愛に誠実
「諦めずに済むのか?」
「もちろん」
それならと芽生えた希望は、声には乗らなかった。
「記憶がなくなろうと、生に意味が根付かなかろうと。君を諦める理由にはならない」
続いた言葉は欲しかったものとは程遠い。
「君が起こす羽ばたきも、君が止めた歩みさえも、共有され誰かの未来に繋がっていく」
諦められるか否か。どういう意図で、問いかけられたのか。
明確になったのは、真関さんの回答が俺の望むものではないということ。
「それじゃ……嫌だ」
首を振って、真関さんの瞳を覗く。相変わらず真意はわからなかった。
「俺は″俺として″生きたい」
個人的な感情だ。心が揺れた瞬間を忘れずにいたい。たとえ何者でなかったとしても、俺が俺として存在した出来事は俺のもの。そうであれと信じたかった。たった二日間の瞬きだって手放してたまるか。
ただの願いだとしても、俺にとってはかけがえない。それはたぶん、先へ進む道しるべになってくれる。
「案外、悪くないかもしれないぜ?」
「……なんで?」
俺は真関さんと知り合って間もない。でも、その発言に違和感を抱く十分な根拠は持っている。
真関さんに導かれて、ここまで来た。
本来なら俺の記憶も、何も知らないまま書き換えられていただろう。
もうすぐ元通りになるなら、教えた意味は?
垣内の意志も。共犯だと笑った、あの時間は?
共有され、誰かの糧になる。垣内の意志は、いずれ俺にも関係してくるかもしれない。
でもそれって、ない交ぜにされて誰のものかも分からないままであるべきじゃなくて。
お互いを理解して、共感して、高め合うからこそ、糧として昇華されるんじゃないのか?
だから必要とするんだろ? 今日を生きる明確な意志が。
「君の嫌悪もあの子の苦悩も。均されれば個人で抱えなくていい」
「なんだよ、それ……」
意味わかんねえよ。
「あは、寂しいね!」
真関さんはまた、俺が苦手な表情を浮かべた。あべこべで捉えどころがわからない。距離が開いていることだけは明確だ。
「誰も彼もが、強く在れるのかな」
「それは、……別に強くなくたっていいだろ」
「傲慢だね。弱かったら誰かの助けを待たなくちゃ! これほど気が遠くなる話もないぜ」




