45話~ミナスタシア視点~
誤字報告ありがとうございます。
大会が終わった日の夜。4人の女性が王都にある寮のミナの私室で話をしていた。
「明日、ユータが寮に帰ってくるらしい。」
ミナが明るい声で言った。
「これで、誰はばかる事無くユータと色々出来るんですね。」
エレナも明るい声で言った。
「お前はそればっかりだな・・・」
ミナがやれやれと言った感じで笑う。
「しかし、ミナお嬢様よく勝負に出れましたね。」
エレナが聞く。
「それがな、不思議なのだ、昨日までは動くのも辛かったはずなのだが、朝起きると妙に体の調子がよくての、これなら戦えると思ったのだ」
「まぁ、流石に連戦はきつそうだったから、決勝だけの1回なのはありがたかった。レナお姉様とソフィアのお陰だな。」
「いや~、それ程でもあるよ。」
レナが後頭部を掻きながら言う。
「ふむ、"同衾のまじない"ですか。」
ソフィアが呟くように言った。
「何それ?」
レナが相槌を打つ。
「そういう飛語があるのです。」
「女と男がより深く交わる事で起きる奇跡の事です。"瀕死の状態から回復した"、"病が治った"、あるいは、"勝負事で普段以上の力が出た"、そんな、根も葉もない噂の類ですね。」
「なるほど、同衾のまじないか・・・意外に本当かもな。」
ミナが独りごちるように言った。
「そんな話を信じるのですか?」
「わからんぞ、私たちは既にユータという奇跡を見ているからな、もう一つ、二つ奇跡が増えても不思議ではあるまい。」
「奇跡ですか。私としては今回のような無理は、2度と無いようにして欲しいものです。」
「そのことについては悪いと思っておる。」
「まぁ、いいです。もう十分説教しましたからね。」
ソフィアが続ける。
「ところで話は変わりますが、ユータさんとのご結婚はいつになさるのですか?」
「うむ、形式上の結婚は怪我が治り次第するつもりだ、本来は家と家の協定も同時になされるが、ユータは後ろ盾となる家がないからな、母上が一旦、養子にするという形を取る事になるだろう。式はしない方がいいだろうな。」
「では、準備だけは進めるようにします。式をしないとしても、各方面への報告や手続きがありますからね。」
「頼む。」
ミナが短く答える。
「それから今回の勝負の事で母上から話があった。」
「イザベラ様が何かおっしゃってたのですか?」
「母上には、怒られ、褒められ、謝られもした。」
「謝った? イザベラ様がですか?」
ソフィアが言う。
「うむ、そのことだが、お前たちにも伝えて欲しいと言われたので言っておくとする。」
「まず、怒られたことだが、審判団を謀ろうとした事だな。"もう少しうまく出来んのか"と言われた。まぁ、母上は事前に全てを知ったみたいだから、手を回してユータの護衛に口止めしたらしい。」
ミナがレナの方を睨みながら言った。
「いいじゃん、私のお陰でうまくいったんだから。」
レナが後頭部で手を組み、目を逸らす。
「それから褒められたことだが、経緯はどうあれ勝負に勝ったことだな。」
ミナが続ける。
「最後に謝られた事だが、ユータを利用した事についてだ。」
「利用した事?」
エレナが相槌を打つ。
「今回の勝負に関して、各派閥の繋がりや動き、王都での諜報がどの程度機能するか、そういう事を確認したかったらしい。」
「勿論、ユータの事で不安があったのは確かだ、だが、それを利用するような形になったのはすまなかったと言っておられた。」
「そんな大事なこと私達に言って大丈夫なのですか?」
「大丈夫だ言えないことは私にも秘している。そういうお方だ。国も200年続けば、綻びも出る。綻びどころか穴だらけだろう。あるいは陛下と母上はそこら辺を見極めたかったのかも知れんな。殆どの派閥が何らかの形で関わる事などそうはあるまい。」
「なるほど。」
「まぁまぁ、上の人が何を考えているのかなんて考えても仕方ないって、それより、ミナ重要なこと忘れていないかな?」
レナが会話に割り込んでくる。
「重要な事ですか?」
ミナが分からないという顔をする。
「そうそう、以前母上が言ってたよね。配下の者が功績を挙げた場合、これに褒美を取らせる必要があるって、どうみても、私が今回の一番の功労者だよね。」
レナが自分を指差す。
「なんですか、お金が欲しいのですか? 分かりました後で書目と一緒に準備します。」
「いやいや、お金なんかいらないって、それより、私はユータが欲しいんだけどなぁ」
レナがチラリとミナを見ながら言った。
「駄目に決まってるじゃないですか!」
ミナが即答する。
「ああ、結婚したいとかそういう事じゃないよ、1回だけ、先っちょ先っちょだけだから。」
「それでも駄目ですよ。そもそもユータが嫌がります。」
「嫌がるかなぁ?」
「嫌がるに決まってるじゃないですか。」
ミナが断言する。
「じゃあ、嫌がったら手を出すのは止めるっていう条件ならどう?」
「いや、駄目です。」
「う~、強情だな~、あんまり言いたくなかったけど、ミナは既にユータに手を出しているよね?」
「何が言いたいのですか?」
「もし、私がその事を母上に告げ口したらどうなると思う。」
「脅すのですか?」
「そうじゃないよ、単なる個人の感想だよ。」
「私がユータに手を出しているという、証拠はないでしょう。」
「そうだね。ミナが母上を前に嘘をつき通す自信があるなら、それでもいいんだけどね。」
レナが演技くさく続けた。
「アレッ、嘘がバレるとどうなるのだろう? 当然、なんらかの罰はあるよね~、最悪、ユータとの結婚もなくなるんじゃない、そうすると私とユータが結婚なんてことになるかも・・、うん、それもいいかな。」
「・・・・分かりました。ですが許可するのは部屋に行くことまでです。ユータが嫌がったら絶対に止めて貰いますからね。」
「わーい、やったー」
レナが諸手を挙げて喜ぶ。
「実は一目惚れだったんだよね~、妹の好きな人だから奪うわけにも行かないし、これで合法的に手を出せるってもんだ。」
「レナお姉さま分かっているのですか、嫌がったら止めるのですよ。」
「分かってるって、でもユータは拒否しないと思うけど。」
「全く、どこからその自信が出てくるのだか」
ミナがぼやく。
「ああ、やっぱり、ミナってそういうとこ疎いよね。拒否しないと思うのは私に自信があるからじゃないよ。」
レナがミナを指差しながら続ける。
「ミナがユータの部屋にいく事を認めたって事が重要なんだよね~、あの男は絶対ミナが困る事はしないでしょう。」
「あっ!!」
ミナが今気が付いたとばかりに声を上げる。
「そういう事、じゃあ、明日の夜に褒美を受け取りに来るからよろしくね。」
「明日ですか!」
「そうだよ。戦いの後って、妙に気持ちが高ぶるからね。それをユータに鎮めてもらうの。」
レナが自分を抱きながら腰をくねくねする。
「それからミナがトピカ男爵領の領主になったら、サポートする様に母上に言われているから、そっちも宜しくね。」
「・・・・・・」
「ユータ、ユータ、どんな声でなくのかな~~♪」
レナが言いたい事だけ言って、ご機嫌で部屋を出ていく。
「なぁ、私はひょっとしてとんでもない人に借りをつくったのじゃないのか?」
ミナが呟く。
「「「・・・・・」」」
「「「・・・・・」」」
「「「・・・・・」」」
「「「はぁ・・・」」」
暫くの沈黙の後、3人はため息をつきながら、レナの出て行った扉の方を見た。
次の更新は2021年09月25日(土)です。




