表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

51/51

エピローグ

誤字報告ありがとうございます。

 俺がこの世界に来て10年が経った。最初は価値観の違いから戸惑ったが、もう違和感は殆ど感じなくなった。


 学園を卒業後、ミナお嬢様は予定通りにトピカ男爵領の領主となった。就任した当初は人口5000人程度の静かな場所だったが、今では人口8万人を抱える商業や工業の中心地になりつつある。ミナお嬢様はむしろ人口が増えすぎないように移住や移民を制限している。急激に発展しすぎると他家の顰蹙(ひんしゅく)を買う。それに本家のトピカ子爵領の人口は10万ぐらいだ、超えるのはまずいと考えているのだろう。


 この10年で様々な物を作った。石鹸から始まり、生活を便利にする小物や工具から、農業器具、凡庸旋盤機、メリヤス編み機といった産業機器まで、もっとも全ての製品がうまくいったわけではない、機械式計算機なんかはあまり売れなかった。驚いてはくれるのだが、一部、物好きの天文学者や大富豪が買ってくれた程度だ、価格が高すぎたのもあるだろうし、ソロバンで十分と思われたのかもしれない。


 といっても、商品の多くは成功している。簡易ナプキン、缶詰、石鹸は軍需品として大量に領外に売られていく。シャンプーやリンスも高級品としてどんどん出る。作れば作るだけ売れていく感じだ、今のところ、需要に陰りは見えない。ワイヤー、板金はそのままでも売れるが、くぎや針やバネ、ゼンマイなどの1次加工品、ネジなどの2次加工品も売れる。商人は笑いが止まらないだろう。まぁ、そこから税金をとっている、トピカ男爵領も同じようなものだ。


 兵器の開発を依頼された事もあったが、こちらは断った。別にそこを禁忌しているわけではない。必要なのも分かる。たんなる気分の問題だな。


 その内、工業規格も作りたいと思っている。元居た世界みたいにメートル法とヤード・ポンド法が混在しないようにしないといけない。あ、別にヤー・ポンが悪いって言ってるわけじゃないよ、設計やってるとヤー・ポンの方が優秀だなと思うところも沢山あった。それはそれ、これはこれという事です。


 学校も作った。といっても基礎教育を行う場所ではなく技術者を育てる為の場所だ、なので教える分野は数理に偏重している。


 電気も欲しいのだが、俺は電気分野はあまり詳しくなかった。オームの法則から実際に電気が使われた製品が出来るまで50年も無かったはずだ、それを考えれば出来なくもないとも言える。ただ、個人的には電気よりも魔力を研究したいと思っている。どういう風にエネルギー変換されるのか非常に興味がある。


 この世界の住人はどうも魔力というのを認識していない。エレナさんは肉体強化の魔法を使うがそれを魔法とは気が付いていないみたいだ、まぁ、電気も魔力も目には見えないのだ、あると言われて、実際に役に立つと分かって始めて理解されるものなのだろう。


 魔力と言えば、不思議な事が起きた。ミナお嬢様は学院在籍中に子供を生んだ、双子の男の子と女の子だ、最初は双子と聞いてビックリしたそうだが、片方が男と聞いて大喜びした。両方女なら、どちらを跡取りにするかで揉めそうだ、一人が男と聞いて安心したらしい。もう4歳になっているのに、長女をほったらかしにして長男に構いっきりだ。なんでも俺に似ているらしい。将来マザコンにならないか心配である。普通は跡取りの長女を大切にしそうなものだが、この世界の女の子は馬小屋に置いといても勝手に育つと言われている。逆に男は、丁寧に育てても若い内に死ぬことが多い。そこら辺も男女の偏りに繋がっているのかもしれない。


 不思議な事と言うのは、その長女の事だ。俺が暖炉の火を付けるのに手間取っていると"トコトコ"と歩いてきて薪に火をつけた。それも指から炎のようなものを出して。魔法? 俺が驚いていると、照れた表情をして抱き着いてきた。いや、それは可愛いけど。


 ミナお嬢様も周りの人間も最初は同じ様に驚いていたが、その内、気にしなくなった。というのもエレナさんの子供は異常に頑丈だし、ソフィアさんの長女は4歳ながらに既に大人顔向けの剣術を身に着けている。殆どの子供がそんな感じだから、指から炎を出しても、そんなこともあるかみたいな感じになってしまった。


 原因だが、多分、俺のせいなのだろう。あの(・・)女神はこの世界に干渉しないとか言っていたが、俺を通して、この世界の魔力や魔法の発展を進めたかったのかも知れない。そう考えれば納得いくところも多い。剣と魔法の世界か・・・。


 リリアーナ様の話を少し。リリアーナ様は学院を卒業後、暫くしてトピカ男爵領の官吏(かんり)として雇われた。もともとは公爵領で徴税官をする事が内定していたのに、それを蹴ってトピカ領の官吏登用試験を受けた。試験結果は問題なく合格だったのだが、ミナお嬢様から異義が入った。二人の経緯を考えれば当たり前だろう。それにリリアーナ様を雇うという事は公爵家との間に不和をもたらす原因となる。それを嫌ったのもあるだろう。


 ミナお嬢様は最初帰れと言っていた。だが、リリアーナ様は頑として帰らない。試験自体は合格だったのだ。帰る理由がないと突っ撥ねた。結局、2週間ぐらい押し問答を繰り返し。最後はミナお嬢様が折れた。まぁ、試験は合格だったのだ、結果を曲げる事はしたくなかったのだろう。何かあれば追い出せばいいとも考えたのかもしれない。ただ、リリアーナ様はいまのところ、問題は起こさず、仕事はきちんとこなす。いじらしい程に頑張っているようにみえる。


 リリアーナ様に今の状況に不満はないのかと聞いたことがある。"不満はない"と答えが返ってきた。"いつか実力をミナに認めさせて正々堂々とユータとエロい事をしたい。"と宣言された。"アッハイ"としか、答えられなかったな。まだ、俺の事を諦めていなかったのか。何て言うか男らしいのか・・・・、女らしいのか・・・・、うん、分からない。


 ちなみに、俺の相手をする女性はミナお嬢様が決める。なんとも受け身な話だが、この国にはこの国のやり方がある。それに併せる事にした。結果、俺は1男8女の父親だ。日本に居たときは結婚はしていたが、子供はいなかった。その結婚も5年と持たなかった。そう考えれば、今の状況は不思議でもある。


 この世界の女性は美しい。活き活きと(しがらみ)なく生きているように見える。もし、この星の支配者が誰かと問われたら。こう答えるだろう。人類ではなく、人類種・女性であると。


「ユータ、こんな所に居たのか?」

時計塔の上で物思いに(ふけ)っていると、ミナお嬢様がやってきた。


「街の様子を見ていたのです。ここに居ても活気が伝わってきます。」

丁度、朝の活動が始まる前だ。街の門前には、入門待ちの商人の馬車が列をなしている。大通りは人々が行き交いし、店員は商品を並べだしている。今日も忙しい一日が始まるのだろう。


「ここも大分、様変わりしたな。」

ミナお嬢様が俺の隣に並び、街を見下ろしながら言った。


「そうですね。」

来たときは、周り一面の荒野に家が数軒建っていた程度だった。


「のう、後悔はしておらんか?」

不意にミナお嬢様が聞いてきた。


「後悔?」

俺が聞き返す。


「そうだ、ユータなら他の選択を選ぶことも出来ただろう。王家の子になる事も、東の国に帰る事も出来たかもしれん。」

ミナお嬢様は視線を変えずに街を見ながら言った。


「ミナお嬢様の傍が私のいる場所ですよ。」

実際ミナお嬢様には感謝しかない。俺を自由に生きさせてくれる。過去のいきさつを考えれば、もっと窮屈な生活を強いられてもおかしくないのだ。


「そうか」

ミナお嬢様が短く応える。それで全て伝わったのだろう。


「ありがとうございます。」

ポツリと呟く。


「どうしたんだ、いきなり。」

ミナお嬢様がこちらに向き直りながら不思議そうに言った。


「なんとなくお礼を言いたい気分だったのです。」

俺は出会った時の作り物の笑顔ではなく、本物の笑顔で応えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ああああああああぁぁぁ!!!!最高すぎます!!最高に素晴らしい作品でした!めちゃめちゃ面白かったです!ありがとうございます!!!!
[一言] (*ゝω・*)つ★★★★★
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ