34話 弟子と学舎
ルー達はあれから、研究所に戻り、カスパールとアロタをベッドに寝かせていた。
メルキオールは、お湯を沸かし、包帯を熱湯消毒している。ルーの傷を治療する為だ。
決して深くはないが、魔族に付けられた傷だ。何が起こっても不思議ではない。
「では、私は失礼して」
アレキサンダーは立ち上がり、二人に告げる。
ルーもメルキオールも感謝の意を伝え、見送った。
帰り道、アレキサンダーは考え事をしていた。
ルーのこれからについてだ。魔力のコントロールは最低限出来る。だが、その魔力を纏うことや、実際に具現化するという段階には至っていない。それに、いつまでもつきっきりで教えられない。
魔力について、実践的に学ぶにはやはり…。
アレキサンダーは西方にある魔法学校について考えていた。
そこなら、学者気質のルーの性格にも合っている。
ひとまずは、王に話しをつけますか…。
そして、その足で宮殿へと向かうのであった。
宮殿に着いたアレキサンダーは門番の男に会釈する。国防を担うアレキサンダーはすぐに中に入ることが出来る。
宮殿に入り、国王の世話役を見付け、話しかける。
「お嬢さん、急ぎの用事で国王に謁見したいのですが」
「畏まりました。しばらくお待ちくださいませ」
世話役の女性は深々とお辞儀をし、階段を上がっていった。
しばらくして、先程の女性が戻ってくる。
「お待たせいたしました。どうぞこちらへ」
アレキサンダーは案内に従い、階段を上がる。すっかり夜も更けたが、内部は明るい。国王が住むだけでなく、政治の中枢でもある。いつ何時も警戒を怠らないが故に宮殿は煌々と輝く。
書斎の前に着き、世話役の女性が扉をたたく。
「国王様。お連れ致しました」
扉を開け、二人は入る。
「夜分遅くに失礼します」
「いえいえ、それにしても珍しいですね」
国王のマハルバは書類の山から顔をのぞかせる。
そして、目の前にある。応接用の机を指差した。
「こちらにおかけ下さい」
アレキサンダーはソファーに腰を預ける。巨体が沈んでいく。中王国名産の刺繍が入ったソファーはしっかりと体を支えている。
二人は向かい合って座り、アレキサンダーが口を開く。
「先程、メルキオールとカスパールさんが誘拐されたのはご存じですね。撃退には成功しましたが、消滅はしていないでしょう。やはり私は警戒されている様で」
マハルバは頷く。
「それで、例の青年、ルーをもっと鍛える為に西方にある魔法学校に連れて行きたいのです」
「ほほう、この首都、オリアックにも同じく魔法の修得を目指した学校はありますが。不足ですか?」
「いいえ、そういう訳ではなく。これは目的の違いです。やはり、魔族との対決を考えているのであれば、相応の環境で鍛えるべきです」
「確かに…ここでは戦闘というより、行政上必要なことを中心に学びますからね。どうしてもそういった戦闘などは軍に頼らざるをえない」
「ですので、紹介状などご用意頂ければと思いまして」
「ふむ…」
マハルバは少し思案した。
「そういうことであれば、カスパール殿の方が最適では?噂によれば、現在の学長とも旧知の中であると思いますが」
アレキサンダーは目を見開いた。
「本当ですか!さすがです」
「お世辞はやめて下さい。では、とりあえずカスパール殿に聞いてみると良いでしょう。もし、紹介状が必要になれば、またいらして下さい」
アレキサンダーは深くお辞儀をする。
そして、マハルバは表情を切り替え、鋭い眼光をたたえる。
「そうだ。実はこちらからもお話したいことがございまして」
入口に立っている世話役の女性に対し、外に出る様に伝える。
完全に二人になったことを確認し、マハルバは口を開いた。
「近々、黄金の国と戦争をするかもしれません…」
マハルバの発言に、空気に緊張が走る。
「ほう、詳しくお聞かせ願えますか」
マハルバは頷き、隣国との情勢について語る。
こうして、夜は更に更けていくのであった。




