4.ステータスと魔法
青空がどこまでも広がる、いい天気。
待ちゆく人々も活気に満ち溢れていて、本当にこの国は平和なんだなぁと思う。
そんなお散歩日和な日の噴水広場で、俺は鼻水をズルズルと流しながら、昨日助けた猫のビースト、通称キャットピープルのイリスを待っていた。
ブルブル震える体はきっと武者震いで、青青しい顔は冷静沈着な男の顔立ちに違いない。
いや……まぁ、分かってるよ。
あれだよな、俺がアホだったよな。
これ、どう考えても風邪だよな。
いくら金がないからって、あんなバッドステータスしか得ないような廃墟に止まった俺が悪いんだし……。
今のイースト国の季節がいくら春だからと言っても、泊まっていいはずがなかったんだ。
「はぁ……俺、よく今までダンジョン探索で死ななかったよな~」
いや……風を引いたのは、俺がスキルを使わなかったからで、ってかそもそも普通の宿に泊まっていればこんなことにはならなかったよなぁ。
身に着けている装備は雪国と言われるノース国で製造されている、極寒にも耐える装備じゃないし……。
ただのレザーアーマーだし。ってか装備のほとんどはお金を作るために、売ったから今は装備の手持ちがかなり手薄なんだよなぁ……。
俺が、噴水広場の周りにあるベンチに腰掛けて項垂れていると。
「何をそんなにがっかりしてるのですか?」
聞き覚えのある声が俺に話かけてきた。
顔を上げるとそこには、白いワンピース姿と麦わら帽子をかぶっているイリスがいた。
麦わら帽子の上から猫耳がはみ出ていて、おもしろい仕組みだな~っと思った。
ぴくぴくと揺れる猫耳とほほ笑むイリスを見ていると、なぜか心が癒される。
「いいや、別にがっかりはしてないよ」
「そうですか? あっ、鼻水出てますよ」
イリスはそういうと、懐から白いハンカチを取り出して、俺の鼻水をふき取る。
「顔色も少し悪いですね、もしかして風ですか?」
「ま、まぁ……な?」
「なんで疑問形なのですか……仕方ないですね、これも昨日助けてもらったお礼です」
イリスはそう言って、魔法を唱える。
「状態異常回復」
イリスが魔法を唱えると、先ほどまで感じていた寒気がスッと消えていく。
「風邪程度なら私でも治せますよ」
「魔法使えたのか」
「ええ、でも……主に生活魔法や回復魔法などしか使えなくて」
魔法を使えるようになるには、最低でも以下の三つの条件が必要になる。
1・ステータス欄の頭脳の値が100(ランクB)以上である事。
2・ステータス欄の魔力の値が50(ランクD)以上である事。
3・魔法に関する技術を教えてもらう師がいる事。
この三つの条件を満たした者には、魔法使いという職業を選ぶ権利を与えられる。
探索者、国家魔術師などで多数の者が活躍するということもあり、魔法を学ぼうという者は後を絶たない。
何より、魔法使いは即戦力になるということで、人間界にある四つの国と亜人界にただ一つある大国の計五か国で資金を出し合って、魔法学園を作った。
魔法学園への入試はレベルが高く、入学後も生徒達に試練を与え続けるらしい。
入学時は300はいる一学年が卒業する頃には、半分もいればいいほうだと言われる。
もちろん、その魔法学園の卒業資格を得た者は、そこいら中で引けてあまたの即戦力になる。
「じゃあ、イリスは学生なの? それとも卒業生?」
俺が、話しの流れから自然とイリスに聞くと、顔を下に向けて項垂れるイリス。
「いえ、私は落第者です……、三年生に上がるための試験で落ちてしまいました」
うわぁ……地雷踏み抜いたぁ。
「そ、そうなんだ……なんかごめんね」
「い、いえ」
お互い黙ってしまい、気まずい雰囲気に……いけない!
何か別の話題、別の話題!
「あっ、イリスは今、年いくつなの?」
「えっ? あぁ、今年で16となります」
「それなら、恩恵も授かってるんだね!」
「ええはい……」
おい、なんで下を向く。
やめろよ……せっかく話題を変えようとしたのに。
俺がそう思っていると、イリスが自分のスクロールを見せてくる。
「こちらが私のステータスです」
「えっ? 見ていいの?」
「はい、問題ないです」
スクロールは、いうなれば個人情報満載の身分証明書だから、あまり他人に見せる物でもないのだが……本人が見てもいいと言ってるのなら少し見てみるか。
俺がそう思って、イリスのスクロールを見ていくと。
イリス・グレーデンス(16)
【恩恵】『身体成長倍化』
身体的成長の度合いがとても上がる。
ステータス
力・270(ランクS)
速さ・290(ランクS)
耐久・300(ランクS)
頭脳・110(ランクA)
魔力・51(ランクD)
魔法
『生活魔法』
・乾燥魔法
・洗濯魔法
『回復魔法』
・治癒魔法
・状態異常回復魔法
スキル
『筋力増強』レベル3・常時発動スキル。
『物理耐性』レベル5・常時発動スキル
なんか……とても魔法使いのステータスじゃないような……。
「え? イリスって、魔法使いなんだよね?」
「ええと、正確には魔法使い見習いです……それに私のステータスはどう見ても」
「あぁ、剣士とか拳闘師とか向きのステータス値だよね」
なにより、この【恩恵】……。
「イリスのこの恩恵って……もしかして」
「はい、体つきが常によくなるだけの恩恵です……」
「うーん、当たりのような~、はずれのような~」
判断がしにくい、ステータス値、恩恵、スキル……。
魔法に関しても……初期魔法が4つ。
「うん、微妙だな!」
「はっきり言わないでください!」
顔を真っ赤にしたイリスに顔をひっかかれてしまった。