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43話~ミナスタシア視点~

誤字報告ありがとうございます。

 武闘大会2日目の朝、3人の女性が療養所の病室で話をしていた。


「それで、ミナお嬢様はともかく、何故、エレナさんまで怪我をしているのですか?」

朝早く療養所を訪れたソフィアが挨拶の後、尋問する様に言った。


「いや、ちょっとユータの護衛と小競り合いがありまして。」

エレナが弁明する様に言った。その左足と右腕には布が巻かれ、添え木がされていた。


「はぁ、なぜ大会の前日に揉め事を起こすのですか? あれ程ミナお嬢様に注意する様に言われたのに・・・」


「ま、まぁ、エレナにはエレナの事情があるのだろう。そう怒るでない。」


「ミナお嬢様! 本来ならミナお嬢様が一番怒るところでしょう。何故、エレナさんを庇うのですか?」


「うむ、私は既に十分に説教したからな・・・・」

ミナは、目を背けながら言った。


「嘘ですね。私に何か隠してますね。」

ソフィアがミナの顔を見ながら言った。


「う、それは」


「それは?」


「えっと


「えっと、何ですか?」


「実はユータとだな・・・」


「ユータさんと?」


「・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・」


「はぁ、何故、女は下半身の事になると、こんな愚かになるのでしょう・・・」

事情を聴いたソフィアが頭を抱えながら言った。

「エレナさん、本来ならあなたが止めるべき立場でしょう。」


「いえ私はミナお嬢様の護衛ですからね。部屋に入ろうとする者が居ればそれを阻止するのが仕事です。」

エレナは"シレッ"と言った。


「まったくそんな屁理屈を、しかし、これでは大会はもう無理ですね。棄権するしかありません。」


「どうにもならんか?」


「ミナお嬢様とエレナさんで2敗が確定しているのですよ。どう考えても無理でしょう。」

ソフィアが続ける。

「優勝する家の派閥によっては、政治的手段でユータさんを取り戻すことも可能でしょう。そちらに賭けるしかないですね。」


「ユータにも言ったが、交渉で取り戻すのは無理であろう。そもそも、交渉する事自体、陛下の決定に不満があるという事になる。」

ミナが続ける。

「それに公爵家が金貨10万枚出そうとしたのは有名だからな・・・交渉出来たとしてもどんな対価を求められるか。」


「自業自得でしょう。泣きたいのは私もですよ。」

ソフィアが珍しく愚痴を言う。


 辺りには暗い雰囲気が漂う。3人とも黙っている。


「・・・・」


「・・・・ユータには翼があろう。」

沈黙の後、ミナが呟くように言った。

「私はな、ユータが笑顔でいる事が嬉しいのだ。職人と話している時、図面を描いている時、新しい物を作っている時。そして、その作り出すものがこの国の将来に繋がる。それが目に見えて分かる。私は奇跡の中にいるのではないか。そう思う時がある。」

「ユータが連れ去られた時、悲しかった。武闘大会の話を聞いた時も同じだ。だけど、同時に嬉しいとも思った。大会が終わればユータは思い通りに羽ばたける。どんな未来を見せてくれるのかと、私は誰よりもユータのファン(・・・)なのかもしれん。」


「「・・・・」」

エレナとソフィアは黙って聞いている。


「仮にどの家が勝とうともユータが自由に動けるように頼むつもりだ、その為に対価を惜しまないつもりでもある。それが私に出来るせめてもの事だろう。」


「ミナお嬢様・・・・」

エレナが言う。


「分かりました。ユータさんを手に入れた家と協力関係を作る方向で調整します。」

ソフィアがため息をつきながらまとめた。


「諦めるのは早くない?」

突然、別の方向から声が聞こえたので、3人とも驚いてドアの方を向く。


「なんだ、誰かと思ったら、レナお姉様か・・・」


「あれっ? ミナ、お姉ちゃんに冷たくない?」


「いえ、今込み入った話をしているので、いつ王都に入らしたのですか?」


「昨日だね。ちなみにばっちりミナの試合も見てたよ。というか、ドアを開けたまま話すなんて、不用心過ぎない?ソフィアらしくもない。」

レナが扉を締めながら部屋に入ってくる。


「それで、"諦めるのは早くない"とはどういう意味ですか?」

ミナが言う。


「うん、例えばだよ。エレナっち怪我してるんだよね? なら私が交代で出るとか可能なんじゃないの?」


「いや、無理です。レナお姉様は私の配下ではないでしょう。大会に出れるのは学院生とその配下だけです。」


「それなら大丈夫と思うよ。私、一応、ミナの配下って事になっているから。」


「は? どういう事ですか、そんな話聞いてません。」


「ああうん、ミナはゼウル村での石鹸やナプキンの販売権の一部を持ってるよね?」


「ええ、殆どは母上に譲りましたが、一部は所持したままですね。」


「で、私は今、ゼウル村で代官をやってるんだけど、併せて石鹸やナプキンの製造や販売の取り纏め役もやっているわけ。つまり、販売権所持者であるミナの下の役って事。当然だけど、利益の一部は国に納めるから、ばっちりと組織系統も国に連絡済み。全然、問題なし。」


「それは配下と言えないでしょう。」

ミナがツッコむ。


「・・・いえ、形式上は問題ないと思います。」

ソフィアが会話に入ってくる。


「そうなのか?」


「今大会は"家"の力を介入するために配下の要件がかなり緩くなっています。上位貴族程多くの配下を抱えていますからね。うまく人材を活用したいというわけです。中には学院生の娘がやっている代官の村の村人全員を配下と解釈し、そのなかから腕の立つものを闘士として選んだ家もあるそうです。まぁ、配下の要件を緩くしたのは別の理由もあるでしょうが。」


「入れ替わりか・・・」

ミナが"ポツリ"と言った。


「そうですね。公爵家のあれ(・・)はどうみても入れ替わりでしょう。大方、暗部で腕の立つ者を引っ張ってきたというところですね。配下の数が増えればいくらでも誤魔化しが効きますからね。」


「まぁまぁ、それは置いといてつまり私が出ても問題ないって事だよね。最近体が(なま)ってたから、いい運動になりそう。」

レナが腕を回しながら言った。


「それでも無理ですよ。そもそもエレナは大会で怪我をしたわけではないので、ルール上交代は認められないのです。」

ミナが言う。


「えっ、でも大会中(・・・)に怪我人が出た場合は、交代を認めるって確か規則集に書いてたような。」

レナが鞄から、紙束を取り出し、指を差しながら言った。

「ああ、ほらここ」


「第11条 大会中に闘士に試合が続行不可能とみられる怪我が発生した場合は、先鋒、副将に限り交代の闘士を出す事を認める。この場合、第3条の先鋒、副将の闘士たる要件を満たす事。」

紙束を受け取った、ミナが条文を読み上げる。


「やはり、無理です。」

ミナが言う。


「そんなことないでしょ。"大会中に怪我人が出た場合"だよ。大会中って昨日の朝から、今日の決勝が終わるまでの間って事だよね。」

レナが反論する。


「規定の趣旨から考えてどうみても、試合中の怪我という意味だと思いますが・・・」


「いけるかもしれません。」

パラパラと条文を読んでいたソフィアが顔を上げて言った。

「武闘大会の規則集には"大会中"の言葉の定義がありませんでした。ということは審判団が語句の意味を判断する事になります。」


「審判団が判断するならなおさら認められんのではないか?」


「私に策があります。エレナさん、今回の、揉め事はどういう風に処理したのでしょう?」

ソフィアがエレナの方を向きながら言った。


「お互い後ろ暗いですからね。怪我の原因については向こうは何も言わないのではないですか?争いにはならないと思いますよ。」

エレナが答える。


「では、ユータさんの護衛の方の名前を知っていますか?」


「そんなの知るわけないじゃないですか。」

エレナが言う。


「つまりエレナさんは"誰に攻撃されたか分からない"そして、"ユータさんの護衛は沈黙を貫く可能性が高い"という事ですね。」


「そういうことですかね?」

エレナは良く分からないという感じで相槌を打つ。


「今日の試合、エレナさんの怪我について審判団に説明するときに、"昨日の夜、誰か分からない人間に攻撃された。"と言うのです。」

ソフィアが続ける。

「その上で、交代を認めるなら、表沙汰にする気はないと加える。」


「ふむ、それで?」


「審判団は勝手に"敵対勢力の襲撃でエレナさんが怪我をした"と解釈するはずです。嘘はついていないので問題はないでしょう。それに審判団は王家の騎士です。揉め事は起こして欲しくないはずです。ただでさえミナお嬢様が反則のせいで怪我を負った。その上、エレナさんまで襲撃で怪我をした。下手に騒がれると更に問題になる。なら交代を認めてしまった方が良いと考えるのではないですか?」


「審判団を脅迫するのか?」


「そうではありません、向こうが勝手に勘違いするだけです。それに言葉を少し広く解釈するだけで審判団側にリスクはありませんからね。」


「嘘はついていないが、積極的に勘違いする様に仕向けるという事か・・・」

ミナが唸りながら言う。

「だが、後で結局バレるだろう。」


「そうでしょうね。ですが、全てルール内の話です。文句を言っても結果が(くつがえ)る事はないでしょう。」


「酷い詭弁(きべん)だな。」

ミナが呆れるように言った。

「他の貴族から、抗議があった場合はどうするのだ?」


「むしろ好都合でしょう。これを機会に全ての闘士が資格要件を満たしているか、しっかり調べてもらうよう提案します。」


「なるほど、上位貴族ほど後ろ暗い事をしている。藪をつつかれるより認めた方がいいと考えさせるわけか。もう少し煮詰める必要があるが・・・これしか方法がないかな?」

ミナがレナの方に向き直り言った。

「確認しますが、レナお姉様は私の配下(・・)として、試合に出る事になるかも知れません。問題はないですか?」


「ああ、体面の事? 全然気にしてないから大丈夫。」


「わかりました。どうせこのままでは敗北が確定しているのです。それでいきましょう。」


「やったーーー、これで、退屈しなくて済みそう。ついでに妹をいじめる輩を蹴散らしてあげる。」

レナが明るい声で続ける。

「剣神レナスタシアの名に懸けて。」


次の更新は2021年09月11日(土)です。

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