教えてくれるところだ。
効率のいい狩場や魔物の倒し方、安い居酒屋や夜の遊び方まで色々なことを教えてくれるのだ。
新米の冒険者は新たな世界へ足を踏み入れたばかりなのでほとんど無知なのでとてもたすかるのだ。
クラン勧誘はほとんどの場合、お兄さん良い筋肉してるね~うちに来ない?、えっ中級の回復魔法使えるの?即採用!といった具合で案外軽いノリで決まる。
もちろん多少有名なクランとなると試験なんかがあったりするが、ここセレスティア街ではそんなところは少数派である。
そしてここにとある店の前で軽く絶望しかけている者がいた。
名をタクヤと言う。
「おじちゃん、フランクフルト一つ。」
ため息まじりで、なけなしの金を出しつつそう注文した。
「あいよ。ちょっと待ってろ。」
ガタイのいいスキンヘッドの店員がそういって調理にかかる。
少しした後、店員が作りながら話しかけてきた
「あんちゃん、見た所新米の冒険者って感じだが、その顔じゃどこもは入れてないっぽいな。」
「ああ、どこもかしこも門前払いだ。」
ほとんどの場合はクランの側から勧誘が来るのだ。
昨今は魔物の活性化でどこもかしこも人手不足である。
しかし、数時間近くそれっぽいアピールをしながら歩いても誰一人声をかけてこないのである。
しびれを切らし自分からアタックをしたものの全て空振りに終わったのである。
タクヤは完成まで、今までの出来事を泣く泣くおじちゃんに話していた。
完成するなり、おじちゃんは神妙な少し涙ぐんだ声で
「あー、なんだ、代金はいいからさ。これ食って体大きくしな。応援してるぜ。」
と言ってきた。そう、タクヤの欠点は剣士のくせにチビなのだ。
タクヤはお礼をいった後、フランクフルト片手に歩き出した。
少しはいいことがあったもんだなと思って少し歩いていると何やら騒ぎが起きていた。
少々気になったので、人混みの中をわけいってその中心へと向かった。
そこでは少女と二人の若い男が言い合っていた。
「なあなあ、お嬢ちゃん。俺たちと少し遊ぼうぜ。」
「あっちの具合しだいだが、俺たちのクランに入れてやらんこともないぜ。」
男達はゲスな笑みを浮かべながら少女にまとわりつくように話しかける。
昼間から酒を飲んでいるようでかなりベロベロである。
「さっきから何度も言ってるでしょう。先約があるの。」
「そんなの気にすんなよ。いい思いさせてやるからよ~」
そう言って少女に手をまわした時だった。
ついに少女の堪忍袋が切れたようだ。
「触るなって言ってんでしょ三下。穢れるのよ。」
そして俺はこの時、知るよしもなかった。
こいつと同じクランに入り散々こき使われることに。