25話 縁
三人は、東国に行く決意をしたが、問題はその距離であった。アキラは旅をしながらとはいえ、十年の時をかけて西方に辿り着いた。どんなに早くとも数年はかかる。そこでアキラはかつて聞いた噂話を語りだした。
「―ということで、陸路を行くには時間がかかる。だから空路で行こうと思っている」
『空!?』
アスランとカリンが同時に言う。
「ああ、空の移動手段を実用化している国は世界に二つしかない。一つははるか南、しかも海の上にある竜王国だ。もう一個は、ここから南下して…フランチェスコの馬車ならひと月くらいの位置にある商業都市アイセンブだ」
現在、彼らは西方の中心付近にいる。陸路はもちろん、海路も近くの港まで行けても大陸を回る必要がある。一気にアイセンブまで南下し、空路に頼るのが最短の道であった。
「じゃあ、そのアイセンブに行くのか」
「ああ」
「ねえねえ、着いてからの移動手段はもうあるの?」
「それも、おそらく問題ない」
「おそらく?」
「移動手段は飛行艇になるんだが、運転出来る男に会ったのは数年前だ。アイセンブに行ったことは間違いないだろうが、そこから飛行艇を用意出来ているかは知らん」
「そうか…まあ、行くだけ行ってみるのもいいんじゃないか?」
「賛成―」
自然と意見は決まった。出会って日が浅いが、アキラのことを放っておけない。そんな思いから出た提案だった。
アキラは二人に頭を下げる。
「すまん…」
「何言ってんだ、水臭いぞ」
アスランは微笑み、続ける。
「そうと決まれば出発だな」
「ああ。俺はフランチェスコを呼んでくる」
そう言ってアキラは席を立ち、酒場を後にした。
二人は、行く当てもなく、そのまま酒場で待つことにした。
しばらくして、外が騒がしくなる。
「どうしたんだ?」
「さあ、お祭りとか?」
「暇だし、行ってみないか」
「うーん、良いよー」
待つことに疲れ始めた様子のカリンを見てアスランが誘う。
酒場から出ると、人だかりが出来ている。
近づいてみると、中心で男が叫んでいる。
「この町に西方正教徒の教会があるな!僕をそこに連れて行ってくれ!」
周囲の人々は戸惑っている。見るからに観光目的ではない。
男は息も絶え絶えで立ち上がる。
「教会はどこだ!」
男は叫び声をあげている。
アスランは男に近づく。
「大丈夫か。なにがあったんだ」
男の側に立ち、立つのを支える。
「すまない。深い理由は後で話す。とにかく今は教会に連れて行ってくれないか」
アスランは、男を教会に連れて行く。カリンも同行していた。
いざ教会の前に着くと、男はアスランの元を離れ、中へ入って行く。
中は閑散としており、昼間というのに誰もいなかった。
ただ、中央の壇上に、長髪の男がいる。
教会に入るやいなや、先程の男は長髪の男に対し言った。
「僕はルシウス=ヨ―フラムだ!昨日西方正教会を名乗る奴らに家を襲撃された!指示したのは誰だ!」
ルシウスは長髪の男を睨め上げる。
長髪の男は振り向きながら言う。
「さて、なんのことでしょう」
「しらばっくれるな!奴らは正教会の白衣を着ていた。それに聖戦と言っていた。魔族と戦うことを指す正教だけの言葉だ」
魔族という言葉にアスランが反応する。
全く魔族と思わなかったー。が村を襲った魔族とは違うことを直感していた。
長髪の男は切れ長の目を細めながら言う。
「証拠はあるのですか?何者かが正教を騙っているのかもしれません」
「嘘をついているのは貴様らだろう!」
「我々は神に誓って嘘はつきませんよ。それこそあなた方を敵対視する魔族の凶行である可能性もあります」
神―。その言葉を発した瞬間、男は殺気を放った。そうアスランは感じていた。
「あなたみたいな無礼者には少々しつけが必要ですね。拳で語りますか?」
長髪の男は妖しい笑みを口元に作る。
「望むところだ」
ルシウスは全身に怒気を湛えている。気のせいか肌が少し黒ずんでいる。
アスランはカリンに視線を送った。
「私はどっちでも良いよ。ただ、目の前でこんなの見せられて怒らない奴は、嫌い」
そう告げるカリンの手元には既に篭手がはまっていた。
 




