1話
誤字報告ありがとうございます。まとめて適用しました。
気が付くと、狭い渓谷のような場所にいた。左右の土手はなだらかで、登るのに特に問題はなさそうだが、両側とも森が広がっているため、うかつに入ることはやめた方がいい気がした。人工物は見当たらないかったが、自然の大きい石を並べて階段のようになっている場所があったので、人の入る場所なのかもしれない。俺に関して言えば、視点は低く、手足は小さくなっているので、若返ったことだけは、わかる。川が流れていれば自分の姿を見ることができたのだが、ざっと見る限りはなさそうだった。
「あ~、あ~、あ~」
試しに声を出してみると、思ったより高い声がしてびっくりした。多分 変声期がまだなのだろうな。
いきなり、いろんなことがあったんだけど、感覚的には30分ぐらいまえまでは普通の会社の帰宅路だったんだよなぁ。それが、若返って、異世界に転移、まさに「人生何かあるかわからない」だな。というか、俺の場合、一度、人生が終わっているわけで。ん? こういう場合はなんていうんだろう。まぁ、良いか…
女神は約束を守ってくれたようで、転移と同時に持たせてくれたカバンに希望した本、十数冊とペットボトルに入った水2本とコンビニで売ってるようなおにぎりが5個入っていた。女神の話だとこの世界は地球の中世程度の文明レベルらしいんだが、ペットボトルとか、おにぎりの包装袋とか持ち込んでもいいんだろうか?なにげに、カバンは片持ちのナイロン製だし。うん、たぶんあの女神なんも考えてないんだろうな。これくらいのもので異世界の文明レベルが劇的に変わるとも思わないけど、
一応、あまり人前には出さないようにしよう。
あらためて、周りを見渡すと、やはり、人の気配はありそうにない。時間は昼ぐらいだろうか? 渓谷の中はうすぐらいが、木々の隙間から見える空は明るかった。自称女神は「生きるのに都合がいい場所を選んだ」と言った。という事はたぶん近くに町とかがあるんだろう・・・というか、あってほしい。
とりあえず、ぼーっとしてても仕方ないので、渓谷に沿って下ってみることにした。本と水の入ったカバンは地味に重く歩くのに時間がかかる。10歳に若返らせるとかいってたから、体力も相当落ち込んでてその影響も大きいのだろう。歩幅も小さい。
ちなみに、服装は上半身はサラシでまいてて、その上に江戸時代の着流しのようなものを着ている。この着物のせいでカバンを肩から掛けることができない。着物がずれてくるからだ。仕方なしにカバンは手で抱えるように持っている。
休憩を挟みながら2時間ぐらいあるいた時だろうか。何か気配がして後ろを向いた瞬間に背筋が凍り付いた。遠くに緑色のちっこい人間の子供のようなものが3人集まっているのが見えた。俺との距離は100mあるかないかぐらい。ファンタジー小説は結構読む方だから、それがすぐに何か分かった。
いや、読んでいなくても分かっただろう。それほど有名なモンスターだ。とがった耳に猿のような長い手足、それに緑色の体、間違いなくゴブリンだ。3人?ともこん棒のようなものを手に持っている。どうみても友好的な雰囲気にはなりそうにない。
(剣と魔法があるとは聞いてたけど、モンスターがいるとは聞いてないんですが)
って思ってたら、 向こうもちょうどこちらに気が付いたのか、こちらの様子を伺ってくる。野生の動物に出くわした際は目を逸らしてはいけないと聞いたことがある。野生のモンスターにあった場合はわからないが、一応、それに習い 目を逸らさずにジリジリと後退していく。うまくいくといいのだが祈りながら距離を稼ぐ。
やがて、ゴブリン達の中で結論が出たのか、1人が「ギャギャギャギャギャ」と叫ぶと同時に3人?ともこちらに向かって駆け出してきた。祈りは届かなかった。ゴブリン達は自分たちが狩る側だと認識したのだろう。その瞬間 俺はカバンを放り出して逃げ出した。
逃げ出したはいいが、野生の生物と人間では体力も筋力も差があるのか、それとも子供の体になったせいか。すぐにゴブリン達に追いつかれてしまった。幸いな事にゴブリンは俺を転ばせただけで、すぐに攻撃してこない。俺を囲んで、ギャギャギャと醜く顔を歪めて笑っている。なまじ人間に似ているから。言葉はわからないが感情が伝わってくるのがきつい。こいつらは俺の絶望の表情を見て楽しんでるのだ。
「転移してから、すぐ死ぬとかないだろうな。」
あの女神都合のいい場所とか言いながら、最初から俺をすぐ殺す気だったんじゃないのか、ぐるぐるとマイナス思考が頭の中を巡る。
やがて、笑うのに飽きたのか一人のゴブリンが、俺めがけてこん棒を振り上げた、一度目は右腕に、二度目は左足に・・・
『グシャッ…』『グシャッ…』嫌な音が2度響く。
骨を折って抵抗させなくしようとしているのだろう。実際、叩かれた腕と足は骨が折れたかもしれない。声にならない苦痛が俺を襲う。
ゴブリンが3度目のこん棒を振り上げ、もうダメかって思ったとき、振り上げた腕と首が上から切断された。
一瞬間があって、切られた個所から勢いよく血が噴き出す。
「おいっ、大丈夫か?」
その声を最後に、俺は痛みと恐怖と混乱で意識を失った。




