30話
誤字報告ありがとうございます。まとめて適用しました。
学院入学の2週間前、俺は既に王都に来ていた。"初等生"と"高等生"を振り分ける試験が今日 行われる為、早めに来る必要があったのだ。
制服に着替え準備をする。ミナお嬢様は学院に通うにあたり、王都に寮を借りた。俺もそこから通う事になる。寮と言っても少し小さめの館で部屋数は20ぐらいある。少し学院が遠いところが難点なのだが、学院は王都の中心に近いところにあるので、近い場所だと家賃が跳ね上がるので仕方ないそうだ。
早めに王都についたので観光もした。さすがは王都という貫禄で城も壁も街も全てがでかく、建物も殆どが石造りだ。領都を見た時もビックリしたが、王都はそれの数倍以上はある感じだな。ファンタジー好きの俺も大満足だ。
蛇足だが、王都では俺は出かける時に必ず女装するように言われている。組織的な犯行や計画的な犯行は防げないが、少しでも犯罪に巻き込まれる可能性を減らしたいらしい。といっても学院にはさすがに女装しては行けないので今日は普通に男の恰好をしている。
歩いて学院に向かう。今日は普通に男の恰好をしている為、結構な人がこちらを見てくる。王都に来てから普通に男も見かけたから、そんなに珍しいものではないと思うのだが、まぁ、男の学院生は珍しいというのもあるのだろう。
学院が近づいてくるにつれて、同じ制服を着た人が多くなってくる。今日は普通の授業は無いはずだから、ここにいる人は振り分け試験を受ける人達だろう。年齢は結構バラバラだ、見た感じ下は10歳から、上は20歳くらいの人までいる。王国は広いし、領地によって様々な事情があるのから年齢がバラつくのは仕方ないのかもしれない。男も普通にいる。少し数えてみたら100人中9人が男だった。男女比1:10くらいか、ざくっと数えただけだから誤差も大きいが参考程度の数字にはなるだろう。
門でエレナさん達と別れる。部外者は学院の中に入れないので護衛はここまでだ。最も学院内は貴族の子供も多いため、警備は万全である。ここで犯罪に巻き込まれる可能性は低いから問題はないはずだ。
教室が違うため、ミナお嬢様とも別れて指示された教室に行く。見た感じ男は俺だけみたいだ。希望する"科"によって振り分けられているのだろう。全員揃っていないから何とも言えないが、執務科は男には人気が無いらしいので、俺だけなのかもしれない。男の友達ができなさそうなのは少し残念に思う。
ちなみに、男に人気の有る科は"医学科"と"神学科"らしい。医学科が人気なのはなんとなくわかる。男女で体の違いがあるから、男も必要という事だろう。需要があれば人気もでる。神学科は何故人気なのかと言うと"婚活"のためらしい。有力者や下位貴族が繋がりを持とうと結婚の決まっていない自身の男児を学院に通わせるそうだ。運が良ければ上位の貴族と近づけるという事だろう。敬虔な信者ってモテそうだもんな。
荷物を置いて席につくと周りの視線をもの凄く感じた。中には露骨にこちらを見てくる人もいる。慣れたとはいえやはりあまり心地の良い物ではない。
「ここは執務科を希望する生徒が集まる場所だよ。キミ教室間違えてない?」
そう思ってたら隣から声をかけられた。濃紺の色の髪をセミロングにカットしている。大きな目が印象的な女の子だ。頭にはカチューシャみたいなものをつけている。年齢は俺より少し上なぐらいかな。
「ご親切にありがとうございます。私は執務科の希望なので間違いではないです。」
執務科は比較的平民が多い科ではあるが、それでも半分以上は貴族だ。また平民と言っても有力者や富豪の子供である場合が多い。俺は失礼にならないように返答をする。もちろん笑顔も忘れない。
「・・・・・・」
「・・・はっ。」
「へ、へぇ、男子なのに執務科なんだ、珍しいね。」
暫く"ボーッ"としていたが、気を持ち直したのか紺色の髪の少女が、そう言った。男にあんまり免疫がないのかな?
「そうですね。お互い高等生からとなれば、同級生となります。その際は宜しくお願いします。名前はユータと申します。トピカ子爵の客分として学院に通わせて頂くことになりました。」
学院に通うに辺り、使用人ではまずいという事で、客分扱いとなった。といっても、仕事自体は普通に続けている。
「平民なんだ?私はリリアーナ・リトルロック 宜しくね。」
話しかけてきた女の子は貴族らしい。俺が平民と聞いても特に含むところは無さそうな感じだな。
「ユータ君て呼んでいいかな?」
「どうぞ、こちらはリリアーナ様と御呼びさせて頂きますね。」
「呼び捨てでもいいけど?」
「ご冗談を」
リリアーナ様は大分気さくな娘らしい。学院内では身分をひけらかすような行為は禁止されているが、さすがに貴族を呼び捨てには出来ない。
「冗談ではないんだけど、まぁいいか。ところでユータ君は高等生から入る自信はあるの?」
「大丈夫とは思います。家庭教師にも問題ないレベルだと言われましたから。」
学院に入るにあたり、ソフィアさんにも勉強を見てもらったが、”間違いなく高等生から入れる”と太鼓判を押されたほどだし平気だろう。
「そうなんだ。私は初等生からの卒業試験になるんだけど、あんまり自信がなくて」
ふむ、初等生からのエスカレーター組も同じ試験を受けるのか、落ちたらもう一年 初等生をやり直しになるのかな?
「ねぇ、良かったら問題の出し合いっこをしない?」
「勿論いいですよ。」
周りの女子たちは俺たちの会話を聞いている気配はあるが、入ってくる様子はない。ただ視線を凄く感じるので、気がまぎれる問題の出し合いは俺としても歓迎だ。
ということで試験までリリアーナ様と問題の出し合いをして過ごした。試験前に緊張をほぐす事も出来、その後の試験も問題なく解くことが出来た。数学だけやたら難しい問題が出たがほぼ満点に近い出来だろう。これなら高等生からスタート出来ると思う。リリアーナ様には感謝だな。
~~~~リリアーナの邸宅~~~~~
「はぁはぁはぁ・・・ユータくぅん、ユータきゅん、何あれ、天使?」
試験が終わった日の夜、リリアーナは自宅のベットで枕を抱きながら寝転がってぐるぐる回転していた。思い出していたのは今日の試験の事だ。隣に座った男がありえないほど美少年だったのだ。
本当は男子との出会いを求めて神学科に通いたかったのだが、家の方針で執務科に通う事になった。どうせ出会いなど無いのだろうと考えていた。しかし、今は執務科に行くことになったのは運命かもしれないと思っている。
"コンコン"
部屋で妄想に耽っているとドアがノックされた。
「入って」
リリアーナがそう言うと、一人のメイドがリリアーナの部屋に"失礼します。"と言いながら入ってきた。
「ユータ君の事で分かった事があったら早く教えて。」
リリアーナはメイドを急かす様に言った。
「時間が無かった為、書類上で分かった事を報告します。名前はお嬢様に名乗った通り、"ユータ"で間違いありません。年齢は12歳、トピカ領の客分で今は平民ですが、市民権を得たのはつい7ヶ月前の事です。名目は"東方の国の元貴族に相応しい待遇を与える為"だそうです。」
「元貴族、本当なの?」
「さぁ、その辺りは何とも言えません。ただ、トピカ子爵様がそう申請したなら、この国ではそれが真実という事になります。」
メイドが続ける。
「それから今は"ミナスタシア・トピカ"という子爵様のご息女と郊外の屋敷に住んで居ます。学院へはそこから通うようですね。」
「ミナスタシア?何者なのそいつは?」
「トピカ子爵様の三女ですね。年齢は14歳、今年から騎士科を志望しています。つい最近、男爵様の長男との婚約を破棄されていますね。」
「破棄?そいつとユータ君との関係はどうなの?」
リリアーナが眉根を寄せて、不機嫌そうに言った。
「それについては分かっていませんが、とりあえず、婚約などはしてないようですね。」
「分かったわ。取り敢えずユータ君の調査はこのまま続けて。それからミナスタシアという女も併せて調べて。」
リリアーナがそう言うとメイドは"わかりました"と言って、一礼し部屋を出て行った。
はぁ、ユータ君まじ天使、やりたい。あの男は公爵の娘である私にこそ相応しい。子爵の娘なんかにはもったいない。きっと手にいれてみせるんだから。そう呟いたリリアーナの瞳には情欲の光が宿っていた。




