29話
誤字報告ありがとうございます。
勝負終了から2ヶ月が過ぎた。俺は12歳になった。今は学院の入学時にある試験に向けて勉強中だ、貴族の推薦で学院に入る場合 基本的に入学試験はないが、入学の際に振り分け試験がある。これは"初等生"と"高等生"を分ける為の者で、結果が悪ければ初等生からの入学となる。俺は数学と国語については問題ないが、王国史と神学については知識が全くない。推薦を受けていながら、初等生からというのもあまり良くないし、何より卒業までの期間も長くなるので、最初から高等生に振り分けられる様に勉強しているのだ。
ミナお嬢様と男爵家の婚約は正式に破棄された。向こうは大分ゴネたらしいが、最終的には交易関連でトピカ領が男爵家に、ある程度の優遇する事で納得したらしい。トピカ領は石鹸やシャンプー、簡易ナプキンと新しい産物がある。取引量はまだまだ少ないが、成長の見込める産業だ、ゴネ過ぎて関係が悪化するのを懸念したのもあるのだろう。
その新しい産物関連の話だが、悩んでいることがある。石鹸については最初から村人達に作り方を教えていたので、俺たちが王都に行っても問題ない。ミズゴケは大量に刈られているが、ゼウル村全体で見ればまだまだ余裕があるし、一部 栽培も開始した為、問題ないと考えている。そもそもミズゴケ自体は非常に生命力の高い生物だし、今後はゼウル村以外でも栽培されるようになるだろう。
問題はシャンプーとリンスだ、これを作れるのは今の所 俺だけだ、もちろん王都に引っ越しても作り続けるつもりだが、当然 量は減るのでトピカ領に売る程は作れない。とはいえ、始めた者としての責任もあるし、ミナお嬢様の名声にも関わる事だから、今後もある程度は販売しなければならない。まぁ、勝負の後の事を何も考えていなかったから、自業自得なんだけど。
仕方ないので現在石鹸を作っている作業場の一角でシャンプーとリンスを作る事にしてもらった。一応、石鹸と同様に箝口令を敷いた。石鹸を作っている以上、似たようなものをいずれ作る様になると思うが、それはあまり気にしないことにした。販売自体はカインさんの商隊に任せる事にする。ミナお嬢様は王都に行くが、これら事業の一部の権利は所有したままにするそうだ。俺にも考案者としてそこから幾らか利益が還元されるらしい。
後は俺に起きた変化と言えば、市民権を得た事だ、何が変わるのか聞いたら一応 色々変わるらしい。主な所ではまず、住む場所の制限が緩くなる。平民の場合は領都のより中心街に近い場所に住めるようになる。次に、仕事なども見つけやすくなるし、出世もしやすくなる。逆に、納める税金は賤民より上がる。但し、"男"の場合はそもそも人頭税が課されないので実質 今と変わらない。俺の場合は市民権を得ても不利な要素はほぼないという事だ。ただし、それを喜んでいいのかと言うと微妙な所だ、結局、弱者保護なのだから。
ちなみに、俺の市民権を得る際の名目は"東方の国の元貴族に相応しい待遇を与える為"だそうだ。そんな適当でいいのかと聞いたら、"母上がそれでよいと判断したらなら問題ないだろう"と答えが返ってきた。子爵って下位貴族のイメージがあるが、領主様は思ったより偉い人なのかもしれない。
他に考えていることもある。ミナお嬢様と結婚する事が認められたのは素直に嬉しいのだが、周りの女性達との関係がどうなるかが分からないのだ。カインさんは商隊のリーダーの女性と結婚しているが、その周りの女性とも"関係"を持っている。子供もリーダー以外の女性とも儲けている。その事で商隊内の関係がギクシャクしている感じはしない。それがこの世界の常識と言われればそうなのだろう。
俺の場合はどうなるのだろうか?ミナお嬢様とはいずれそういう関係にはなるのは分かる。しかし、その場合、エレナさんやソフィアさんやワンナとはどういう関係になるのだろう。この国は一組の夫婦を中心にその周りの女性と関係が作られるようだ。男性が女性より極端に少ないから仕方ない面はあるのだが、それを女性があまり嫌がっている様子はない。寧ろ当たり前のものとして受け入れている感じさえする。
エレナさんはどちらかと言うと”お姉ちゃん”な感じだ、精神年齢は俺の方が上なのだが向こうが"弟"の様に扱うので自然とそういう関係が出来てしまっている。向こうも実際に俺の事を弟の様に思っているだろう。ソフィアさんは良く分からない。そもそも年齢が離れすぎているから、そういう対象としては見られていない気がする。ワンナは今の所 子供だし、俺は妹の様に思っている。向こうはどう思っているか分からないが、やはり対象外だろう。
ただ、エレナさんにしてもソフィアさんにしても特定の相手がいるようには見えない。この世界は男が少ないから出会いのチャンスも少ない。そういう意味では仕方ないのだろう。そう考えると、俺が狙われていると考える事も出来る。実際に完全にないと言えない所がまた微妙な感じだ、まぁ、気にしすぎなのかもしれない。この世界は俺から見たら酷く歪に見える。それは俺が地球と言う別の世界を知っているからなのだろう。この世界はこの世界なりに正しい在り方をしている。頭ではそれが分かっていても、やはり元の世界の知識がどこかで邪魔をする。
結局、ゴチャゴチャ考えてもなるようにしかならないのかもしれない。今回の勝負にしても、勝てた事、そしてその後に、結婚が認められた事は、恐ろしい幸運の上に成り立っている。この世界の男には力がない。女性にとっては保護すべき弱い存在なのだろう。それでも俺は俺のやり方で彼女達に幸せでいて欲しいと願うのだ。
二章完です。三章は1ヵ月半後ぐらいです。どうでもいい、おまけ1話上げます。




