5.おいしい料理には気を付けて
【怪獣料理】というお店にイリスの案内の元着く。
店内の席には比較的亜人が多く座っている印象があり、人間はあまりいない。
店員の人達の中には亜人もいれば人間もいるようなので、差別意識があるわけではないらしいが……なぜここまで客層に偏りがあるんだ?
そんな、俺の疑問は店内にいる人間達の服装を見て解決した。
店内の数少ない人間の客は、全員防具を身に着けている、それも王国騎士が身に着ける鉄のフルプレートではない、なめして作られた皮装備類の物を身に着けていた。
つまりは、探索者ということだ。
ここには一般的な人間が来ないのだろうか?
という俺の疑問も、運ばれてきた料理を見て納得した。
「うわぁ……すげぇ」
「とりあえずこのお店で人気な料理を頼んでおきました」
これは一般の人間が来るわけがない、だって……料理として出てきたのはモンスターの頭や足を使用した部位なのだから。
角の生えたカエルの頭が少し大きな皿の中央に飾られていて、その周りにそのカエルの揚げられた足が盛り付けられていた。
ちなみにこのカエルの名前は、ケロックビーフ、ダンジョン探索などをしている時に序盤に出会う雑魚モンスターとして有名だが、まさか食用としても有名なカエルだったのか……。
討伐したモンスターの死骸を納品するとお金がもらえたのは、こうして食材としても使われていたからなのか……。
てっきり皮装備の足しにでもしていると思っていた。
そんな「怪獣料理」の店内は……。
元気な店員の声、おいしそうに盛り付けられた料理の数々、そしてなんといっても……値段が安い!! しかもエールまでよく冷えている!!!
結論、最高の店だな!
「かぁ! うまいなぁこのエール」
「助けていただいたお礼ですので、どんどん召し上がってくださいね」
「そうか、んじゃおっちゃんエールあと十杯おかわりー!」
「樽ごと飲み干す気ですか……」
呆れた目で見てくるイリス。
そんなイリスからの視線を受けながらも、俺はおかわりのエールをおいしく頂く。
イリスが一緒に頼んでおいた、ケロックビーフの唐揚げも一緒に食べ進めていく。
冷えたエールにカリカリに挙げられたケロックビーフの相性は最強だな。
エールとつまみをおいしそうに食べる俺を見て、イリスが尻尾を揺らしながら鼻をひくひくとさせる。
「そのお肉おいしいですか?」
「おう! うまいぜ、イリスも食べてみろよ! ほら!」
俺はイリスが頼んで食べていた、エレキサバの煮込みが乗っている皿の端にちょこんとこぶし大はあるケロックビーフの唐揚げを置く。
「それじゃあ、私のエレキサバも食べますか?」
俺がおつまみを置くと、イリスの表情がパァっと明るくなって、尻尾をより一層大きく振る。
鼻や耳も尻尾に呼応してヒクヒク、ピクピクと動いてから、俺に自分の料理を食べるかどうかを聞いてくる。
「いや、俺魚苦手だからいらない~」
「そんな事言わないで、食べてみてくださいよ~」
「え~……じゃあ、一口くれ」
イリスが一口分のエレキサバの煮込みを俺のおつまみの空き皿に乗せてくれる。
二人して一緒に分け合った料理を口に入れて、お互いの顔を明るくさせる。
「うおっ、うまい! 骨ごと食える!?」
「こ……これは、エールが欲しくなりますね」
二人して、そんな事を言うものだからおかしくなって、笑ってしまう。
ある程度食べた後、食べ過ぎたなと思った俺もイリスと一緒に料理の代金を支払おうとしたら、イリスに「私が払います!」 と出したお金を懐に戻されてしまった。
「はぁ~、いやぁ~魚って骨とかがあるから食べにくくて苦手なんだけど、このお店の魚なら食べれそうだよ」
「満足していただいたのならよかったです」
「おう! この都市を出る前にもう一回立ち寄っていくとするよ」
俺はどこか元気のないようなイリスと一緒に、今朝集合した噴水広場まで来ていた。
日が夕日になりかけているのを見た俺は、噴水から吹き上げる水を見ているイリスに声をかける。
「んじゃ、イリス、俺は宿探さなきゃいけないからさ」
「そうですか」
噴水から目を反らして、愁鬱な表情で俺の目を見てくる。
「おう! また縁があったらどっかで会おうな!」
笑顔で手を振って去っていく俺に、小さく手を振るイリス。
「いいえ……さよならです」
小さくそう呟いたイリスの声は、去っていく俺には聞こえなかった。
その日の夜。
今夜は普通の宿を見つけた俺は、ふかふかのベットに身を沈めていた。
「はぁ~、にしても本当においしいお店だったなぁ~」
お金も後少しはあるし、割と安いお店だったから、また行ってもいいかもな。
そうだ! こんど行くときは、イリスをまた誘えばいい……って、俺あいつがどこ住んでるとか知らなかったわ。
まぁ、ダンジョン教会の付近に行けばまた会えるだろう。
「ふぁ~……なんか眠いなぁ」
まぁ、もう夜だし、月に代わって太陽が寝ろよと説教を垂れる前に寝るとするいk……。
その日はいつもよりも少し早く寝静まいそうになる……きっと昨日の無茶な野宿と今日たくさん食べたことによる満腹感のせいだろう。
深い眠りへと落ちていきそうになる俺の耳に……ドアの開く音が聞こえた。
足音が徐々に大きくなっていることから、俺のいるほうに来ているのだろう。
意識が切れかかっている俺は、薄目で近づく人物を見ようとした時。
チカッと光る刃物が見えた! その瞬間……。
「ごめんなさい……」
聞きなれた声と共に、刃物を持った人物が、俺に向かってそれを刺そうと振ってきた!
「耐久上昇!!!」
ガキンッと音を立てて折れる刃物。
「えっ!?」
俺がスキルを瞬時に発動できたのはきっと、長年の探索者としての感だったのだろう。
スキルの効果によって、もともと高い俺の耐久のステータスが、さらにレベル最高のチートスキルと化した、耐久上昇の力で、俺の身体の固さを鋼以上にまで上げて見せた。
薄れる意識の中、刃物を持っていた人物の腕を掴んだ俺は……スキルの効果が残っているため、自分自身で下唇を噛んで、痛みで目を覚まさせる。
薄くぼんやりとしか映ってなかった視界がくっきりと見えるようになって、自分の手で捕まえている人物を確認する。
「イリス……これは一体どういう事なんだ?」
俺の目の前にいたのは、折れたナイフを手に持つイリスの姿だった。