2話
目が覚めたら真っ暗な場所にいた。起きたと同時に折られた腕と足が「ジンジン」と痛み出す。
体を起こそうとしたら、少し動いただけで、更に痛みが大きくなったの止めておいた。首は左右に動かせるが、やはり暗いだけで何も見えそうにない。暗いのは多分夜だからだろうな。感覚的に自分がベッドのような場所に寝かされているのだけは分かった。
ドラゴンに襲われ、ゴブリンに襲われ、夢だと思った方が現実で、腕と足の痛みが急速に自分の現状を認識させる。
『ろくでもない夢をみてたなら、どんだけよかったか』
そう思ったが、現実が変わるわけではないので、諦めて、思考を戻す。
ゴブリンに襲われた時、たぶん、誰かに助けられたのだろう。気を失う前に声を聴いた気がする。それに今の状況、ベッドに寝かされ、腕と足には多分、添え木のような物が付けられている。治療してくれてるんだと思う。できれば人間に助けられたと思いたいが、別のモンスターに助けられたとかいうオチもありそうだな。
ゴブリンがいるなら、亜人とかも普通にいそうだし。友好的な種族なら良いのだが…
まぁ、助けたのが人間でも、助けといて、高額な医療費を請求される場合もあるかもしないから用心は必要だけど、ただ、命の恩人であることは確かだから、無茶な要求でなければ、ある程度は報いたいとも思う。
とりあえず、生きることを考えるなら、自分自身の事も考えるべきだな。女神からはスキルを3つ貰った。
「超絶回復」、「隠蔽」、「通神x3」
このうち「超絶回復」については、さっきから試しているのだが、傷が良くなる様子は一向にない。まぁ、試すといっても頭の中で『回復しろ~』と祈っているだけなのだが、使い方が間違っているんだろうな、あるいは回復の種類に「傷」が含まれてないのかもしれない。こんなことなら、スキルについて、詳しく聞いておくんだった、自分で調べた方が面白いかなと思ってあえて聞かなかったのだが。
「隠蔽」についてはよくわからない。ただ、ゴブリンにあっさり見つかったことを考えるとパッシブスキル(常時発動)ではないことは確かな気がする。
最後の「通神x3」だが、これだけは使用方法が分かる。頭の中で女神を呼び出せばいいらしい。ただし回数制限3回。
呼び出せば質問に答えてくれるらしい、質問は1個に限定されなかった。つまり、1回の呼び出しで、複数の質問に答えてくれる可能性が高い。なので、疑問を沢山貯めた方が、得だと思う。ちなみに俺はRPGとかだと、最後までエリクサーをとっておくタイプの人間だ、それで結局、使わずにクリアする。
今のところの疑問だと、スキルの事と、現在、自分が置かれている状況、あと、疑問ではないが、いきなり、ゴブリンに襲われた事に苦情を言いたいぐらいか。
(う~ん)
どうするか、迷ったが、使うことにした。そもそも、こういうのってって最初に使わないと意味がないなと思ったのと、やはり腕と足の痛みがきついのでどうにかしたい。
『女神様、女神様』
頭の中で呼びかける、苦情がある場合でも最初は下手にでる。社会人の悲しき性。
こんなんで、ほんとに出てくるのかなと思っていたら。
『ジャジャジャーン、女神さまだよ』
うん、本当に出たね。ていうか、この人? こんなキャラだっけ?
『こんばんは、女神様、ところで、いきなりゴブリンに襲われたのですけれども…』
とりあえず、軽くジャブを打つ。
『ああ~、それね。うん、ほぼ計算通りね』
悪びれず、そう言う。
『計算通り?』
『あなたが、ゴブリンに襲われるまでは計算通りなの。それで助けられて、助けられた先で生活基盤を築けるようにするために。まぁ、怪我をしたのは想定外だけど』
『最後に金貨5枚足したのがまずかったのかしら?』
最後は自問のようにつぶやく。
『金貨5枚?』
『バッグの内側に縫い付けてあったでしょ。』
え、そんなのあったの? 要求したものがすべてバッグに入ってたからそれ以上は見なかったけど、あったのかもしれない。
『そういやバッグ』
『バッグなら心配ないわよ、あなたを助けてくれた人が一緒に持ち帰っているはずだから。』
それは安心したけど、逆に別の心配が出てくる、見られていけないものが結構あると思うんだが、本とかプラスチック製品とか・・・うん、なんか、めんどくさくなってきた。とりあえず、現状はわかった。女神の話が本当なら助けられるまでは女神の想定の範囲らしい、俺を助けてくれた人もどうやら、善人っぽいし。いきなり、奴隷とかいって売りに出される心配はなさそうだ。
『はぁ…、わかりました。そちらはもういいです。呼び出したのは、スキルについて教えてほしいからです。特に超絶回復の使い方について教えてほしいです。』
『使えないわ』
『は、えっ? 使えないってどういうことですか?』
『超絶回復も隠蔽も大人にならないと使えるようにならないわ。』
えっ、なんか異世界なりのそういう制約とかがあるんだろうか…
『それに』
『それに?』
相槌を打つ
『使えたとしても、超絶回復で傷や病気は治らないわよ。』
『わたしファンタジー小説は好きだけど、チートって嫌いなの、怪我や病気が一瞬で直るってチートそのものじゃない。』
女神の美学とかはどうでもいいんだが、ということは、この痛みとしばらく付き合わないといけなのか、怪我した箇所がズキズキと痛む。地球だったら鎮痛剤とかあるが、この世界には多分ないだろう。この状態が続くのは結構きついな。
『ちなみに超絶回復も隠蔽も常時発動だから、使い方とかは特にないわね。回復の種類は魔力ね。隠蔽は特定の状態を隠すためのものね。』
『魔力? それに特定の状態?』
『さっきも言ったけど、私はチートが嫌いなの、だけど、あなたは元地球人だから、ある程度配慮しました。その結果が超絶回復と隠蔽よ』
『よくわからないのですが?』
『その内分かるようになるわ』
これ以上答える気はないらしい。俺が「ふぅ」と息を吐く。
『まぁ、怪我については私に責任がないこともないから、治すのは無理だけど、痛みはやわらげてあげるわ。』
『えっ、出来るの?』
思わず、ため口になる。
『私を誰だと思ってるのこの世界の創造神よ、出来ないことなんてないわ。』
『いや、ここに送られる前に物理的に干渉できないっていってたから』
『ああ、それね、出来るだけ干渉しないって意味で、努力目標みたいなもんだから気にしないで。』
うん、こういう人? だったね。まぁ、痛みが和らぐならいいかって思ってたら、怪我した箇所から徐々に痛みが引いていくのが分かる。
ついでに尿意も消えていった。ありがたいけど、なんで?
というか、こいつ本当に女神だったんだな。今更ながらに思う。
『じゃあ、今回の通神はここまでね。こう見えて私、結構忙しいから。おやすみ。』
畳みかけるように女神が言う。
『ああ、ありがとう、女神様。おやすみ』
微妙に質問に答えてないとか、腑に落ちない所は多々あるが、一応感謝はしておく。痛みが引いたあと、俺は睡魔におそわれた。
 




