7話 上京
アスランとアキラはウタツの町に来ていた。この町は周辺地域の間では特に大きい町だ。都市部に住んでいるのは千人程度だが、郊外を含めれば三千人にも上る。エミージャ同様、山間部にある村にとってここが最も商売が盛んな地域であり、現金が必要になった際には必ず訪れる。
日が暮れる頃、ウタツに複数ある宿泊施設の中でも比較的リーズナブルな宿に二人は着いた。
「さて、とりあえず寝る所は確保したな。これからどうするんだ?」
荷ほどきをしながらアキラが聞く。
「そうだな…とりあえず薬屋を巡って弟が来てないか聞いてくる」
「そうか。ちなみに酒場はどこにあるか分かるか?」
「ああ、とにかく中心部に向かう様に歩けばいくつか見つかるよ。飲むのか?」
「いや、俺も人探しだ。こういう時は酒場に行けば解決すると決まっている」
アスランが笑う。
「なんだそれ。まあいいあとりあえず、晩飯は各自でいいか?」
「ああ、問題ない」
軽いやりとりを交わし、お互いは目的を果たす為夜の町に入って行くのであった。
その日はお互いに大した成果を果たすことは出来ず、ひとまず眠りにつくのであった。
翌日の朝、朝食を済ませ部屋に戻った二人はこれからについて話し合っていた。
「昨日、酒場に行ったがここにもめぼしい奴はいなかった。だから後は弟を探すのを手伝おうか?」
「いいのか?それより探してるって誰を探してるんだ?」
「特定の人物を探しているというより、腕っぷしに覚えがあって、妖を倒そうとしている人物を探している」
アキラはアスランに対し、自身の旅の目的を話し始めた。
「俺は東国出身という話をしただろう。なぜ大陸を跨いでまで旅をしているかと言えば、簡単にいうと妖に支配された故郷を取り戻したいからだ。10年も前になるが、妖の大将がうちの国を乗っ取ってな。俺はなんとか逃がしてもらって、それ以来手伝ってくれる奴を探して旅をしている。これまでに何人か手伝ってくれることにはなっているが、それでも多いに越したことは無い。だからもう少し探そうと思っている」
10年に渡って旅をしていると知ったアスランはかける言葉が見付からなかった。しかし、命の恩人であると同時に年齢も近く放っておくことも出来ない。
口をつむぐアスランにアキラは微笑んだ。
「いきなりこんな話をしてすまんな。別に手伝ってくれと言っているわけじゃない。気にするな」
アスランの肩に手を乗せて続けた。
「ともかく、一緒に弟を探そう。見た感じこの町はかなり広い。早速行こう」
「そうだな…」
こうして二人は薬屋を中心に探したが、またしても情報は得られなかった。
その日の夜、アスランは考えていた。町には来ておらず、別の所に行っているのではないかと。弟は心優しい性格だったが、芯は通った男だ。自分やコーラムを守れなかったことに責任を感じているのではないか。そしていつ起きるか分からない自分を置いて旅に出た可能性はある。それならいつまでもこの町に居られないし、行先は検討もつかない。
アキラと共に旅をしながら修行をし、道中で弟を探すという道もある。
そんなことを考えながら、窓に映る月を眺めていた。
翌朝、アスランはアキラに告げた。
「アキラ、俺も一緒に旅に出ようと思う。もちろん弟は探しながらだ。だから、道中で修行をつけて欲しい」
「急にどうした?俺についてくるなんて、無理する必要ないぞ」
アキラは目を丸くして聞き返す。
「無理はしてない。強くなりたいし弟も探す。そしてアキラも手伝う。全部一気にやる」
力強い視線をアキラに向ける。
「全部解決したらまた村に帰ってのんびり暮らすさ。平和は自分の手で掴む。その為の力が欲しい」
「そうか。仲間は一人でも多い方がいい。改めてよろしくな」
「ああ。よろしく頼む」
二人は握手を交わし、お互いの決意を確認しあった。




