22話 剣士と拳士
二人は先ほど捉えた人物を追い、町を歩いていた。
もうすぐだー。アスランは歩きながらでも感知を行えていた。
その人物はどうやら、この脇道を入った所にいる様だ。
「ここだな」
「そうだ。やれば出来るじゃないか」
二人は脇道に入る。すると、昨夜会った少女の姿がそこにあった。
「あれ、なんか見られてると思ったら昨日のお兄さんじゃん」
「君が三人を一瞬で倒した少女か。さすがというべきか、よく分かったな」
「お兄さんは上手いこと気配隠してたけど、そっちのお兄さんはバレバレだったよ」
屈託のない笑みを浮かべながら少女はアスランを指す。
実力不足を少女に言われ、アスランが頭を掻く。
「それで、私になんの用?」
「単刀直入に言おう。君と手合わせしたい」
「ふーん、良いよ。その代わり本気で来てね?」
少女はやる気だった。先ほどまでの幼さに残る柔らかい雰囲気から、獲物を前にした獣の様に鋭い眼光をしている。
「本気を出せれば良いな」
アキラもやる気である。拳を鳴らしながら首を回してほぐしている。
アスランにはもはや口を挟める空気ではない。
大丈夫なのかー。アスランには少女を襲っている様にしか見えなかったが、二人にしか分からないことがあるのだろうと納得した。
お互い、構えを取り睨み合う。じりじりと距離を詰めていく。
先に動いたのは少女だった。二歩三歩と素早く近づき、左足を踏み込み、右ハイキックを放つ。
アキラは左腕を立て、前腕で受けた。しかし、アキラの上体が右に傾く。
「なるほど…魔力を纏うくらいは朝飯前か」
全身から湧き出る魔力を見て、アキラが呟く。
次に仕掛けたのはアキラだった。腋を締め、蹴りに備えつつ近づき、左右のジャブを放つ。少女は体を左右に振り躱す。
少女が左に避けた所で、アキラは右ストレートを放つ。
少女は身を捩り、左回転しながら右の回し蹴りを胴めがけて打つ。
アキラは屈んでこれを回避し、足払いを放った。
思い切り足を蹴られ、少女の体が浮く。
頭が下に来たタイミングで、少女は両手で地面を掴み、左足をアキラに向かって突き出す。
すかさず、両腕をクロスし、これを受け止める。しかし、受け止めきれず、後ろに転がる。
「まじか…アキラが押されてる…」
想像以上に激しい戦いを見て、息をのむ。手に汗が滲んでいる。
立ち上がったアキラは呼吸を整える。
「ふう…想像以上だな。お望み通り、本気を出す」
「わお、ほんとに?やった!」
再びあどけない笑みを浮かべガッツポーズをする。
「いい機会だ。見てろアスラン。魔力を纏える者同士が戦うとはどういうことかを」
言うや否や、アキラは腰の刀を抜く。そして、刀を近くの壁に立てかけ、鞘だけを持つ。鞘に流れる魔力の流れは鋭く、まるで生身の刀を持っている様だった。
「本当は、刀を使ってやりたいが、あいにく殺し合いたいわけじゃない。許してくれ」
「いいよー。ちゃんと本気出してくれてるみたいだし。私も準備するね」
そう言って少女は反転し、地面に置いてある袋から何かを取り出し腕にはめる。
「篭手…生粋の拳法家ってことか」
「そーゆーこと」
お互い得物に魔力を籠め、構えをとる。臨戦態勢に入っていた。
 




