表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/34

嘘に根拠

「そんなの、助ければ良いだけじゃねえ?」

 待つ時間なんてないくらい。隣人は一人とは限らない。この世には、視界に収まりきらないほどの人々が生活を営んでいる。

 ″となり近所″の隣人じゃなくたって良い。その瞬間に、隣にいる人が手を差し伸べれば、心だって繋がる。

 真関さんが口笛を吹く。

「さすが間明くん。名前のすべてに日が入っているだけあるね。清々しさすら覚える、その無責任さ! 三周回って、泣けるほど好感が持てるぜ」

「……、ちり紙もサービスしてやろうか?」

「今回は辞退させていただこうかな。はなたれ小僧から受ける施しはないからね」

「こんだけ風当たりが強けりゃ、鼻も垂れるだろ」

 目覚めてから今まで、瞬間風速を更新し続けている。訳も分からぬまま、それこそ嵐の日のような、覚束ない足取りでここまで来た。

「それが、誰かにとっての追い風なんだとしたら?」

「記憶を、……自分自身を亡くすことが?」

 何を以て、俺が俺でいるのか。

 記憶は生への関心だ。喜びも痛みも、蓄積されるからこそ、より高く跳べるようになる。そうだろ?

「君の孤独もまた、君だけのものってこと!」

「……正直、理解しがたい」

「僕が知る限り、君が理解できた試しはひとつもないぜ」

「俺のこと、サンドバッグか何かだと勘違いしてねえ?」

「まさか! 中身が砂とまでは、さすがの僕も思ってないよ。例えるなら、そうだな……起き上がりこぼしとか」

「吊るされてるかどうかの違いか?」

「地に足がついてることは重要でしょ!」

 それこそ、今の俺には程遠い例えじゃないか? 世間知らず扱いを散々されてきた。地に足がついているだなんて。

「助ければいいと、簡単に言うけどさ。助けを求める人の全員が、”君”が助けたいと思う姿をしているのかな?」

「どういう……」

「例えば、塩上普哉くんとかね!」

「塩上? 誰のことだ?」

「そう、君は名前も知らないんだ。忘れてるわけじゃないぜ。知ろうとしなかった、見出だせなかった。それだけ」

「真関さんは見つけたんだろ。なら、良いじゃねえか」

 一瞬の間の後、真関さんはふっと息を吐いた。

「君、そういうとこあるよね」

 呆れた、とでも言いたげな半笑いが鼻につく。そんな態度こそが真関さんだと言えるくらいには、馴染んだやり取り。

 真関さんのことは何もわかんないけど、わかる。

「真関さんも、そういうとこあるよな」

 今まで俺は、真関さんと本当の意味で混じり合うことはなかったんだろう。それが、俺の孤独。

 失うと思うと、全部がかけがえのないもののように感じてくる。結局、どこまでも生きていたいんだ、俺は。

「究極、理解できなくたっていい。存在そのものを亡くさなければ」

 真関さんの言葉には、決意表明のような熱が帯びていた。

「また明日って笑いあって別れた次の日、親友の中身が替わってる」

 それは、さっきの俺と済が体験したことだ。

 今でも信じがたい。が、一旦受け入れると決めた。

 その上で、どうしてそんなことになっているのか。世界はずっとそうなのか?

 それなら、連続性や自己を保つ意味は?

「おかしいだろ、そんなの」

 知りたい。その、歪みを。

「君が育てた疑心。正真正銘、君が勝ち取ったすべて。君の不気味な原動力の正体を、僕に教えてよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ