31話 後悔と決意
ルーは、今までの出来事に困惑する。
「奴は、魔族の中だとどれくらい強いんですか」
「うむ…おそらく魔王の幹部くらいでしょうか。もしそうなら、まだ生きているでしょう」
「倒したんじゃ?」
「そうやすやすと倒せはしませんよ。最後の瞬間には既に抜け殻も同然でしたから」
魔族は生命力もあるのかー。ルーは改めてこれから戦う相手の実力を知った。
それから二人は、誘拐された三人を探して奧に進む。
「そういえば、どうしてここが分かったんです?」
ルーが聞く。
少し間が空いてアレキサンダーが答える。言っても良いのか迷っている様だ。
「この国、もとい首都には大きな結界があります。本来は検問を正式に越えていない侵入者を見分けるための物です。まさか、内側から越えるとは…おかげですぐに連絡が来ましたよ。これでも国防を担っているので」
「迷惑をかけてしまいました…」
「本当ですよ。次からはすぐに声をかけてくださいね」
「…すいません」
それしか言えなかった。怒りにのまれ、すぐに駆け出していた。本当に反省している。
「まあ、そこが君の良いところなのですよ。お兄さんのこと然り、周りの人を大切に出来るのは素晴らしいことです」
慰めの言葉も素直に受け止められない。
もし自分が強ければ、もっと頭を冷静に保てれば。そんなことばかり頭によぎる。
「ほら、君がすぐに行動したから、彼らも無事ですよ」
言われて顔を上げると、見た目には傷もなく、寝ている三人の姿があった。
カスパール、アロタ、メルキオールの三人は、ただ眠らされていただけの様だった。
安堵すると同時に、右手と胴に痛みが走る。
コロッソとの戦闘では興奮からか、そこまで痛みを覚えなかった。しかし、今になるとじりじりと鈍い痛みが襲う。
「三人を一度に持ち帰るのは難しいですね…」
アレキサンダーはルーの様子を見て、眉間に皺を寄せる。
そして、ぐっすりと眠るメルキオールの側で屈むと、手をかざす。
するとメルキオールは少しだけ呻き、目を覚ました。
「あれ、アレキサンダーさん。それにどこですか、ここ」
メルキオールに驚きの表情は無い。それどころか、周囲を見渡し、ため息をつく。
「なるほど…そういうことですか。助けてくれてありがとうございます」
「さすが、理解が早くて助かりますよ」
にこりと笑い、アレキサンダーはカスパールとアロタを肩に担ぐ。
「では、帰りましょう。起きたばかりで恐縮ですが、ルー君に肩を貸してあげてください」
メルキオールは頷き、立ち上がると、ルーに肩を貸す。
支えられながら、ルーは今までの出来事を振り返る。
不甲斐なさはどうしようもないが、それ以上にアレキサンダーの強さに圧倒されていた。
僅かな時間だったが、魔力を無駄なく使い、かつ非常に滑らかだった。
流れを感じ、多少コントロール出来るだけで、驕っていたのかもしれない。
存在自体が魔力で構成され、生まれた頃から魔力と慣れ親しんでいる魔族が相手だ。
きっと練習などしなくとも感覚で使えるのだ。
呼吸するが如く、魔力を使う。そうした存在とこれから戦っていかなければならない。
さらに修行を積み、皆を守れる強さが欲しいと感じたルーであった。




