19話~ミナスタシア視点~
ピクニックに行った翌日の夜、屋敷の食堂にいつも通り、3人の女性が集まって、話をしていた。
「・・・・・」
(ミナはボーっとしている。)
「「・・・・・」」
それを生暖かい目で、エレナとソフィアが見つめていた。
「・・・・・」
(ミナはボーっとしている。)
「ミナお嬢様」
エレナがミナの視線の前で手を振りながら呼びかける。
「なんだ、エレナか」
ミナが今気が付いたとばかりにエレナを見る。
「"なんだ"じゃありません。ユータとのキスを成功させてうれしいのは分かりますが、少々うかれすぎではないですか?」
「うかれてなどおらん」
ミナが反論する。
「鏡を持ってまいりましょうか?ご自身の顔をみてうかれているかどうか判断したらどうでしょう?」
「むぅ、私の顔はそんなに弛んでるか?」
ミナが自分の頬を抓りながら言う。
「ええ、弛みまくりですね。私は、いつミナお嬢様のほっぺが床に落ちないか不安なぐらいです。」
「むむ・・・」
ミナが自分の頬をムニムニした後、最後にピシャリと掌で打った。
「これでどうだ?」
「少しはましになりました。ところで・・・、ユータとのキスはどんな感じだったのですか?」
エレナは興味津々と言った感じで聞く。
「ここでそれを聞くか?」
と言いつつミナは語りだした。
「まぁ、すごいなあれは。キス自体もそうだが、キスの後もやばいな、今日もユータに朝起こして貰ったが目が合うと向こうも意識しているのが分かってなんとも照れくさい感じがするのだ」
ミナが続ける。
「お茶を入れてもらう時も、ユータの唇が気になって仕方なくて、もう一度やりたいという欲求を抑えるのが大変だったな。」
「なんですかそのムズムズ甘酸っぱい感じは、私も体験したいですよ。」
エレナが羨ましそうに言う。
「あと・・・」
ミナがエレナを無視して続ける。
「あと、何ですか?」
エレナが食い気味に相槌を打つ。
「キスの時だが、ユータの"アレ"が反応してた気がする。何と言うか、それを見た瞬間、頭がやばくなって、すごいものが込み上げてきた、やばいぞあれは」
「ドエロかっ!」
珍しくエレナがミナにツッコむ。
「キスの時にそんな所を見るなんて、ミナお嬢様は性欲の権化ですね。」
「いやいや、違うぞ、例の商人の女達も言ってただろう。キスで"アレ"が反応するようなら、発情期が近い証拠だと。それでついつい見てしまっただけだ。」
ミナが反論する。
「まぁ、そういう事にしておきますか。」
エレナが続ける。
「ステップアップしたのはおめでたいですが、ミナお嬢様にはこの程度で満足して貰っては困ります。私達の為にもしっかりとユータを落して頂かないと。」
「落とすって人聞き悪いな、私はユータの嫌がる事はしないぞ。」
「分かっています。幸いユータの方も満更ではないようですし、後は発情期が来た時にミナお嬢様にしっかりと頑張っていただきましょう。」
エレナが”パン”と手を叩きながら言った。
「・・・・・」
「・・・・・」
「ゴホン・・」
会話がひと段落して、ようやく話が出来るとばかりにソフィアが喉を鳴らしながら会話に割り込んできた。
「ところで、ミナお嬢様、本家からの手紙の内容は確認されましたか?」
「手紙?」
「今朝、早馬で届いていたでしょう?」
「あれか、どうせ定例の連絡だろう、確認は明日でいいのではないか?」
「ダメですよ、ミナお嬢様。手紙は本来受け取って直ぐ確認すべきものです。まして早馬で届けられたものならば、何か重要な連絡があるのかもしれません。」
「ふむ、分かった。すまないがエレナ執務室から手紙を持ってきてくれないか?」
ミナがエレナの方を見ながら言った。
「かしこまりました。」
エレナは一礼すると、食堂を出ていく。
「・・・・・」
「これで、宜しいですか?」
エレナが戻って来て、手紙をミナに渡しながら言う。
「うむ、ありがとう。」
手紙を受け取ると、ミナは封を開けて内容を確認しだした。
「本家と言うよりは母上からの手紙だな。今、トピカ領にお戻りになっているらしい。」
「イザベラ様がお戻りに?確か、王都で評議会のメンバーをなさってたのではなかったでしたっけ?」
エレナが言う。
「西国との戦争の後処理も終わり、喫緊の議題も無いようなので、暫く休みを頂いたそうだ。」
ミナはそう言いながら手紙を読み進めるが、その顔が段々険しくなっていく。
「・・・・・」
「ミナお嬢様?」
エレナが黙り込むミナを不思議に思い呼びかける。
「母上がここに来るらしい」
ミナがソフィアに手紙を渡しながらそう言った。
「イザベラ様がゼウル村にいらっしゃるのですか?」
エレナが聞き返す。
「そのようですね、来るのは3日後、またずいぶん急な話です。」
ソフィアが手紙を読みながら言った。
「名目上は視察となっているが、実質は別の所にあるのかもしれんな。」
「どういうことでしょう?」
エレナが再度、聞き返す。
「分からん。だが、母上がゼウル村にそれ程興味があるとは思えん、わざわざ、此方に出向くという事は別の目的があると考えてた方が良い。」
ミナが答える。
「・・・恐らくユータさんの事でしょう。」
ソフィアが厳しい顔で言った。
「ふむ、何か思い当たるところがあるのか?」
ミナがソフィアの方を向いて言った。
「私は目付役でもありますからね。ミナお嬢様とは別に本家にユータさんの事を報告させて頂きました。」
ソフィアが続ける。
「といっても、"少々、ミナお嬢様がユータさんに肩入れしすぎの所がある"と書いた程度ですが・・・」
「なるほど、母上がその事を重視したと。ありえる話だな」
ミナが続ける。
「本家からは何も反応がないので、大して問題にはしていないと思っていたが、母上は何か感じる所があったのかもしれん。」
「すいません。」
ソフィアがミナに謝る。
「謝る必要はない。それが、ソフィアの仕事だろう。まぁ、こちらの考えすぎという事もある。とりあえず、視察目的との事だ、準備せねばなるまいな」
ミナがそう言って女性たちの会話は終了した。




