26話
勝負終了まで、後1ヵ月をきった。まずは、ミナお嬢様のモンスター討伐の勲功だが、第二勲功を授与された。これは3番目の手柄になるそうだ、上には特別勲功と第一勲功があるらしい。特別勲功は正規軍を率いた軍長に与えられて、第一勲功はその配下に与えられた。ここら辺は出来レースっぽいが、どこの領地でも自分の配下が大切と言うのは仕方ない。実質的にはミナお嬢様が一番活躍したとみて良いのかもしれない。"武功"としては申し分ないだろう。但し、死者こそ出なかったが、前に出すぎて勇軍自体に少なくない損害が出た事はマイナス評価なんだとか。
次にシャンプーとリンスだが、こちらは手売りだったこともあり数はそこまで売れていない。全体でみればそこまでの面積ではないだろう。但し、領都でかなり話題にはなった。ミナお嬢様を始め、貴族や有力者が綺麗な髪をしているのだ、注目度は当然高い。シャンプーを手に入れれるかどうかは"格"の問題になってくる。有力者がこぞって、ミナお嬢様と繋がりを持とうとしてきたらしい。手紙が毎日 数十通に社交場に出れば、ひっきりなしに声を掛けられたそうだ。レナスタシア様も活躍したと聞いた。綺麗な髪で街や社交場に出て"新しい洗料"の良さをアピールしたそうだ、確かにあの人はコミュ力強そうだから宣伝には持って来いだな。今回の勝負の起点はレナスタシア様でもあるから、罪悪感から協力してくれたのかもしれない。
石鹸の販売だが、かなり伸びた。やはり、簡易ナプキンとセットで販売したのが効いたようだ。大量に作れるようになった事で価格自体も下げれたのが大きかったと思う。石鹸作りでは、ワンナも活躍した。良品と悪品の違いを嗅ぎ分けれる事が分かったので、完成品の品質検査を任せる事にした。どんな匂いがするのか聞いてみたら、悪品は匂いが薄いそうだ。試しに嗅いでみたが全く違いが分からなかった。
最後に簡易ナプキンの販売だが酷いことになった。売れすぎて供給が全く追いつかなかった。5人で始めたミズゴケ刈りが、最終的には30人ぐらいまで増えた。毎日朝から晩まで刈りつくす勢いで刈った。さすがにまずいと思ったので、一部、自然栽培というか、放置栽培に近い地域を設けたりして、取り尽くさない様に注意した。
トピカ領全体では市民権を持つ人だけで8万人、市民権を持たない人も併せれば10万人近くの人が住んでいるらしい。当然ながらその殆どが女性で、しかも働いている。着け心地のいい簡易ナプキンは大歓迎というわけだ。模倣品も当然出回ったが、ミズゴケ自体の群生地が意外に少なかったのも影響して小規模に収まった。ミナお嬢様の封じ込め作戦がうまくいったのもあるだろうが、運も味方した。
販売初期の頃は店の前に長蛇の列ができ、商品を買うために、徹夜する人も居たし、裏で転売する人も出たらしい。世界が変わっても人間のする事に差はないのかもしれない。そう思うとなんだか可笑しかった。
勝負に関連してゼウル村と領都にも変化があった。まずはゼウル村の方について、元々、開拓村という側面もあったので、住民は常に募集していたのだが、林業自体が人気が無いこともあり、希望者は殆ど居なかった。それが、簡易ナプキンが売れだしたころから変化した。ゼウル村には仕事があるという噂が領都で広まったらしく、移住してくる人が増えのだ。
実際に仕事は大量にあった、石鹸を作る人はまるで数が足りていなかったし、ミズゴケを狩る人、これをズタ袋に入れて丸太に括り付けて川に流す人も足りていない。人が増えれば、家を建てる人や物を売る人や警備隊も増やす必要がある。木材も足りなくなるから、林業をする人も増える。土地だけは余っているから、木を刈った場所から切り株を引き抜いて小麦を作り始める人も居た。元々600人程度だった住人が今では3000人ぐらいまで膨れ上がっている。
屋敷の警備員も増えた。元々臨時で2人雇っていたのだが、更に4人増やした。新たに増やした内の2人はどうやら俺の護衛も兼ねているらしい。人口が増えれば、代官業の方も当然忙しくなる。ソフィアさんはミナお嬢様の代わりに定期的にゼウル村に戻っては、その辺りの仕事を熟していた。ソフィアさんは"賭け"の見届け人でもあるから、手伝って大丈夫なんだろうか、そこら辺のことを聞いたら、"見届け人ではありますが、手伝うなとは言われてませんから"と言っていた。そんなもんなんだろうか?
次に、領都での変化。今まで殆どの人は濃い色の服を着ていたのだが、石鹸と簡易ナプキンが普及したことにより、淡い色の服を着る人が増えて来たそうだ。石鹸で汚れを落とせるようになり、簡易ナプキンでしっかり月経の汚れを抑える事が出来るようになった事が関係しているらしい。濃い色の服を着た人の中に淡い色の服を着ている人がいるのだ、当然目立つ。一人がそんな恰好をしていれば、自分もとなる。
これの仕掛け人は商人のカインさんだった。元々、服飾関連の息子だった事もあり、服を自分でも作っていたらしいのだが、売れ行きは芳しくなかった。理由は簡単で、作る服が淡い色の物が多かったから、カインさんは領都で石鹸と簡易ナプキンが売れるのをみて、淡い色の服が売れるのではないかと思い、女性陣に大々的に販売する事を提案したらしい。最初は半信半疑だった女性陣だったったが、まぁ、やってみようとなった。
出してみるとあれよあれよと言う間に、淡い服の色が売れる。あっという間に所持していた服全部を売り切ってしまったそうだ。不良在庫が一転して、優良在庫になったのだ、"ウハウハ"だっただろう。今では濃い色の服そっちのけで、淡い色の服を作っている。それでも足りない。元々濃い色の服の染色技術はあったのだが、淡い色の服の染色技術なんて碌に研究されていなかった。作れる人は少ない。カインさんの商隊の元には染色技術を教わろうと、技術者が殺到したらしい。
ここら辺の事はカインさんから直接聞いた。男なんてこの世界では大して活躍できないと思ってたのだろう。カインさんは活々していた。前は"干からびた昆布"みたいな感じだったが、今は"ツヤツヤした昆布"みたいな感じだな。
モンスター討伐の功績、ゼウル村の人口増加の功績、商売での功績、十分だと思う。ただ、今の所、領主様からの反応はない。そんなある日、ミナお嬢様が領都から久しぶりに帰ってきた。会うのは3か月ぶりだ、元気そうで安心して、涙が出そうになったのは内緒だ。
挨拶を済ませた後、ミナお嬢様が手紙を"ピラピラ"見せびらかしながら言った。
「勝ったぞ、ユータ!」
ニヤリとお嬢様が笑った。




