21話 探知
「冗談はよせ、そんな強い少女のことなど、誰も言ってなかったぞ」
アキラはため息交じりに言う。
アスランは部屋に戻ってすぐに、先程会った女の子の話をしていた。
「ほんとだって!すげえ可愛くてすげえ強い。多分旅してるとかじゃないか。西方の恰好じゃなかったし」
興奮冷めやまず、アスランは身振り手振りで伝える。
「まあ、そこまで言うなら信じるが…名前とかは聞いてないのか」
頬杖を突きながらアキラが聞く。
「あ、聞いてない…」
頭を抱え、消え入る様な声でアスランは答えた。
さすがに可哀そうだと感じ、肩に手を置いてさする。
「明日また探そう。俺としても是非会ってみたい」
「ああ…、」
「ほら、元気出せ」
そう励ましながら、会話を続けていると、フランチェスコも帰って来た。
「おう、仲間探しは順調かい」
千鳥足で歩いていた。相当飲んだらしい。
「大分酔ってるな」
「ああ、父の知り合いと吞んでてな。気付いたらこの様よお…。ま、いくつか買ってもらったし、サービスだよ、サービス」
手をふらふらと振りながら椅子に座りこむ。
「風邪ひくなよ」
「わあーてるって」
今にも椅子で眠りそうなフランチェスコを見て、二人は何も言えずため息をついた。
翌朝、アスランとアキラは共に刀を振るっていた。
フランチェスコから刀を受け取って以来、アスランが使いこなせるように、東国流の剣術をアスランに教えていた。
元から狩人として生計を立てていたアスランも、刀を振るうには十分過ぎる筋力、素養を持っており、刃物の扱い自体も心得ていた。
ひとしきり型をなぞり終え、流れる汗を拭いながら、昨日の少女のことについて話していた。
「なあ、アキラ。探すとしてもどうするんだ?この町はウタツよりも人がいるんだぞ?」
「そんな時に活躍するのが魔力だ」
「なるほどな」
「部屋に戻ったら教えるさ」
「よろしくな」
二人は部屋に戻り、更なる魔力の使い方を話していた。
「これは見張りの時にいつも使っているんだが、周囲の魔力を感知する段階から一つ進化させる。ピンポイントで魔力を見るって感じだ。あんまり得意じゃないんだがな…」
そう言いながら、アキラを目を瞑る。
数秒、そのままの姿勢でいたが、目を開けた。
「見つけたぞ、多分こいつだ。酒場から西に行った所だ」
そう言われ、アスランも酒場方面に意識を向ける。
ひときわ魔力が集まっている所が見える。これが酒場だろう。しかし、その付近の魔力や人の流れはほとんど感じない。
「見てるが…どこにいるんだ?」
「ひときわ波が揺らいでいる奴がいる。そこだけに意識を向けろ」
「ああ…」
ぼんやりと酒場方面に向けていた意識を、微かに波打つ魔力に向ける。
ふと、靄の様に見えていた魔力が以前よりも形を持って見える。
「人の形に魔力が見える…」
呟くアスランを見て、アキラが笑みを浮かべる。
「いいぞアスラン。その調子だ。行くぞ」
「え?行く?」
「会いに行くんだろ。感知は切るなよ。これも修行だ」
そう言いながらアキラは立ち上がる。アスランも後を追うように部屋を出ていった。
 




