37話 到着
五人は、準備をするとすぐにアイセンブに向けて、ウットイムの町を出た。
フランチェスコの馬車に乗ると、その道のりはおよそ二十日である。
その間、お互いについて話し合い、これまでどんなことをしてきたか話をしていた。
そして、馬を休ませ、野営をしている間には各々修行をしていた。
アキラとアスランは刀を振るい、型を磨く。ルシウスは魔力の基礎についてカリンから教わり、素手で戦う方法についても学んだ。
そうこうする間に、一行は目的地であるアイセンブの近くまで来ていた。
遠くから見ても、巨大な町であることが容易に想像出来た。
唯一、田舎の村出身であり、都会に慣れないアスランには、行く先々で栄えた土地に驚く。
そして、そのアスランを見て皆が新鮮さに微笑みを浮かべている。
そこからさらに近づいていくと、まず目についたのはその周囲を囲う高い壁だ。
自然生物の脅威というよりも、都市国家として対人間を想定した物であり、今もなお増築が続く。厚さに重きを置き、火薬を使用しても容易に破られない様にしている。
フラチェスコが馬車を引き、数少ない入口に向けて進みながら、アイセンブの説明を意気揚々としている。
それからフランチェスコは歴史についても語りだした。
アイセンブの起源は三百年前、魔王に対抗する人間の富豪が数人、西方中から集まって結成された商業ギルドから発展した。
それから、西方では迫害を受けた魔法を一つの技術として受容したことから、一気に一つの国家として存在出来るまでになった。
あらかた語り終えた所でフランチェスコが言った。
「お、見えてきた。そろそろ着くぞ」
皆が首肯する。
「来る前は嫌そうだったのに、案外明るいな」
アキラが言う。
「まあ、なんだかんだ故郷だからなあ」
フランチェスコが答える。
「こんなでかい町、絶対迷子になるぞ俺」
魔力で都市内部を見ていたアスランが呟く。
「とりあえず、五人で動けば良いでしょ。フランチェスコが案内してくれるだろうしね」
カリンは落ち着いた様子だ。
一方のルシウスは寝ている。今まで貴族のお坊ちゃまだったルシウスには、カリンとの稽古はついていくのでやっとであった。馬を扱えることから御者も志願し、今はその疲れを癒している。
フランチェスコは門番と話していたが、荷台に声をかける。
「おーい、皆、これからは降りて歩いてくれ。入国の為に名前を書くぞ」
「あ、俺自分の名前書けない」
アスランが言う。
それに続き、アキラとカリンも西方の文字を書けないことを伝える。
「じゃあ、俺が書いとくよ」
とフランチェスコは四人分の名前を書く。
ルシウスは丁寧な筆致で、綺麗な字を書いた。
皆、感嘆の声を上げる。
「照れるからやめてよ。ほら、皆入ろう」
ルシウスは笑って誤魔化す。
一行は、門をくぐる。




