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パンゲア書記  作者: 武蔵野紫村
第一部 旅の始まり
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3話 異国

二人は森の中を歩いていた。包む空気は重い。ルーは耐え切れず口を開いた。

「僕たちは今どこに向かってるんです?麓の町ですか?」

「これから行くのは祠じゃ。そこから遠くへ行くんじゃ。もうそろそろ着くぞい」

カスパールは振り返ることなく告げる。

しばらくして、古ぼけた建物に着いた。ひび割れた石で出来ており、苔がそこらじゅうに生えている。大分昔に建てられたということが一目で分かった。正面に大きく開いた入口から入ると、中には泉らしきものがある。

「ここから遠くに行けるんですか?」

「うむ。この水に入れば別の祠まで行けるのじゃ。入る前にこれを」

カスパールは首飾りを取り出し、ルーに渡す。

ルーは首に通しながら訊ねた。

「これは、どういったものなんですか?」

「これから行くところでは、言葉が通じんじゃろう。じゃが、それがあれば通じる様になる。勉強家のお主には、きっと面白い世界が待っておるぞ。修行だからと言って、身構え過ぎるのも良くないことじゃ」

カスパールが向けた笑顔を見て、少しだけ心が和む。襲撃があってから、笑顔など忘れていたルーの頬が弛む。

「それは楽しみですね。修行も勉強も頑張ります」

「うむ、その意気じゃ」

カスパールは視線を下に向け、持って来ていた杖を泉に入れる。そして何かを呟きながら掻き回す動作をする。すると、みるみる内に泉が濁りだした。

ひとしきり掻き回してから、再びルーを見る。

「ほれ、準備完了じゃ。行くぞい」

そして、躊躇なく泉に入りだした。

あまりの衝撃に一瞬固まったルーだが、すぐさま後を追い、泉に入る。

多少の恐怖心から瞑っていた目を開けると、先程までと同じく、遺跡の中だった。

「到着じゃ。しっかりわしに付いてくるんじゃぞ」

外に出るカスパールを追い、外へ出たルーはあまりの眩しさに目が眩む。今まで見たこともない光景が広がっていた。一面砂の大地に、同じく砂で出来た建物。歩く人の肌も黒く、服装もまるで違う。

「これが異国か…」

カスパールの家で、かつて読んだ本が記憶に甦る。

カスパールに付いてこそいるが、視線はしきりに左右へ動いていた。何もかも新鮮な光景だった。

「驚いたかの?もう少し歩くが我慢じゃぞ」

そう言われて気付く。夏場にも感じたことのない暑さだった。全身に汗がにじむ。しかし、耐えられない程ではない。

「大丈夫です。ここはいつもこんなに暑いんですか?」

「そうじゃよ、年中ずっとじゃ。雨もそんなに降らんから、村の様に大きい植物も育たん。」

ふと見渡すと確かに雑草はあるが、木々はまばらだ。周囲の様子を見ることに集中すること、10分ほど、どうやら到着したらしい。ある建物の前で立ち止まる。

「ここはわしの古くからの知り合いの家じゃ。おるかのう?」

そう言いながら建物に入って行く。続いて入ると、カスパールの家の様に本棚がいくつも並んでいた。

「おらんようじゃのう…仕方あるまい。寄らねばならん所があるから、また出掛けるわい。戻るまでここで待っててくれんか」

自分の家のように、グラスに水を注ぎつつ話す。

「分かりました。本って読んでも良いんですかね?」

勉強熱心な弟子にカスパールが笑う。

「さすがじゃのう。大丈夫じゃよ。では行ってくるぞい」

カスパールは再び炎天下の元へ歩き出した。

「僕も飲むか」

別のグラスを取り出しながら、同じように瓶から水を注ぐ。村を出てから久し振りの水が心地よく流れ込んでくる。一気にグラスを空にし、大きく息を吐く。

本棚に並んでいる表紙を見てみるが、ほとんどが知らない文字で書かれている。知っている言語がないか探していると、『錬金術のすすめ 西方版』と書かれた本が目についた。表紙にある西方とは西方世界のことだろう。超大陸は、東西南北と、中央の5つに大きく分類できる。ルーたちのいたエミージャ村は、西方世界にあり、さらにその西端に存在している。

知っている言語であり、さらに興味的な内容でもあったため、ルーはその本を開くことにした。


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