40話~ミナスタシア視点~
時間は少しだけ遡って、ユータが王城に連れていかれた日の夜、王都の寮の食堂で4人の女性が集まって話をしていた。
「連れていかれたとは、どういう事ですか!!」
食堂の机を"バンバン"叩きながら、エレナが叫ぶ。
「「・・・・・」」
ソフィアは腕を組んで目を閉じている。ワンナは今にも泣きそうだ。
「落ち着け、エレナ 今からきちんと説明する。まずは座れ、それでは話も出来ん。」
ミナが言った。
「ミナお嬢様こそなんでそんなに落ち着いてるのですか!今すぐにでも連れ戻さないと。」
「エレナ(さん)!」
ミナとソフィアの声が重なる。
「一番悔しいのはミナお嬢様でしょう。まずはお話を聞きませんか?」
ソフィアが諭すように言う。それを受けてようやく、エレナが椅子に座った。
「「「「・・・・・」」」」
「私も、先程 母上から事情を聞いて来たばかりで、いまいち整理できておらんが・・・」
暫くして前置きしながら、ミナがゆっくりと話始めた。
「まず最初にユータはトピカ領の客分から、国の客分として扱いを変える事となった。それに伴い身柄は王家の方へ引き渡された。向こうでは丁寧に扱われるそうだから心配はしなくてよいと言われた。」
「「「・・・・・」」」
皆、黙って話を聞いている。
「次に何故こうなったのかだが、王都に来てからユータを譲り受けたいと言う話が大量にあったのは皆も知っていると思う。下は地方の有力者から、上は公爵家まで全部で37家だ。」
ミナが自分を落ち着かせるようにお茶を一口飲んで続けた。
「この殆どはトピカ家に対して友好的、あるいは中立的な立場の家だった。どういう意味か分かるか?」
「それは敵対的な派閥の家なら、そもそも話が来ないでしょうし、強引に奪えばそれこそ家同士の争いになりかねません。」
ソフィアが答えた。
「そうだ、"争い"これこそが最も厄介な問題だな。」
ミナは順に3人の顔を見ながら言った。
「西国との戦争も終わり、国は落ち着いてはいる。とはいえ、ここで変に国の内側で争うような事態になれば、西国も黙ってはいまい。機を見てこちらに侵攻してくる可能性は十分にある。」
「それとユータとがどういう関係があるのですか?」
エレナが言った。
「先程、敵対派閥からはユータを譲り受けたいと言う話がないと言ったな。この連中もユータを欲しいという気持は同じだろう。だが、出来ない。」
「そりゃ、欲しいか欲しくないかで言えば欲しいでしょう。でもそれで争いなんて。」
「優秀な女には良い男が"婿"に来る。その婿を目的として周りにも優秀な女が集まる。そうやってコミュニティを作り、この国は栄えてきたのだ、男一人の事と軽視はできん。」
ミナが続ける。
「それにユータは自分自身で金を稼ぐことが出来るというのを証明した。母上の話では貴族の中にはユータを黄金の泉と呼んでいる者もいるそうだ。」
「黄金の泉?」
「ほっといても金が湧いて出てくるという意味だろう。美しい事、石鹸やシャンプーの考案者、それぐらいなら見過ごされたのかも知れんが、鉄の新しい加工方法となるとそうもいかんという事だ。」
「でだ、話を本題に戻すと、連中が一番恐れているのはユータを手中に収めれない事ではなく、ユータの作るもので自分達の敵対派閥が利益を得る。それにより自分たちの力が弱まるという事なのだ。となると何を考えると思う?」
「暗殺ですか・・・」
"ポツリ"と呟くようにソフィアが言った。
「そうだな、聞くだけで嫌になる単語だ、仮に失敗しても刃傷沙汰になる事は避けられんだろう。そうなれば・・・」
ミナが憂鬱そうに言った。
「争いですか・・・」
エレナが続ける様に加えた。
「勿論、最悪の場合の話だがないとは言えないだろう。」
「それで、王家預かりですか?確かに変な事を考える人は居なくなりそうですけど」
「心配しているのはユータの今後、そして、私達の今後の事だな。」
ミナが先回りして言った。
「そうです。どうなるのですか?まさかこのまま一生会えないなんてないですよね?」
エレナが不安そうに話す。
「大丈夫だ、いや、大丈夫と言っていいかは分からないが、ユータの処遇については決まっている。」
「そもそも、今回、ユータを王家預かりとするという話を提案したのは母上なのだ。」
「イザベラ様が?どういう事ですか?」
「陛下から相談があったそうだ、"ユータの事で争いが起きるのではないか"と、陛下には公爵家から話が行ったようだな。」
「公爵家?リリアーナ様ですね。」
「そうだ、どうやったかは知らんがうまくやったものだ。それを受けて、母上がユータを一旦、王家預かりにする事を提案、陛下がこの提案を採用したそういうわけだ。但し、その際に条件を付けた。」
「条件ですか?」
「預ける期間は3カ月、その後は、学院祭で行われる、武闘大会での優勝者にユータを与える事とする。」
ミナが息を"フウッ"と吐いて、続けた。
「つまりだ、母上は"ガキ同士のケンカ"で決着をつけろと、そう言いたいのだろう。元を言えばそこだろうとな。」
「武闘大会?」
「これならほぼ全ての派閥にチャンスがある。勝負での勝ち負けなら納得も出来るだろう。それにユータは陛下から直接 下賜される事になる。その上で問題を起こそうとする家があるなら、最悪取り潰しもあり得る。そして、そんな馬鹿な輩を庇う家もない。遠慮なく潰す事ができる。そういうわけだな。」
「なるほど、イザベラ様が考えそうな事ですね。ユータさんを失う事はトピカ領としても痛手の筈です。ですが、それよりも、国の大事になる事を恐れて、先手を打ったのでしょう。」
ソフィアが言った。
「領地としては損が出ても、国としては損は出ない。領主として、国の利益を考える。母上が陛下の信任を得ている理由が分かる気がするよ。私もそこは見習わなければなるまい。」
「それに、母上からは、身から出た錆であろう。とも言われた。ユータを自由にさせていたのは私の責任でもある。そう言われれば反論は出来ない。まぁ、悪い話ばかりではないぞ、"勝てばその場で、結婚しても良い"とも言われた。」
「経緯は分かりました。要は勝てばいいという事ですね。」
エレナが若干明るい声で言った。
「学院で1対1の勝負になれば、私に勝てる可能性があるのは、2人ぐらいだろう。その2人も既に婚約者がいる。今回の勝負は既婚者、婚約者がいる者は出れないルールだ。簡単とは言えんが勝てる可能性は高いと思う。ただ、勝負の詳しい方式自体はまだ決まっておらん。それによっては不利にも有利にもなるだろう。母上の政治的手腕に期待だな。」
「あとは注意点として、市中に王家直属の密偵が出ているらしい。」
「武闘大会の前に問題を起こされては困るというわけですね。」
「その通りだ。前提が全て崩れるからな。それ故 滅多な事は起きないと思うが、一応 周辺には注意してくれ。それとお前たちなら大丈夫と思うが、出来るだけ揉め事も避けるようにしてくれ。」
ミナがそう言うと全員がその場で、一礼をして会話は終了した。
次の更新は2021年08月28日(土)です。




