3話
誤字報告ありがとうございます。まとめて適用しました。
朝、鳥の鳴く声で目が覚めた、夜中に一度起きたにしては、快適な目覚めだった。ベッドの横に俺が異世界に持ち込んだバッグが置いてあった。手が届きそうな位置にあったので、中身を確認したいという欲求があったが、止めておいた。女神のおかげで痛みはないが、痛みってのは体が出す、警告でもあるから、下手に動いて悪化したらまずいと思ったのだ。とりあえず、体を少しだけ起こして、周りをキョロキョロとみる。
どうやら、自分は天蓋付きのベッドに寝かされていたらしい。窓には雨戸がしてあるのだろうが、木の板の隙間から光が少しだけ差し込んでいた。怪我した腕と足には予想通り、添え木がされていて、添え木と患部の間には何やら葉っぱのような物が挟まっていた。湿布みたいなものだろうか、ひょっとしたら、鎮痛の効果があるのかもしれない。
さて、起きたはいいのだが、やることがない。いろいろ考える事はあるのだが、いまいち考えがまとまらない。そうして、10分ぐらいぼーっとしていると不意にドアがノックされた。うん、ついに来たかという感じだ。この世界で初めて会う住人だ、多分 俺を助けてくれた人?でもある。
とりあえず、笑顔作戦でいこうと思う。笑顔を向けられて嫌な気分になる人間は少ない。弱い立場であるなら、相手の心証をよくしといて損はない。というか、これぐらいしか出来ることがない。なので、出来ることをきちんとやる。少し腹黒な気もするけど、生きるためと割り切ってやる。
「どうぞ」
って、俺が声を出すと。一瞬間があってドアが開いた。
「失礼します。」と言って入ってきたのは、20歳前後の女性だった。メイド服っぽいのを着ている。
ブラウン色の髪で漫画なら糸目で表現されそうな切れ長の目、いかにも西洋美人って感じの人だった。
「おはようございます。まず最初に、お礼を言わせてください。色々とありがとうございました。」
俺が笑顔で一気にそう言うと部屋の中に静寂が訪れる。
「?」
あれ、俺、変な事言ってないよな。言葉もこの国の言葉を話した筈だし…
暫く間があって、フリーズしていたメイドようやく動き出した。ツカツカと窓の方に行き、雨戸を開放した。窓からは朝の光が差し込む。
そのまま踵を返しドアの方まで行くと
「た、助けたのは、ミナお嬢様です。お礼ならミナお嬢様に言ってください。」
背中越しにそういわれて、メイドはさっさと部屋から出て行ってしまった。ちなみに最初に目があった後は、まったく目が合わなかった。
(ミナお嬢様?)
と疑問には思ったが、それよりあのメイドすごく怒ってたのが、気になる。
えっ、俺、何か失礼なことしたか、いや、笑顔を向けて、媚を売ってると取られたのかもしれない。浅い考えが読まれたとか。ひょっとしたら、笑顔が失礼にあたる文化なのかもしれない。
(う~ん)
いきなり、失敗したと俺が悩んでると、再度、ドアがノックされた。
「どうぞ」
そういうと、間があってドアが開いた。
入ってきたのは、先ほどのメイドと、中学生ぐらいの少女、それに30歳ぐらいの女性だった。
たぶん、真ん中の少女が、ミナお嬢様なんだろう。一人だけややラフな格好をしている。少女は金髪の緩いカールで瞳の色も同じ金色、如何にもお嬢様といった感じ、30歳ぐらいの女性は、やや赤みがかったストレートの髪に緑色の瞳をしていて、出来る秘書みたいな雰囲気をだしていた。
俺の風貌は、若返っただけだから、典型的日本人顔の筈だ、「笑顔が失礼だ」と言われたら、文化の違いで通そう。そう思い再度、笑顔を向けて話す。
「えっと、先ほど、そちらの方にも言ったんですけど、助けて頂いてありがとうございました。名前はユウタ・ヤマモトです。」
「・・・・・」
「ユータ・ヤマート?」
若干間があって、お嬢様が復唱する。
「そうです、ヤマモトが家名です。」
「そうか、私はミナスタシア・トピカだ、それに、エレナとソフィアだ」
メイド風がエレナで秘書風の方がソフィアらしい。
「助けた事については気にしなくていい、人として当たり前のことをしただけだからな、しばらくは自分の家と思ってゆっくりしてもらって構わない。 何かあれば申し訳ないがエレナを呼んでくれ。この家に男はいないのでな」
男がいない?疑問に思ったが口にはせず流すことにした?
「はい、何から何までありがとうございます。」
俺がそういうとお嬢様達は踵を返し部屋を出て行った。
(バタン)
とドアが閉められたのを確認した後、俺は盛大なため息をついた。
ちなみに、上の会話、流れだけ見るとおだやかなのだが、実際は、メイドはずっと目を合わせようとしないし、お嬢様は、俺が自己紹介した後は、奥歯を噛みしめ、頬を高揚させて話していた。秘書に至っては口を「への字」に曲げて俺を睨みつけていた。つまり、全員怒っていた。
(なんで?)
家には男がいないと言ってたから、そこら辺も影響しているのかもしれない。とはいえ、一応、しばらくゆっくりしていっても構わないとの許可は出たので、いきなり叩き出される心配はなさそうだ。正直すぐにでも謝りたい気分だが、原因が分からない以上はどうしようもない。そう割り切って、俺は体を横たえた。




