51話 魔法の学校
アスラン達がドラクエルの元に来るひと月前、ルーはアレキサンダーから西方の魔法学校について説明されていた。
「…つまり、実践の経験も、魔力についての知識もそこに行けばより積み上げることが出来る。どうですか?」
悪くない話だ。が、ルーはアレキサンダーにもっと教わりたいと考えていた。
「アレキサンダーさんはこれから忙しくなるんですよね」
「ええ、ですので、私の元から離れるという意味でも良い案だと思いますが」
アレキサンダーは本心から言ってくれている。それはルー自身も感じていた。
「同じ志を持っている仲間のいる環境、そこに行く方が力になります。それに、ずっとここに居たいなら、君にはいずれ戦争に参加してもらう必要もあります」
「戦争…ですか…」
「そうです。人と人の殺し合いです。君にそれは耐えられますか」
いつになく鋭い眼光でルーを照らす。
ルーはうつむく。
「いきなりのことで申し訳ありませんが、時間はありません。明日までに決めて下さい。それだけあれば、君なら答えを見付けられる」
それだけ言い残し、アレキサンダーは去る。
―やはり、ここにいるべきではないのか…。
ルーが渋っている原因は二つあった。
第一に、無闇に移動したくないということだった。いずれ兄が目覚めた時に、受け入れる環境を用意したという想いだった。
第二に、アレキサンダーだけでなく、アロタやメルキオールから学ぶことも多いということだった。
魔力のことも然り、世界の常識についても学ぶことは多い。
それだけに消極的になっていた。
そこへ、アロタが来る。
「なんか、凄い真剣な顔してたわね。どんな話なのよ」
アロタとは、こういうナイーブな話も出来る仲になっていた。この居心地の良さもルーの判断を鈍らせていた。
そして、ルーはアロタにアレキサンダーとの会話をかいつまんで説明する。
「そんなのもう答えは一つじゃない。早く行きなさいよ」
「えっ?」
ルーは驚いた顔でアロタを見つめる。
「だって、そっちの方が強くなれるんでしょ?お兄さんの為になるんでしょ?なら、もう決まった様なもんじゃない」
アロタはこともなげに言う。
しかし、ルーの心には深く刺さった。
忘れていた屈辱。二度もコロッソに敗れたことを思い出す。
―自分のするべきこと…。
アスランとコーラム、村の皆を襲った魔族を思い出す。
自然と拳に力が入る。
その拳の上に、アロタが手を重ねる。髪を耳にかけ、ルーを見つめる。
「私、あなたのこと応援してるのよ。誰かの為に頑張れるってすごいことなのよ」
アロタは目を細め、微笑む。
―ドクン。と脈打つのをルーは感じていた。力がどんどん湧いてくる気がした。
「ありがとう、おかげで決心がついたよ」
ルーはアロタの手を握った。
 




