4話 若王と黄金
カスパールは今、宮殿に来ていた。一般人ならまだしも、三賢人であるカスパールは有事の際は国王に謁見することが最優先だった。
宮殿の入り口に立つ。入口の門には、立派な像が建てられている。初代国王のものであった。この王国、中王国は現在20代目が治める王朝でありその歴史は古い。砂漠にありながら、水を操れる魔術師の養成には定評があり、その力でオアシスを造ったことが国づくりの発端となっていた。
入口の兵士に自己紹介をし、要件を伝えながら宮殿の一階で待つ。
すると、官僚らしき男が現れ、王の間まで案内すると言った。
「今回の訪問は、弟子をわが軍で鍛えて欲しいということで間違えないですね?」
官僚の男が尋ねる。
「そうじゃ、故郷が悪魔に襲われ、対抗する力が欲しいということじゃ」
「なるほど、畏まりました」
官僚の男は、蓄えた顎ひげを触りながら返事をする。
そして、ひときわ豪華な扉の前に着いた。官僚の男が振り返る。
「こちらが王の間でございます。くれぐれも失礼のない様、お願い致します」
「分かっておるわい」
そして、扉をノックし開ける。
中には、大きな玉座に座る男。そして、側にもう一人男が立っていた。
「お初にお目にかかります。〝没薬〟のカスパールでございます。」
深々とお辞儀をしながら述べる。
「初めまして。国王のマハルバです。」
玉座から立ち上がり、国王も挨拶を返す。
「お久しぶりですね、カスパールさん」
側に立っていた男がフランクに話しかける。
「おお、〝黄金〟の若いの!たしかメルキオールじゃったか」
「はい、覚えて頂いているようで光栄です」
笑顔を浮かべながら、メルキオールは握手を求める。メルキオールはカスパール同様、三賢人の一人である。〝黄金〟の秘儀を求める一派の長であり、若くして先代から後継者に指名された。
「二人ともお知り合いなのですね」
「ええ、〝黄金〟の先代とは懇意にしておったものですから…」
「それで、今日は弟子を鍛えて欲しいと?」
「ええ。ここの兵士長の一人に祝福を受けた者がいると。その者に是非稽古を付けて頂きたく」
「なるほど…事情は先ほど聞いたのですが…」
視線を官僚の男に移しながらマハルバが言う。官僚の男は深く頷いた。
「実はですね、いることにはいるんですが、我々も彼にお願いしている立場でして。確約は出来ないのですよ。その代わり、お話の場は用意いたします。」
マハルバはカスパールをじっと見る。誠意に満ちている。
さすが一国をまとめる主だと感心しながらカスパールは答えた。
「それだけでもありがたいことでございます。」
「気にしなくて良いですよ。詳しい話は決まり次第…そうですね、メルキオールから伝わるでしょう」
「僕がですか!?」
驚いた様に国王を見つめる。
「当たり前だ。カスパールどのが滞在している間の世話もするのだぞ」
「畏まりました…」
メルキオールはうなだれながら返事をする。
「お二人はとても仲がよろしいのですな」
カスパールが問う。
「ええ、昔から年が近いこともありまして、兄弟同然ですよ」
マハルバが答えながら、メルキオールを見る。
「素晴らしい関係ですな」
カスパールが言うと、二人とも照れくさそうにしている。
「ともかく、追って連絡はしますから、本日は旅の疲れを癒して下さい。メルキオールは付いていってくれ」
そう言いながら、玉座に座り直す。
改めて深々を礼をし、二人は王宮を後にした。
 




