表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パンゲア書記  作者: 武蔵野紫村
第一部 旅の始まり
6/56

6話 助力

ルーが異国に来て、眠り込んでいるころ、アスランは森を下っていた。

多少体は痛むものの、カスパールの処置のおかげかいつもと遜色なく動けている。

強いて不安を感じているといえば、森の動物が殺気だっていることだった。魔物が来たことで防衛本能が刺激されたのか、いつになく森を漂う空気が重い。

木々が繁む場所を越え、ひらけた所に出た瞬間、凄まじい気配を感じた。

熊だった。周囲を見渡しながら、唸り声をあげている。

見つからない様に、息を押し殺し、迂回する様に歩いた。しかし、再び熊に視線を動かした瞬間だった。枝を踏んでしまった。熊とアスランの目が合う。

「しまった!」

アスランは自身の不注意を後悔し、戦いは避けられないと直感で感じ、ナイフを取り出す。半身を切り、ナイフを体の前で構える。呼吸を整え、熊を見据える。

熊もアスランが臨戦態勢に入ったことを感じ、身構える。

先に動いたのは熊だった。一直線にアスランに向かって突進する。アスランは避けるので精一杯だった。身を捩り、なんとか躱すが反撃に移れない。

幾度か同じやり取りをした後、アスランの体に痛みが走る。

しまった。激しく動き過ぎた。―――熊がすかさず襲い掛かる。噛みつかれるその瞬間、視線を影が通り過ぎた。足には熊の首が転がっていた。巨体はぴくりとも動かない。

あっけに取られていたアスランに先程の影が話しかける。

「大丈夫か」

男だった。背丈や年齢はアスランと同じ程で、特段筋肉質という訳ではない。しかし、隙がなく歴戦の戦士というに相応しい立ち姿だった。特徴的だったのは腰に掛けた刃物であった。

「あんたは一体…」

アスランが聞く。

「俺はアキラだ。東国から来た。」

東国といえば、超大陸の真反対に位置する国だ。武士という独特な武装をした兵士が国防の要であり、子供心をくすぐられたことを思い出していた。

「なぜそんな遠い所から?」

「色々あってな。今はウタツの町という所に行く最中なんだが、どこにあるか知ってるか」

アキラが問う。

「ウタツはあんたが来た方向にあるはずだが…地図はないのか?」

「そうか…地図は無い」

「良かったら案内しようか?俺もウタツに行く途中だし、命を助けてもらった恩を返したい」

「それはありがたいな。改めてよろしく頼む。名前は?」

「俺はアスランだ。よろしく」

そう言いながら二人は握手を交わした。


森をさらに歩きながら、二人はお互いの状況について話していた。

「なるほどな。弟を追って町まで行きたいってことか。それにしても魔物に襲われるとは災難だったな」

「ああ…あんな生物初めて見たよ。それに喋るやつには全く歯が立たなかった…」

そう言いながら、アスランは奥歯を噛み締める。

「喋る魔物はとりわけ強いと聞く。しかも敬語まで話せるとは、おそらく徒党を組んでいるぞ、そいつ」

「そうなのか?」

「ああ、俺も良く知っている。故郷とか旅の途中で何度か見た。俺の故郷にいる魔物、妖って呼んでいるがそいつらはまるで人間の様に振る舞っていた」

「なるほど。力も知恵もあるのか。どうやってそんな奴と戦うんだ?」

「簡単なことだ。俺たちも奴ら同様魔力を使う」

そして、アキラはアスランに魔力について話はじめた。自然の中や、生物の体に宿る力のことを魔力と呼ぶこと。そして、使い方によっては身体能力を向上させたり、超常現象を引き起こせることなどを教えた。

その話を聞いてアスランは大いに興奮していた。思えば、弟を追っていたが合流してからのことを考えていなかった。村に帰るのか、共に修行を積むのか。自らの指針を見付けた様な気がした。

「その魔力の使い方、教えてくれ」

アスランはじっとアキラを見つめる。

「構わんが…もし使えなかったらどうする」

アキラも見返す。

「それは…俺にも分からないけど…でも出来ることは少しでもやりたい。今は弟を探す。そして魔力を使える様にする。それだけだ」

「そうか、分かった。教えてやる。町についてひと段落したらでいいか?」

「ああ、それでいい」

二人は再び前を向く。アスランはルーと合流した時、どんな反応をするだろうかということを考えていた。弟は魔物に対しどう思っているのか。聞きたいことがたくさん浮かんできて、大きく息を吐いて空を見上げた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ