8話 同化してる
それからしばらくして、早速、アキラによる修行が始まった。
「いいか、アスラン。妖と戦うなら、魔力を使いこなすことが前提だ。だから俺の良く知っている東国の武士が行う修行をつけてやる」
二人は向かい合いながら、魔力について話していた。
「ついに始まったって感じだな。わくわくするぜ」
「お前は子供か。まあいい、最初にやることは〝自然と一つになる〟だ」
「自然と一つ?」
アスランが首をかしげる。
「ああ、説明が難しいんだが…空気に溶け込むというか、自分とそれ以外の境界線を取り払うんだ」
そう言いながらアキラが目を閉じる。すると、目の前にいながら意識しないと気付かない程に、気配が無くなっていた。
驚きながらアスランが触ろうと手を伸ばす。
そして目を瞑ったまま、差し伸べられた手を掴む。
「驚いたか。自然と一つになれば、周囲の様子を把握することすら簡単だ」
「すげえな…これで基礎なのか?」
閉じていた目を開けながらアキラが答える。
「そうだ、これが基礎だ。といっても、基礎を完璧に出来た時の話だ。とりあえず、周囲の様子を把握出来るようになれ。熊にもすぐに気が付けるぞ」
皮肉に顔をしかめながら、アスランは顎をさする。
「だけど、今のでなんとなくは分かったぞ。こうか」
そう言いながら深く息を吐く。全身の力が抜けて一瞬だけもやがかかった様にアスランの輪郭がぼやける。だが、次の瞬間アスランは自分が解けていく感覚に襲われ我に返る。
「なんだ今の感覚…」
「大分いい線言ってたぞ、今の。案外すぐに修得してしまうかもな」
「だめだ!もう一回やれって言われても出来ない!」
集中が切れたアスランはベッドに仰向けに転がる。
「疲れるだろう。飯買ってくるからそのまま寝てていいぞ」
「お、本当か!ありがとう」
アキラは部屋から出ていく。そして初めて出来た友であり、弟子のアスランに感慨を覚えながら、買い出しへ向かっていった。
一方のアスランは、再び自然との一体化を目指して精神統一をしていた。先ほどの感覚はまるで自分が消えゆくようで、一抹の不安はあったが、それでもここで引くわけにもいかない。
上手くいった感覚を思い出しながらゆっくり息を吐いていく。全身から力が抜けていく。神経が研ぎ澄まされていくのを感じる。
アスランは徐々に雑念が消えていくのを感じ、そのまま流れに身を任せていった。
 




