27話 郊外の洞窟
ルーは壺の修行を経て、全身を流れる魔力を完全に閉じ込めることに成功していた。
その成果は肉体にも表れていた。肌の色艶が増し、筋肉の彫りは更に深くなっている。
「魔力をコントロール出来れば、肉体にもこんなに影響が出るんですね」
ルーが聞く。
アレキサンダーはお見通しと言わんばかりに指を立てながら応える。
「ええ、魔力を体内で完結させることで、自分を知れる。そうすることでより自分に適した戦い方を考えることが出来るようになります。しかし、君にはどういうやり方が合うんでしょうねえ…」
蓄えられた髭をなぞりながら言う。
「やっぱり拳でしょうか。それか木こりだった分、斧なんかも使えるかもしれません」
「なるほど、細かい話は明日からまた考えましょう。今日はひとまずこの辺りでお開きとします」
そう言うや否や、踵を返しアレキサンダーは歩き出した。
ルーもメルキオール達の待つ家へ向かって行った。
「ただいま戻りました」
ルーは玄関をくぐる。
返事がないなー。皆は既に上で食事をしているのかもしれない。
そう思い階段を上がる。
「もう食べてますか?」
問いかけるが返事はない。それどころか人の気配を感じない。
怪訝に思い、眉を潜め、家中を探す。
ふと、食卓に一枚の手紙を見付けた。
目を通す。
「なんだって!」
改めて読み返す。
手紙を持つ手が震える。沸々と沸き上がる感情が全身を包むのを感じていた。
手紙には、メルキオール、カスパール、そしてアロタを誘拐した旨が書いてあった。ルーだけで郊外の洞窟に来るよう指示が書いてある。
郊外の洞窟は知っていた。
それは砂漠にありながら、中は年中通して涼しく、腐りやすい食品を一時的に保管するために使われている。いわば天然の冷蔵庫だ。
おおよその位置は知っている。すぐさまルーは飛び出して、走る。
中王国の首都は、夜の間は通行の許可がいる。
だが、今は急いでいる上、手紙には一人で来いとあった。
都市を囲う屏を乗り越え、外に出る。
そこから洞窟までは数分とかからなかった。
ここに誘拐犯がいるー。そう考えると嫌でも気が立つ。心を落ち着け、内部に意識を向ける。
アレキサンダーとの訓練の中で、魔力を体内に閉じ込めるたけでなく、アンテナの様に使えることも知った。
洞窟内の様子を見る。
「深いな…」
先が見通せないほど、深くまで繋がっている。
幸い一本道になっており、道には迷いそうにない。
極力気配を絶ち、忍び足で入り口に近付く。
見張りは立っていない。
国の施設、それも食料を扱っているはずなのに手薄過ぎる。
最悪の想像が頭をよぎった。
今は三人を見付けるのが先決だ。
そう自分で言い聞かせ、ルーは奥へと入っていくのだった。
 




